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「焦凍くん、本当に来てくれたんだ」
「・・・・・」
舞が終わったあとも祭りは終わりではなく、集まった人たちは屋台やお参りをするためにはけていった。適当な石の上に腰を下ろしていると隣に人が座った。視線を上げればいつも通りの新零だった。
「1人?」
「あぁ」
「たこ焼き食べる?」
「・・・・」
「・・・何かあった?・・・あ、串これ使って」
「たこ焼きなんて、久しぶりに食う気がする」
「私はたまに買い物帰りに買っちゃうかなぁ。でも、お祭りで食べるとなんか違う気がする」
「同じだろ」
「雰囲気分おいしく感じる」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・たしかにな」
「でしょう?」
「あぁ・・・」
「もっと食べていいよ?」
「いいのか?」
「うん、さっき屋台の人に色々もらっちゃったから。お茶もあげる、他のも食べる?」
新零の下げていた袋の中には、焼きそばやらカステラやら、さっき通ってきた屋台に並んでいたものが入っていた
「さっきの、すげぇ綺麗だった」
「・・・・ありがと・・・なんか面と向かって褒められると照れるね」
「個性、使ったのか?」
「使ってないよ?さすがにこの大勢いる状態で使うのは、怒られそうだもん」
「・・・・使ってないのか?」
「うん」
「そうか・・・じゃぁ俺が感じたあれは」
「?」
「お前、すげぇよ本当に」
「・・・・・」
「そりゃぁ個性だけじゃねぇよな」
「・・・よ、よくわからないけど」
「来年も来ていいか?」
「・・・・・・うん!」
「良かった」
綺麗だったの言葉しかでない自分の不器用さにため息を吐きたくなる。さすがにあの大勢の中で個性を使ったことがばれればお咎めをくらうかもしれない。知っていたからそう思ってしまったが、あの空気を作り出したのは新零自身だ。能力に頼らずに、あの場を作り出した。
「焦凍くん、私もたこ焼き食べていい?」
「あぁ・・・ん」
「・・・・ん?」
「早くしねぇと落ちるぞ」
「え?あ、うん」
次を食べるつもりで刺してあったやつを手に取って新零の口元に向けた。食べようとしないので声をかければ、慌ててそれを口に入れた。口から串をひっぱって次のそれを刺したところで、ことに気付いた。自分は今、何をした。なぜ新零が戸惑った。彼女が手を伸ばしかけた理由はなんだったか。
「わりぃ、なんか祭りの空気に飲まれた」
「うん、ちょっとびっくりした」
「・・・・何やってんだ俺」
「ふふふっ・・・」
「笑うな」
「ごめんごめん」
「・・・・・・っ」
たこ焼きに落としていた視線を上げて横にいる新零に向ければ、口の端についていたソースを指でぬぐいそれを口に運んだ。たったそれだけの動作に、どうにもドキっとしてしまった。当の本人は何を気にするでもなく、袋の中からカステラを取り出していた。
「新零ちゃん、さっきの舞、素敵だったわよ〜」
「あ、須崎のおばさんお久しぶりです、ありがとうございます」
「すごく色っぽかったわ」
「色っぽくですか?じゃぁもっと清楚にいかないとだめですね」
「そんなことないわよ。清楚さはもちろん、色っぽさも厭らしい意味じゃなくて、女性らしくなったって意味」
「ありがとうございます!!」
「それで、そちらは彼氏くん?」
「違います。学校の友達です」
「あら、あの子。轟さんのところの」
「ご存じですか?」
「そりゃぁもう、体育祭見たわよ!テレビの前できゃーきゃー言っちゃってお父さんに怒られちゃった」
「かっこいですもんね」
「本当よ!あら、そろそろ戻らないといけないわね、じゃぁ新零ちゃんがんばって」
「焦凍くん有名人だね」と再び石の上に座った新零をちらりと見て、串にさしていたたこ焼きを口に入れた。そりゃぁ友達だよなぁ。付き合いたいという気持ちはわからないが、一緒にいたいし、今のポジションを他の奴に取られたくない。今日のことも知っているのは自分だけだったらいいのにと思う。
「夏休み入ったら合宿始まるんだよね」
「あぁ、1週間強化合宿・・・何すんのか知らねぇけどな」
「メニューとか事前にもらえないんだ」
「今のところな」
「やっぱりヒーローたるもの突然のことに備えなきゃいけないもんね・・・。そうだ昼間の事件のこと知ってる?」
「木椰区のショッピングモールだろ」
「うん」
「今日、そこに緑谷たちが行ってた」
「え?」
「合宿でいるもん買いに行くとか言ってクラスの奴らが行ってたんだ」
「・・・・大丈夫だったのかな」
「特別何も連絡はねぇけど、どうだろうな。明日学校行ってみねぇとなんとも言えねぇ」
「何もないといいね・・・・ヒーロー殺しの事件もだけど雄英も襲われてるし。オールマイトが来てからかな」
「・・・・・」
「オールマイトは、やっぱりすごいね。光は人を魅了するけど、光が強ければその分、闇も深くなる」
「オールマイト、嫌いか?」
「そうじゃないよ?かっこいいと思うもん。でも、たまにあの笑顔が怖くなるかな」
「そんなこという奴、初めてだな」
「そう?あの笑顔の裏に色々あるんだろうなぁって思っちゃう」
「学校でオールマイトに会ったか?」
「見かけたことはあるよ?小さいお弁当持ってうろうろしてた。なんか、かわいい人だね」
「実習の授業で来るたびに変な登場すんだよ。あと、毎回衣装を変えて来てるみてぇ」
「まめだね。そうだよねぇ、あのオールマイトがうちの学校で先生してるんだもんなぁ」
「今更だな」
「普通科は関わり薄いからね」
「ヒーロー科への編入目指してる奴、お前のクラスにもいるか?」
「目立って言う子はいないかな。でも、ヒーロー科落ちて普通科に来てる子は多いから内心思ってるかもね・・・。焦凍くんもうかうかしてると席取られちゃうかもよ」
「?」
「あの人のクラスだし」
「?」
「あれ、知らない?消太って毎年ばんばん除籍してるし去年は全員除籍してる」
「・・・・・」
「知らなかったか・・・言っちゃまずかったかな」
「合理的虚偽ってやつじゃなかったのか?」
「見込みなかったら切り捨てられるよ・・・。私、よく切り捨てられなかったなって後からその話聞いて思ったもん」
「・・・・・クラスの奴らには黙っとく」
「うん、そのうち、そういう話でるかもね。あの人のことだからしないかな・・・どうだろう」
「・・・・・」
「そ、そうだ。焦凍くんは、クラスの友達と買い物行かなくて良かったの?」
「昼間は、見舞いに行くし、夜はお前との約束があったから断った」
「そっか。合宿の買い出しはいいの?」
「大体のもんは家にあるからな」
「さすが轟家」
「無駄に広いからな。また飯でも食いに来いよ。今度は家の中案内する」
「うん、最近、冬美さんにも会えてないから行きたい」
「クソ親父がいねぇときにな・・・そういや、お前の両親は何の仕事してんだ?」
「うちはお父さんが雨を降らす個性だから世界各国の依頼で雨を降らせに行ってる。よく生態系だったり地形の関係だったりで、どこにどう降らせば水不足を解決できるかって悩んでる」
「へぇ・・・」
「お母さんはお父さんの手伝いで一緒に行ってるよ。灯火の個性なんだけどね、狙ったところに火を付けられるの」
「世界で活動してるから家にいねぇんだな」
「うん。・・・雨を降らすって地味に思えるかもしれないけど、人が生きるために水は絶対に必要なの。飲料としてはもちろん、食料を作るためにも必要不可欠でしょ?だからね、水不足って人の争い事の発端だったりするの。お父さんたちはそれを解決するために動いてる・・・素敵でしょ」
「あぁ、そうだな・・・。お前は寂しくねぇのか?」
「・・・寂しくないって言ったら嘘になるかな。でもね、家族で一緒にいると自分が家族に心配かけすぎて嫌になるの。お兄ちゃんも自分でシスコンを公言しちゃうし。私のこと考えてくれるのは嬉しいんだけど、その分色々思っちゃって・・・家族なんだけどね」
その話をする新零の横顔がひどく寂しそうに見えた。自分は何と返したらいいんだろうか。新零に兄は俺にならこいつの気持ちがわかるんじゃないかと言われたが、正直沿える部分なんて限られている。俺の言葉では、何も意味を為さないように思う。
「そう思うのも家族だからだろ」
「・・・・・」
「俺も、お母さんをあそこから救い出してぇ・・・だから、お前の家族もそうなんだろ」
「・・・うん」