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「これ、お母さんの?」
「それね、新零ちゃんのなの。この前、顔出してくれた時に忘れていっちゃったみたい」
「じゃぁ明日、学校で渡しておく」
「・・・そうね、ありがとう焦凍」

違和感があった。少し躊躇う様な顔をした。そうだ、自分が姉に新零の通院理由を聞いたときの、あの時の顔に似ている。本当は、あそこに置いておくべきだったんだろうか?けれど、中は薬のようだし処方された日付は昨日になっている。明日と言ったものの、帰りに寄った方がいいのかもしれない。

「・・・・・・」

さすがに中を見るのは気が引け、袋の口を縛っておいた
突然押しかけるわけにもいかず、何度か連絡を入れてみるが反応はない。ポストに入れてメールをしておけば問題ないだろうと、階段を上り始めた。雨が降っているせいか、街の中の雑音はかき消され雨音や木々のざわめきが耳によく届く。なんとなく寂し気に見える社の前を通り過ぎて、椿家のインターホンを押した。家の灯りはついているため、もしかしたらいるのかもしれない。

「どちらさん?」
「・・・轟です」
「あぁ、君が焦凍くん」
「えっと、新零のお兄さん、ですよね」
「あ、俺のこと知ってる?」
「居間にあった写真で」
「なるほど。それで、今日は?」
「これ、新零が母の病室に忘れてったみたいで。届けに。新零は?」
「わざわざありがとう、あいつ最近、薬飲むのさぼり始めたから気づいてないのかもしれん・・・ちなみに今は昼寝中」
「昼寝」
「そう、薬飲んだり飲まんかったりして不安定だったんだろうね。気持ちよさそうに寝てるけど・・・見てく?」
「そんな趣味はないので」
「なんで?めっちゃかわいいよ」
「・・・・・いや、特にそういうのは」
「けどまぁ、雷鳴り始めたし、せめて音が止まるまで上がってきなよ。饅頭余っててさ、ちょっと手伝ってよ」

確かに外は、病院を出たころより荒れていて、雷も鳴っているため少しだけ上がることにした。突然で驚いたが写真で見たよりも、ずっと真面目そうで優しい目をしているのが初対面でもよくわかる。通された居間で、タオルケットにくるまって寝ている新零を指さして、「俺の妹、めっちゃかわいい」と小声で呼ぶので傍によれば、見間違いしようがないくらい気持ちよさそうな寝顔だった。

この家、いつも饅頭余らせてんだなと、出されたそれを1つ口へ運ぶ

「で、単刀直入に聞くけど」
「はい?」
「新零の彼氏ってことでいいのか?」
「付き合った覚えも、告白した覚えもない」
「・・・はぁ、そうかー」
「あの、それはどういう意味で」
「こいつの消太さん好き知ってんだろ」
「はい」
「15歳年上の奴に妹はやりたくない」
「・・・・・」
「本人は、その気はもうないって否定してるけど。向こうはどうかわかんないだろ?」
「相澤先生からも話を聞いたことありますけど。そういうのはないと思います」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・そうか。って言われてもなぁ・・・個性上、新零にとってはいいのかもしれないけど」
「・・・・・」
「あの人、別に嫌いなわけじゃないし。むしろいい人だと思ってるけど、やっぱなぁ今、30だろ?・・・どう思う」
「俺、ですか?25で結婚しても40・・・」
「そう思うと、ちょっと微妙だろ」
「・・・そうですね」
「あの人も、もうちっときちっとすりゃぁな・・・・せめてあの無精ひげくらいなんとかしろよ」
「・・・・・」
「って、悪いな。俺のお家芸だとでも思ってくれたらいいから」
「は、はい」
「見ての通りの、妹馬鹿、シスコンは誉め言葉だと思ってる」
「・・・・・」

すっとさっきまでのコミカルな口調から真面目な声色になった

「新零の個性のこと知ってんだな」
「はい」
「さっき、焦凍くんが持ってきてくれた薬。中は見た?」
「さすがに見てません」
「・・・これ言ったら、怒られるかもしれないけど。こいつの飲んでる薬って、感情抑制剤なんだよ」
「・・・・・・・!」
「嫌悪感で個性が発動しないように薬を飲んでる。それだけならまだいい、けどその薬のせいで新零の喜怒哀楽でいうところの喜と楽も抑制されてる・・・。あげく制御装置を2つもつけて、もう何年も生活してる」
「・・・・・」
「正直、個性が発現したころの新零のことは思い出したくない・・・その話は聞いたか?」
「相澤先生が呼ばれるまでの話はなんとなく」
「・・・新零が話したか?」
「はい」
「そうか・・・焦凍くん、信用されてんだな」
「だと、いいんですけど」
「新零が、男子を家に上げるなんて相当だからな。そもそも、個性のことを話されてる時点でこいつの中では特別扱いされてたんだろうな。自信持てよ」
「・・ありがとうございます」
「俺は、あんまり君のことを知らないけど。エンデヴァーの息子で、君の母親と新零の病院が一緒だってことくらいは知ってる。君自身も色々抱えてるものがあるんだろうし、世の中見渡したら新零のことだって、俺たちが大げさにしてるだけで大したことないのかもしれない。それでも、かわいい妹ってのは特別だからさ、これは俺のわがままだと思って聞いてほしい」
「・・・・はい」
「新零が君に怪我をさせるようなことには、ないとは言い切れない。もし、そんな状況になったら絶対怪我はするな。矛盾してるかもしれないけど、大怪我はするなよ」
「・・・・・・昔、何かあったんですか?」
「察しがいいねぇ。あったんだよ・・・新零が消太さんに怪我させたこと」
「・・・・・」
「命に別状はもちろんなかったし。実際は、当たり所が悪くて気絶したのと、額が切れたせいで出血が多かったのが大怪我に見えただけなんだけど。その時、あいつかなり混乱して・・・・自分の首にナイフ突き刺そうとして、できずに泣いてたんだ」
「・・・・・」
「そんなことしてるなんて、思いもしなかっただろ?・・・新零の中に死ぬのは嫌だってのがあるし、突発なことだったから、その時は助かった。病院で目覚ました消太さんが、あいつを心配して慌てて戻ってきたから良かったけど。そっから半年は入院。そりゃぁ小2の子供が、そんなことするなんて思わないだろ?あんときは、さすがに怖かった」
「・・・・・」
「だからって、新零のこと守ってほしいだとか、過保護になれとか言ってるわけじゃない。新零はそれなりに戦闘もできるし、自衛だってできる。ただ、何か不安そうにしてたり、寂しそうにしてる時は傍にいてやってほしい・・・それだけなんだ。俺ら家族じゃ、あいつの精神的な部分をわかってやれないけど、君は新零側のことを少しは分かってやれるんじゃないかって俺は思ってる」
「・・・・・・」
「悪いな、重たい話ばっかりで。君に重しを付けたいわけじゃないんだけど。何って言ったらいいんだろうな・・・君が新零を見る表情を見て言いたくなった。・・・新零の友達は、女ばっかりで特にヒーロー科を目指すような子もいなかったし、新零も自分の個性のことは隠してたみたいだから俺も何も言えなくてさ」
「・・・・・・」
「気が向いたらでもいい、新零の友達でいてやってくれ・・・・って、顔じゃないな。焦凍くん、新零にもう惚れてるんだろ」
「そうなのかもしれない」
「・・・・いいねぇ、青臭い感じで。そういうもんは、慌てずにゆっくりが丁度いい」

その後、雷が鳴り止んでも新零は起きなかった。椿家を後にして、階段を降りながら聞いた話を思い出す。やはりあいつは重要なことをさらりと言いすぎだ。けれども、結局聞いてしまったとはいえ、あいつは言いたくないところは言っていなかった。感情抑制剤のことも、自殺紛いのことも正直言葉にならなかった。


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