05



高校生になって初めてカウンセラーのために病院に足を運んだ。体育祭が終わってから、焦凍くんの表情が豊かになったように思う。お母さんにも会ったと言っていたし、きっと色々と心情の変化があったのだろう。彼は、どんな気持ちでこの扉を開けたのかな・・・

「お久しぶりです」
「あら、新零ちゃん!久しぶりね」
「今日は、制服姿見てもらおうと思って」
「嬉しいわ、良く似合ってる。新零ちゃん、どんどん綺麗になってくわね」
「ふふっ、ありがとうございます」
「うちの子と同じ学校なのよね」
「はい、仲良くしてもらってます」
「こちらこそ息子がお世話になってます」

「この前ね、焦凍が来てくれたのよ」と嬉しそうに話してくれたことが嬉しくて、また泣きそうになった

「ありがとう新零ちゃん」
「・・・私は何も」
「そんなことないわ。新零ちゃんが顔を出してくれるたびに、焦凍の成長と重ねてたの」
「それは私もです。入院してる時、寂してくいつも母と重ねてしまって、私こそ、ありがとうございます」
「あら、お相子ね」
「はい」

笑顔が増えたように思う。お互いにこにこと世間話をして病室を後にした。スーパーに行く前に一度着替えて、階段を駆け下りた。基礎体力を鍛えるために、ズルをするのは通学時の朝だけにしている。
今日は、卵を買わないといけない・・・と、考えていると横から「新零ちゃん?」と声をかけられた。

「冬美さん!」
「新零ちゃん久しぶりね、ここのスーパーよく利用するの?」
「いつもここですよ」
「もしかして、ご近所さんだった?」
「焦凍くんが、ランニングでよくうちの神社まで来れる距離ですよ」
「そうなの?!焦凍、教えてくれたら良かったのに・・・。新零ちゃん家、神社なの?もしかして、あのすごい階段の」
「そうです、あのすごい階段の」

私の買い物かごの様子を見て、「もしかして、お夕飯1人?」と聞かれたので肯定すれば、あっという間に話は進んで、轟家の前に来ていた。前を通ったことはあるけれど、何度見ても立派な邸だ。立派な日本家屋。中も立派だったのは考えなくてもわかっていることだった。
居間と台所に案内され、生ものを冷蔵庫に入れさせてもらって、冬美さんの隣で夕食の手伝いを始めた。

「新零ちゃん、手際いいね」
「兄が大学に進学して今は実質1人暮らしなんです」
「ご両親は?」
「仕事で海外に」
「そうだったの。そう言ってくれれば、いつだって歓迎したのに」
「ありがとうございます」
「焦凍とは、どう?新零ちゃんに酷いこと言ってない?」
「全然酷いことなんて何も。最初は少し怖かったですけど、体育祭が終わってから優しい顔をするようになったなぁって。そうだ、スーパー行く前に病院で顔出してきたんです」
「お母さんに?」
「はい、すごく明るい表情されてて私もなんだか嬉しくて」
「・・・ありがとう。新零ちゃん・・きっと、焦凍にもそういうところ伝わってると思う」
「?」
「新零ちゃんは、きっと焦凍の考えてること私よりもわかってあげられるんじゃないかなって思ってたの」
「・・・・」
「私は何もしてあげられなくて、それがなんだか悔しくて今は小学校の先生してるんだけど」
「何もなんてことないと思います。冬美さんがいたから、焦凍くんは家族から孤立しなかったんじゃないですか?おばさんも、そうだと思います」
「・・・・・・」
「私も病院で冬美さんに会えて嬉しかったです」
「新零ちゃん・・・・」
「焦凍くんも、きっと感謝してます」
「ありがとう、新零ちゃん」

そんな話をしていると、焦凍くんが帰って来た。ぽかんと空いた口は、なんで私がいるのかと訴えていた。
つい先日、自分の個性を打ち明けたせいか少しだけ心が軽い。台所に戻って任された一品を作るが、どうも轟家とは味付けが違ったらしい。やっぱり家によって違うものなんだなぁと轟家の作り方を聞いていると、「新零ちゃんがうちに嫁いでくれたらいいのに」と冬美さんに言われ少し慌てたが、妹のように思ってくれているんだなぁと嬉しく思った。

正面で食べる焦凍くんの食べ方が綺麗なうえ、食事の感想もくれたことに私の中の彼の好感度が人知れず上がった

「お前も食うか?」
「いいの?」
「3個パックの普通のプリンだけどな。丁度いいだろ」
「ありがと」

洗い物を手伝って、居間のテレビの前に座ると焦凍くんがプリンとスプーンを持ってきてくれた。並んでプリンを食べるのも変な感じがする。ちらりと彼の様子を見るが、ぼんやりとテレビを見ているようだった。彼もプッチンせずに食べるんだな・・・と、ふと視線を落として、自分のプリンに視線を戻した。


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