前半では森村さんの活躍により展開は一転し、イナズマジャパンは1点を取る事ができた。
イナズマジャパン対マッハタイガー。現時点では1対1の同点。まだまだ油断は出来ない。
「皆、敵を恐れるな。気合いを入れていこう!この試合、絶対勝つぞ!」
松風さんの掛け声により全体の志気が上がる。マッハタイガー側からも、「勝つのは俺たちだ」と聞こえる。当然の事、どちらも負けを譲る気なんてないんだ。握った掌にじわり、と汗が滲んだ。
【真名部視点】
試合再開のホイッスルが鳴る。
マッハタイガー選手の総合能力は事前に把握していた通り、格段に高い。マッハタイガーは再びあっという間にこちらまで向かってくる。
(…どう来るのか、分析を…)
選手の動き、視線、全てを分析すればこのディフェンスラインは守る事が出来る。理屈は簡単だ。それなのに何なんだ、マッハタイガーは。
「っ、わからない…!」
何一つ、分析なんてままならない。当然止まってくれる事などないマッハタイガー選手はこちらを突破しようとする。
「このはロール!」
森村さんの必殺技が早速発動される。見事ボールはコート外に出る。
「好葉、ナイスカット!」
キャプテンの賞賛の声が聞こえる。森村さんだけがDFではない。僕も、この場を乗り切らなければならない。ふと皆帆くんの様子を伺えば、同じ様に悩んでいるようだった。やはり、マッハタイガーは予測が難しい。
***
マッハタイガーへの突破策が見つからないまま試合は進んでいく。
「アイボリークラッシュ!」
「ワイルドダン…!」
マッハタイガーにゴール前まで追い詰められ放たれたシュートは井吹くんの予想外の場所に放たれた。あのマッハタイガーの動きを確実に分析しなければこの試合は突破できないという事か。
「…彼らの傾向と対策、掴んで見せますとも」
「ああ。次こそ分析してみせる」
ポジションに戻る途中、皆帆くんも同意する。そんなとき、皆帆くんは観客の方に目線を向けた。
「皆帆くん、どうかしましたか」
「あれは、君のお父さんとお母さんじゃないかな?」
「えっ…」
まさか。そう思い皆帆くんの目線の先に目を向ける。そこには確かによく見慣れた姿があった。
「パパ、ママ…!?どうして、 」
僕は逃げるようにこのイナズマジャパンに加入した。それなのにどうしてパパとママがこんなところに?今日連れ戻しに来たとでも言うのか。それとも、まさか僕の事が心配でもして見に来たのか。
「そんな事がある訳ありません」
あの両親が、この身を案じるような事がある訳がない。そんな、まるでありふれた温かい親子のような。
「…牧原さんのお母さんだったら、きっとこういう時だって牧原さんの事を温かく見守ってくれるのでしょうね」
「真名部くん?」
「何でもありません。そんな事より、勝利への解放を見つけ出す方が先決です。集中しましょう」
「…そうだね」
そう、今はこの試合に勝つ為集中しなければならない。けれど、集中したところで状況が変わることはなかった。
「…右です!」
ディフェンスまで攻められ、僕は何とか分析をして仲間に伝える。けれどその分析は外れ、マッハタイガーにあっさり突破されてしまった。
「そんな!」
「君の憶測が外れるとはね」
皆帆くんはそう言葉にするが、皆帆くんの憶測だって何度も外れている。それだけ、分析は不可能に近いもののように思えた。
ふと、観客の方に目を向ければ相も変わらずこちらを見るパパの姿が見えた。
「お父さんが気になる?」
「ち、違います。気にしていません」
「…真名部くん。君はお父さんに自分の事を認めてもらいたいんじゃないか」
こちらを見据えて話す皆帆くんに僕は咄嗟に「憶測だけで言わないでください」と返す。しかし皆帆くんは続ける。
「君はお父さんの事を嫌ってるんじゃない。お父さんの期待に応えられない自分が嫌いなんだ」
「っ!」
どれだけ努力してテストで100点をとっても、ただの一度だってパパは褒めてなんかくれなかった。ここは効率良く回答を導き出せばもっと。上を、更に上を。一体どこまで目指せばいいのかわからなかった。どうしたら、パパの期待に応えられる自分になれるのかわからなかった。
「あの日、牧原さんの言葉に何も言い返せなかったのは何故?」
「…牧原さん?」
「君は、たった短い間でもお母さんに愛されていたと自覚のある牧原さんが羨ましかったんだよ」
気が付けば、試合は中断していた。剣城くんとマッハタイガーの選手が衝突したらしい。周囲に皆が集まる。その中に牧原さんの姿も見えた。
「…僕は、」
「うん」
皆帆くんはただ、僕を真正面から見つめた。今まで気付くことの出来なかった事を自覚させられ、声が震えた。
「牧原さんが、羨ましかった。ほんの少しの時間、ちゃんとお母さんに愛されていた牧原さんの事が、…ただ、羨ましかったんだ」
じんわり、目頭が熱くなる。
頑張ったよ、と言ったら褒めてもらいたかった。結果が出せたら頭を撫でてほしかった。認めてくれるだけで、よかった。
「皆帆くんの言う通りですよ。僕はパパの事を嫌った事なんて一度もなかった。でも、僕はパパに」
「真名部くん。君のお父さんはずっと君を見ているよ」
「え…」
僕は思わず、パパに目線を向けた。
「君が危険なプレーに直面する度にネクタイを結び目を触っている。心配している証拠さ。どうやらお父さんは、君の事を嫌っていないようだね」
「パパ…」
パパは見ていてくれた。パパは、一度だって僕から目を逸らしたことなんてなかったんだ。
効率良く回答を導き出せ。
パパの言葉を思い出す。
(見つけ出してみせる。勝利への解放を!)
衝突した2人の手当も終わり、試合が再開する。
「皆帆くん!君と僕、お互いの予測を補い合う事が勝利への解放の近道かもしれません!」
皆帆くんに声を掛ければ、興味深そうな表情を浮かべる。
「補い合う…面白い。つまり、観察、考察分析で読み取れる事は僕が」
「データや数学的な観察は僕が引き受けます」
そうすれば、きっと。僕と皆帆くんはお互い頷き合う。
再びマッハタイガーはディフェンスに上がってくる。今度は違う。一人じゃない。目の前の相手を見据えるんだ。
「左だ!」
「左に曲がります!」
分析の結果は同じだったらしい。皆帆くんと声が重なる。
「見えました、ディフェンス方程式!」
勝利への解放が、今見えた。僕はマッハタイガーからボールを奪う。だが、マッハタイガー選手に素早くボールを奪われてしまう。
「しまった…!」
「すぐ取り返すよ。トレースプレス!」
続いて皆帆くんの必殺技が発動され、ボールは奪い返される。そのボールは瞬木くんにパスする。
瞬木はマッハタイガーのディフェンスを持ち前の俊足で回避し、剣城くんにパスを回した。
「バイシクルソード!」
剣城くんのシュートはキーパーの必殺技が発動される前に決まった。
2対2。同点に追いついた。
「皆、気を抜くな!あと一点をとろう!」
キャプテンの声が上がる。
僕と皆帆くんの分析によりイナズマジャパンの攻撃が順調に続く。
マッハタイガーを交わしながらドリブルはキャプテンに繋がれた。これで、最後だ。
「ゴッドウィンド!」
「キラーエルボー!」
キャプテンのシュートはキーパーの必殺技を破り、見事決まった。
歓声が上がり、試合終了のホイッスルが鳴る。
3対2。イナズマジャパンはこの試合に勝利した。
「見つけられたね、勝利への解放」
皆帆くんはそう言って笑う。僕は気まずく視線を逸らす。
「皆帆くん。その…ありがとう」
そう言葉にすると皆帆くんは「こちらこそだよ」と笑った。不思議と、心が軽くなった気がした。
【千草視点】
イナズマジャパン対マッハタイガー。試合は3対2、勝利で終わった。私は安堵の息を洩らした。
イナズマジャパンの皆は勝利への興奮から互いに声を掛け合っている。
「牧原さん!」
その時、名前を呼ばれる。振り向けば、そこにいたのは皆帆さんだった。皆帆さんは何時ものように笑みを浮かべている。
「どうかしましたか…?」
「いや、どうしても君に伝えたい事があるんだ。別に今この場で言わなくてもいい事かもしれないけど、言いたい事はすぐに言ってしまう性分でね」
私に伝えたい事。思わず何かしてしまっただろうか、とこれまでの事を頭の中で振り返る。だがそれは直ぐに遮られる。
「牧原さん」
突然手をそっと握られる。
「僕、君の事が好きみたいなんだ!」
まるで、時間が止まってしまったかのように感じた。周りがざわつく。
握られたままの掌に汗が滲んだのを感じた。皆帆さんの顔を見上げれば何時ものあの涼しい顔ではなくて、ほんの少しだけ頬を赤くした顔。
「あ、あの……」
心臓がばくばくと大袈裟なくらい高鳴る。つられてじわじわと熱くなる。
本当に時間が止まってしまえばいいのに、なんて考えてしまった。