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「朝から、すげーもん見た。聞いてくれよ、切島!」
「どーしたんだよ、朝っぱらから」
「それがさっき、D組の椿さんと相澤先生が廊下で話してる横を通り過ぎたんだけどよ」
「別に珍しい組み合わせじゃねぇだろ」
「最後まで聞けって」
「?」
「こう、キスするみてぇに椿さんの顔に両手添えてちょっと上向かせて、顔近づて」
「・・・っ」
「これが、結構近いんだよ・・・マジがん見した」
「目に何か入ったとかじゃねぇのか?」
「教師と生徒だぞ?そんなことするか?」
「そうだよな、あの先生が・・・しねぇよな」
「だろ?!あの2人絶対なんかあるって・・なぁ轟、お前、椿さんと仲いいんだろ」
「まぁな」
「気になるだろ、うちの担任となんかあるんじゃないかってさ!」
「ガキのころからの知り合いだって、あいつが言ってたから、そうなんだろ」
「そうなんだろって、余計気になるだろ?切島もそう思うだろ?!」
「確かに、けど」
「けどじゃねぇって」
「新零が、そういう色恋沙汰はねぇって言ってんだ。余計な詮索すんなよ」
「・・・新零?」
「?」
「お前、いつから椿さんを名前呼び」
「結構、前からだよな?」
「そうだな」
「切島よく見てんな・・・ていうか、むしろ、お前と椿さん付き合ってんのか?」
「別にそういうんじゃねぇ」

余計な詮索が鬱陶しく感じ始めたところで、チャイムとほぼ同時に担任が教室に入ったため、立っていたクラスメイトは一斉に着席した。とはいえ、上鳴の話が気にならないわけじゃない。相澤先生が、その行動を起こした理由にはおそらく新零に何かしらあったからだ。思わず、担任をじっと見ていたせいかバッチリ目が合ってしまい慌てて反らした。

「それで椿さんとは、どういう関係なんだよ」
「・・・・・友達」
「それは、まだ友達ってことか?」
「・・・あんま考えたことねぇ」
「そんなことねぇだろ」
「お前、あいつのこと好きなのか?」
「そうじゃねぇよ!!もっとあるだろ、あんなかわいい女の子と仲良くして・・・そうか、そうだよな、お前の周りにはいつもかわいい女の子が寄ってくるよな。俺が悪かった」
「よくわからねぇが、別に誰とでも仲がいいわけじゃねぇからな」
「・・・・・」
「?」
「・・・俺に言って、どうすんだよ。そういうのは椿さんに言えよ」
「・・・?」

ふいに真面目な顔をした上鳴の言うことがよくわからずに1限の授業が終わった。その後、特にさっきの続きを話されることはなかった。それよりも、新零に何かあったのだろうかそれが気になった。ここでメールや電話をするより、昼休みに様子を見に行った方が自然だろう。ここ最近、ずけずけと彼女のことに立ち入り過ぎてしまった気がする。
緑谷のこと言えねぇな・・・

しかし、昼休みのチャイムの後、放送から“椿新零”の呼び出しがかかった。声は相澤先生ではなかったので、おそらく彼女の担任の声だったのだろう。緑谷たちに誘われた食堂の帰りに1人でぼんやりと職員室前の廊下を歩いた。もし会えたらなんて考えてしまったわけだが、心配しすぎなんだろうか。そもそも、俺が首を突っ込みすぎなんだろうか。

「轟」
「?」

ぼーっとしていて気付くのが遅れたが、仮眠室の扉から相澤先生が出て来ていたことに気付いて、はっとした。それと同時に扉の閉まる音がして、そっちに目をやった。

「・・・・・・はぁ」
「?」
「朝、何か俺に聞きたそうな顔してただろ」
「・・・はい」
「何だったんだ?」
「・・・新零と朝から何してたんですか」
「・・・・・・・・・おい、お前は、俺のことをなんて説明してんだ」

ガラッと勢いよく開けた扉の向こう側に立っていた新零が、驚いた顔で「別に変な説明してない!」と反論した。さっき勢いよく扉を閉めたのは新零だったのか。

「至近距離で見つめあってたって、上鳴が言ってたんで。新零の調子が悪いのかと思ったんですが」
「・・・・・」
「・・・・・」
「?」
「焦凍くん、今のは聞き方が悪いと思う」
「そうか?それで、お前はどっか悪いのか?」
「別にそういうわけじゃないよ」
「なら、いいんだが・・・」
「轟、俺からも言っておくが、俺は、こいつの指導監視役を昔からやってんだ。教師の仕事じゃなくてヒーロー側の仕事として今も継続してる。多少事情は知ってんだろ」
「はい、わかってるつもりです」
「そういうことだ。朝も、こいつの相談に乗っただけだからな。上鳴にもちゃんと言っとけ」
「消太が言い訳してるみたいに聞こえる」
「お前が冗談でもそういうこと言うからだろ」
「お前、本当に大丈夫なのか?」
「なんで?」
「顔が赤い、熱でもあるんじゃ」
「・・・・・・」
「・・・・・轟、お前のタイミングが悪かっただけだ。あんまり気にしてやるな」
「?」
「本当に、大丈夫。朝は確かに調子良くなかったかもしれないと言うか、むしろ良かったんだけど。今は、いつも通りだか・・・・?!」
「?!」
「嘘じゃねぇんだな」
「・・・・嘘じゃない」
「・・・そのくらいにしといてやれ」

ほんのり赤い気のする新零の顔に両手を添えて少しだけかがんだが、特別体調が悪いというわけではないらしい。“むしろ良かった”の意味は分からないが、本当に大丈夫なんだろう。相澤先生の声がやや引き気味なことに気付いて、ぱっと手を放した。やりすぎたのかもしれない。

「じゃぁ、なんで隠れたんだ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「?」
「じゃぁ俺は職員室戻るからな」
「え、ちょっと消太逃げるの?」
「知るか」
「話について行けねぇんだが」
「あーもう!焦凍!私、元気だしどこも悪くないから!教室戻ってお昼食べるから、じゃぁまたね!」
「お、おう」

納得いかない部分もあるが、小走りに仮眠室から出て行った新零を見送って、自分も教室に戻った。そして、教室に戻って早々に「お前と相澤先生と椿さん、仮眠室の前で修羅場だったってマジか?!」と上鳴に言われたため、何をどう修羅場なのかピンとこなかったが、否定だけはしておいた。

「仮眠室に、相澤先生と椿さんが一緒にいたってことだろ・・・・なんだよれそれ、教師と生徒だろ?仮眠室のベッドでナニしてたんだよ・・・」
「峰田、それくらいにしとけ」
「なんでだよ、それくらい考えるだろ?なぁ、とど・・・ろ・・・・き・・」
「轟、落ち着けって。何もねぇんだろ?俺もふざけて悪かったって」
「寒っ!轟くん?!教室の空気がひんやりしてきてるから!!」


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