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この展開は、何度目なんだろうかと思いつつ上鳴の話を聞いていた
今度は、少々穏やかじゃない

「職員室前で、爆豪が椿さん押し倒したところに相澤先生が止めに入ってたんだって!今度はいったい何事かと思ったわ」
「またすげぇ、状況だな。・・・爆豪のやつは、まだ教室には来てないか」
「来てねぇな、もうすぐチャイムも鳴るってのにな・・・。どうよ、轟は内心穏やかじゃない感じか?」
「少しな」
「うちのツートップに絡まれてる椿さん、いろんな意味ですげぇな」
「すげぇっていうか、大変だなって感じだろ。大体職員室前の廊下で女子を押し倒す状況って、どんなんだよ」
「だよな・・・喧嘩か?」
「その2人に接点ってあるのか?別に誰これ構わず喧嘩するような奴じゃないだろ爆豪って」
「轟は心当たりあるか?」
「少しあるが・・・相澤先生がいたなら問題ねぇだろ」

「まぁ、そうだよな」と納得した空気の中、チャイムと同時に担任と爆豪が教室に入ってきたため、上鳴が「これはなんかあったな」と呟いたのが聞こえた。おそらく昨日の戦闘訓練のことを彼女に話に行った際に、拒絶されて怒った爆豪と喧嘩になり、そこに登場した相澤先生に拒絶を抹消されて倒れこんだということだろう。なんとなく予想がつく。ギロっと効果音が付きそうな視線が自分に向けられたような気がしたが気づかないふりをした。



天気が回復したため、久しぶりのロードワークに出た
もう当然のようにルートに組み込んでいる社の階段を上がれば新零の姿があった。この時間はたいてい掃き掃除をしている気がする。

「新零」
「焦凍くん、なんだか久しぶり」
「そうだな・・・そうだ、あの戦闘訓練はなんだったんだ」
「驚いた?」
「驚いた・・・お前、あんな戦えるんだな」
「そっち?訓練だから引き受けたの。焦凍くんにも見せたかったし。それに私のテストも兼ねてたから」
「・・・・テスト?」
「うん、どの程度個性がコントロールできてるかのね。消太の提出書類に載せるんだって」
「へぇ・・・B組ともやったのか?」
「うん。全戦全勝。私の完全勝利」
「すげぇな」
「えへへ」

個性のことは褒められると嬉しいんだなと、にこにこしている新零に安心する

「爆豪と喧嘩したんだろ」
「・・・・うん。あの人、ヘドロの人でしょ?」
「お前、すげぇ嫌そうな顔だな」
「突然、突っかかって来たし肩掴もうとしてくるから反撃しそうになった」
「止められたんだろ?」
「そう、本当最悪。顔が良かったからちょっと許すけど、消太は許すまじ。他に止め方絶対あった」
「お前意外と、面食いなんだな」
「・・・焦凍くん、どんな状況だったか知ってるの?」
「職員室前で押し倒されたって聞いた」
「倒されたというか、倒れこんできたんだけどね。鼻と鼻があと5センチでぶつかるってとこ」
「これくらいか?」
「・・・・・なんで、やるの?」
「俺はどうかと思った」
「・・・・焦凍くんが、イケメンじゃなかったら世の中の男子がかわいそう」
「そうか?」
「そうだよ、もう、びっくりした。にしても、焦凍くんのオッドアイ、近くで見るとやっぱり綺麗だね」
「・・・・・・」

ここの空気は梅雨でも、カラっとしていて心地よい風が吹き込んで来る。日差しは強いが、ちょうどいい木陰に入れば十分休息ができるようだ。・・・今日は制服のままなんだな、と思っていたからか不意に口から出た言葉は新零に笑われた。

「巫女装束ってのは儀式とかがあると着るのか?」
「ふふっ、そんなに見たいの?」
「いや、1回しか見たことなかったから、なんだ・・その」
「今度、お祭りあるよ?ここで」
「へぇ・・・じゃぁそこで着るのか?」
「うーん、ちょっと違うけど。七夕祭りだから、舞とかもちょっとする」
「・・・・・お前が?」
「私が」
「・・・・」
「この階段をたくさんの人が上がってくるんだよ。だから、いつもヒーローの人呼んで、万が一に備えたりもしてるの」
「それ、俺が見に来てもいいのか?」
「もちろん。短冊とかもあるんだけど、書いてく?」

あっち、と指さされた方には笹が用意されており、すでにたくさんの短冊が下がっている。比較的近いはずの神社とはいえ、案外色々と知らないものだ。祭りなんて最後に行ったのはいつの話だろうか。

「お前は、なんて書いたんだ?」
「ヒーローの皆さんが怪我しませんように」
「自分のことじゃないのか?」
「自分のことは、自分で何とかするものでしょう?だから、神のご加護がありますようにってことを書いてる」
「・・・なるほどな」

いざ書こうと思うと書けないものだ。ペンを取ってから書き終える間に新零が掃除を終わらせていた。夏だから落ち葉も少なかったせいだ。

「あ、書けた?」
「あぁ」
「見せて」
「断る」
「え?私言ったのに」
「・・・・・」
「意地悪・・・まぁいいよ。適当なところに結んどいてね」

新零が掃除道具を片づけにいった間に結び終えて、他の願い事を眺めていると少なからずヒーローになりたい主旨の短冊が子供の字で書かれている。やっぱり憧れるよなと必死に書かれた文字を手でなぞった。



「新零、ちょっと話してもいいか?」
「ん?」
「お前のこと、どっか勘違いしてた」
「・・・・勘違い?」
「前に仮眠室でしつこく聞いちまっただろ?あれとか、色々」
「か、仮眠室の時の?あ、あれは」
「あれも、他も色々と俺は新零のことを女だからとか、事情とか、そういうの聞いて馬鹿みてぇに心配してた。自分は男だし、ヒーロー目指してるし、正直お前より力があるんだから守ってやりたいって思ってた。すげぇおこがましいだろ」
「・・・・」
「てめぇのこともできてねぇのに、男だからとか女だからとかそーいう考え方した。お前の弱いところを見て、そんなことを思ってた。戦闘訓練で魅せられて、色々考えさせられた。個性の緻密なコントロールとかもな」
「焦凍くん、大雑把だもん。すごくはねのけやすかった」
「お前こそ、炎の中よく突っ込んできたな。普通もっと躊躇するだろ」
「私は自分の個性が絶対だってわかってるから怖くなかったよ」
「本当、そういうところもすげーよお前。すごくないって言われても、それが強がりなんだとしても、そういう考え方ができるところが、俺はすごいと思う」
「・・・・・・・」
「謝りたかったんだ。自己満足になるかもしれねぇけど、お前に聞いてほしいと思った」
「・・・・」
「悪かった」

途中までずっと新零の顔を見て話していたが、少し気まずくなってそらしてしまった。反応が怖かった。やはり、本人にいう必要はなかっただろうか、これこそおこがましいんじゃないだろうか。言い切ってから返事があるまでの時間がひどく長く感じた。そっと彼女の様子をうかがえば、真面目な顔をして、でも少し驚いた顔にも見えた。ここの空気と同じように凛とそこに立っている姿に、少しだけ見るつもりが、気づくと視線を外せなくなっていた。

「いいよ。そこまで考えてくれてたの、ちょっと嬉しい」
「・・・ありがとう、それからこれも先に謝っとく」
「ん?」
「心配とかそういうのは止められそうにない」
「・・・・・?」
「ただ、さっきみたいな考え方はしねぇ。お前と対等であれるように俺も進むから」
「・・・うん!」
「・・・っ新零、その顔は」
「何?」
「眩しい」
「?」
「今、緑谷の気持ちがすごく分かった気がする」
「なんで緑谷くん?」

照れくさい気持ちでいっぱいだったが、新零が笑ってくれたことに心が穏やかに満たされるのがわかる。色恋沙汰なんてそう興味はなかったが、こうして傍にいられることを嬉しいと思うのは、きっとそういうことなのだろう。花が咲いたような笑顔というのは、今のようなものを指すんだな。

「ところで確認したいんだが、爆豪とは、その後何もないんだよな」
「うん、あれからは絡まれてないよ」
「ならいい」
「そういえば、爆豪くんの頭、見た目通り触ってもちょっとツンツンしてて、面白かった。逆なでしたのかわかんないけど、威嚇してくるハリネズミみたい」
「・・・・・」
「そうだ、焦凍くんの旋毛ってどうなってるの?」
「別に普通だろ」
「ちょっと、そこ座って!」

指差されたベンチに腰掛ければ、新零は正面から頭上をのぞき込んできた。別にたいして人と変わらない旋毛を見て何が面白んだかわからないが、興味深いとばかりに彼女は声を出した。自分では見えないがそんなに面白いことになっているんだろうか。地面を見ていた視線をふと上げて、数秒後もう一度地面に視線を戻した。胸が近い。

「もういいか?」
「うん、ありがと」


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