昨日、あんなことがあって、あっという間にい今日。日がたつのが早く感じてしまう。
今日は少し早く起きてしまった。
「…学校、行きたくないな」
行ったら、星降さんに会ってしまうから。
星降さんに会いたくない訳ではない、と思いたい。でもやっぱり、結局は会いたくないと思ってしまう。昨日あんなことがあったんだ。気まずいに決まってる。昨日のことはサッカー部の部員はなんとなくでも察してるんだろうし、きっと私が休んだら昨日のが原因なのだと思われるだろう。
「………」
なんとなくスマホを開く。
「ある訳、ないか」
誰からもメールはきていない。ほんの少しだけ安堵してしまう。星降さんからきたりなんかしないかな、なんて考えた私が馬鹿みたいだ。
私はスマホを閉じて、学校の準備をしようとする。
PLLLL...
「!」
私はバッとスマホを手にした。
「………なんだ、」
メールが一件、隼総くんから。失礼ながらに残念に思いながらもメールを開く。
〈お前、今日絶対学校こいよー?〉
昨日のことを思ってこんな内容を記したんだろう。
「……言われなくても行きますー」
一人で、ふてくされたような口調で言ってみる。
やっぱり学校に行ったほうがいい。そう思い私は準備の続きを始めた。
「若葉ーっ」
「!?」
部屋のドアを開けて驚く。
目の前に立っているのは美奈ちゃんだった。
「きちゃった」
「……な、なんで?」
すると美奈ちゃんは怖いぐらいに二コリと笑って、
「アンタって人はあ!!」
「ぴゃっごめんなさい!!」
急に怒鳴られ、反射的に謝ってしまった。
え……、私なにかしたっけ。
「なんでじゃないわよ!…その、喜多くんからちょっとだけ話聞いちゃった、ごめんね」
「!」
美奈ちゃんは眉を下げてこちらをうかがう。
「いいよ、そんなこと」
きっと心配してわざわざここまで来てくれたんだろう。これ以上、美奈ちゃんに心配されないように、できる限りの笑顔を作った。
でも、それは見破られてしまったらしく。
「いひゃっ」
「なーに作り笑顔なんてしてんのよ」
美奈ちゃんに、両頬をぐいーっとつねられる。
「若葉、私ね、アンタのこと嫌い」
「えっ!?」
唐突すぎる。嫌いなんて…。
「だって、たまにそうやって自分自身のこと隠そうとするんだもの」
「………?」
「まぁ、アンタは気づいてないんだろうけど。今みたいに作った表情見せて、本心を隠そうとするの。…本気で悲しんでるときとかにいっつもそうしてんのよ」
美奈ちゃんはそう言って、私の頬から手を離す。
「……ごめんね」
予想外のことを言われて、ついしゅんとなる。
「謝らないでよ」
美奈ちゃんは私の頭をくしゃり、と撫でた。
「謝んなくていいから、その代わりね。泣きたいときは泣いて、怒りたいときは怒って、笑いたいときは笑って。そうしてくれれば、私は満足だから」
一瞬だけ、私はうつむいて、そして顔をあげた。美奈ちゃんの手の上に自分の手を重ねる。
「ありがとう」
また、笑ってみせた。さっきとは違う本心からの笑顔を。
***
「あ、佐野。おはよう」
「うん、おはよう」
学校に着くと、喜多さんが挨拶してくれた。
「あ、あのさ。昨日ことなんだけど…佐野の友達に」
「話したんですよね。別に問題ないので大丈夫です。…むしろ、感謝したいぐらい」
私の言葉に喜多さんは意味のわからないとでもいった顔をした。その隣で、美奈ちゃんは笑っていた。
「…その、部活のときとか大丈夫そうか?」
気を遣ったのだろうか、喜多さんは少し声を小さくして話した。
「大丈夫です……なんて言うと嘘になります。でも、昨日のあの状況を作り出したのは私です。自分でなんとかしてみせます」
自信を込めて言えば、安心したのか、
「それなら、良かった」
と、安堵の声を出した。
「早く教室行かないと、遅刻になるわよ」
美奈ちゃんに急かされ、私は急いで教室に向かった。
授業を受けてる途中、西野空くんからメールがきた。
普通授業中にメールを送ってくるものかな西野空くん…。そう思いつつもこっそりメールを開く。
〈星降からの伝言〜。昼休みに話があるから体育館裏にこいだって〜〉
体育館裏って……リンチしか思い浮かばないけれどどうしたらいいの…!!と悶々とすれば画面の下にまだ文章が続いていることに気づきスクロールする。
〈………というのは、冗談!別に伝言なんて頼まれてないし〜〉
相変わらずの西野空くんに呆れつつもまた続きを眺める。
〈とりあえず、学校にきたみたいだからよかったよ。若葉いないとからかうのいなくてつまんないし〉
メールはそこまでだった。
これは……心配してくれてる……のか、な
でも西野空くんの事だ。これ以上考えても無駄な気がして私は授業に励んだ。
なんだかんだで、直ぐに部活時間になってしまう。
自分でなんとかしてみせますだとか喜多さんに宣言して、自分いいこと言ったかもなんて思ってたけれど、結局何も思い浮かばなかった。…ドリンク渡すときにさりげなく謝る?これが一番自然かもしれない。
「佐野ードリンクよこせー」
「相変わらずだなー」
隼総くんは気怠そうに言う。
「相変わらずってなにがだよ」
その傲慢さ。
「いえいえ、なんでも?」
素直になんて言えるはずもなく。
「ふぅん……、まぁいいけど。」
隼総くんは私からドリンクを受けると足早に木陰に向かう。
……あれが隼総くんらしさなんだろうなぁ
そんなことをしみじみと思っていると、他のみんながぞろぞろとドリンクをとりにくる。マネージャーの仕事ちゃんとしないと。私は一人一人にドリンクを渡していく。
そのときに気付く。星降さんがいない。部活にはきてるから、何処かにいるはず…そう思いながら見渡せば、案外あっさり見つかった。
「いた…」
少し離れた向こうのフェンスに寄りかかっている姿が見えた。
私は星降さんの分のドリンクを手に取る。
「うん。ちゃんとできる、やれる」
暗示のように呟いて、私は一歩踏み出した。
星降さんのもとに駆け寄る。
「……あのっ」
星降さんは私に気づいて私のほうに顔を向ける。
そして星降さんは、
「………、」
一瞬だけこちらを見たかと思えば、直ぐに視線を外した。
…やっぱり無理かもしれない。諦めかけるけれど、駄目だ。このままじゃ駄目だ。
「あ、あの、ドリンク!水分はちゃんと補給して…」
「ああ、ありがとう」
言葉を、淡々とした声に遮られた。
星降さんは奪うように私からドリンクをとった。
「私昨日のことで……っ」
「ごめん、用なら後にして」
振り絞った勇気は簡単に砕け散って。
「………」
星降さんはなにも言わず、どこかへ行ってしまう。
引き留めたい。ちゃんと話をしたい。いつもみたいに話せるようにしたい。
それなのに、私は指を伸ばすことすらできなかった.
「……あーあ、」
何をやってるの、私は。これぐらいのこと、やってみせてよ馬鹿。