「今度の日曜日、練習休みらしいから一緒に過ごさないか?」
「! うん…っ。」
ある日の練習後、隼人くんとそんな会話を交わす。隼人くんはにこりと微笑む。私も頬を緩ませ少しだけ微笑んでみせる。
「相変わらず仲、いいな。」
不意に後ろから真くんが姿を出す。にっと人懐こい笑顔を浮かべる。
「確か幼馴染みだったよな。学校も一緒なのか?」
その問いには隼人くんが答える。
「いや、学校は違うよ。俺は海王中、千草は雷門中だから。」
「へぇ…。じゃあなんでそんな仲良いんだ?」
「家が近所なの…。だから小さい頃から見知ってて…。」
「ああ…なるほど、そういうことか。」
うんうん、と真くんは頷く。
「そういえば、千草は小さい頃から大人しかったよね。それに、少しドジで。俺、今でもその頃のこと思い出せるよ。」
「お、思いださなくていいよ…っ。」
からかうような口調で今にも話しだそうとする隼人くんを止めれば、真くんはくつくつと喉を鳴らして笑う。
それから、他愛もない会話を交わす。そしてそれぞれ行動を別れた。
ーーーそういえば、と思い頭に浮かべる。
隼人くんとは小さい頃に出逢った。消極的な性格上、なかなか友達ができなかった。そんなときに隼人くんと知り合ったのだ。
あれは、何歳の頃だっただろうか。幼い私は、ある日道に迷っていた。一緒に遊ぶような子もいなくて、辺りを彷徨っていたら気づけば見知らぬ所に辿り着いてしまった。
「ふぇっ…う、ぐす…」
瞳からは絶えず涙がぽたぽたと流れ出す。ここはどこだろう、と。ちゃんと家に帰れるだろうか、と。不安で堪らなかった。通りすがるような人も疎ら。精々いても、すぐにこの場を過ぎ去ってしまう。
「帰りたい、よ…っ。」
幼い私は只泣いて、泣いて。泣くことしかできなかった。
何処に行けばいいのかなんて全く判らない。ふらふらとした足取りで一歩一歩歩く。
そんなときだった。
「ーーー君、具合でも悪いの?」
聞き覚えのない、知らない声が背後からした。私はそっと振り向く。と、そこには一人の男の子。年は近そう。
「え、えっと…。」
「ふらふらしてるし、泣いてるから。」
その男の子の言う通り、私は不安定な足取りだったし、今も泣いている。
「大丈夫だよ! 俺がついてるから!」
人懐こい笑みをにっと浮かべる。
ーーーこれが、隼人くんとの出逢いだった。
***
「へぇ、千草って言うんだね。」
「うん。」
二人で並んで歩く。
聞けば、その男の子は私のことを知っているらしい。家が近所だから、と言った。私はそんな周りまで気にしていなかったからだろう、その男の子には見覚えなんてなかった。
「俺は隼人!」
「はや、と…くん…。」
名前を復唱すれば、「うん!」と頷く。
「それにしても、何であんなところに一人でいたの? 家から遠いよね?」
「…迷っちゃったの。それにね、私…お友達、いないもん…。」
「友達…。」
私の言葉を聞いて、隼人くんは「ふぅん…。」と返事する。そして、あ!と声を上げた。
「じゃあ、今から俺が千草の友達!」
「え……隼人くんが…?」
自信満々な表情を浮かべられる。
「でも、さっき会ったばかりだよ…?」
「んー…、それはこれからたくさん遊んだりすればいいよ。…ね、千草!」
多分、人を惹きつけるような笑顔。自然と釣られて笑顔になる。
「ーーーうんっ。」
「千草ー? どうかした?」
不意に、隼人くんが私の顔を覗き込む。
今、私は隼人くんと一緒にお台場サッカーガーデンにあるショッピングモールに来ている。
「…思い出してたの。」
「何を?」
「何でもないよ。」
思い出してた、隼人くんと出逢ってたときのことを。
「ふぅん……そっか。」
短くそう答えられる。隣で歩く隼人くんの横顔。初めて逢ったときからこの表情に対する印象は変わっていない。
「そろそろ昼時だし、何か食べに行こうか。」
「うん…っ!」
すると、隼人くんは私の手を握った。
「久々に、さ。…嫌かな?」
「! 嫌じゃないよ…っ。」
私はそっと握り返す。温かい温度が伝わる。
「ははっ。懐かしいな。こうやって二人で手繋いで歩くの。」
「うん…そうだね。」
懐かしい。こうやって今でも手を繋げるのは嬉しい。私は思わず小さく笑みを零した。
「千草。」
「? うん。」
名前を呼ばれて返事をすれば、繋いでいない方の手で頬に触れられる。
「昔から、変わらないよね。」
「え……?」
「二人で過ごしたりとか、手繋いだりとか…千草がそうやって笑うのとか。」
そっと頬を撫でられる。なんとなく、くすぐったく感じてしまう。
「…隼人くんも、変わらないよ。」
「ん、そうかな?」
「うん。…いつも明るくて頼れる…私の好きな…隼人くんだよ…っ。」
そう言うと、隼人くんは頬から手を離して、自身の顔を覆った。
「…隼人くん…?」
「……そうやって面と向かって言われると結構照れるんだけど…。」
微かに見えた隼人くんの顔は赤みを帯びていた。
「俺も、」
手を離して、にこりと微笑まれる。
「千草が好きだよ。大事な幼馴染みだからな!」
そして、繋いだ手に力が加わる。私はその手を握り返した。
「うん…っ。」
繋いだ手の温もりがやけに愛しかった。