そろそろ周りの風景が秋に色づいてきて、季節の変わり目だなーと思う。
が、その想いは一人の人によって簡単に崩れ去るのだった。
場所は部室。いつも通りにこにこしながら立っている監督がいる。
そしてその監督の目の前には一部除いたサッカー部部員。
「さて……本題に入ろっか!」
「………っ」
部員は全員、見るからに怯えている。
理由といえば、一つしかない。
「なんなのかなあ、この点数は」
監督がどこからか出したのは数枚の紙…基、テスト用紙。
「喜多くんと若葉ちゃんはともかくとして…他のみんなはオール赤点。……それだけ部活に熱心だったのかな」
ああ、これは完全に怒ってるなぁ…。
監督が持っているテストは数日前に行われたものだ。
敢えて叱らず笑顔で接してくるあたり余計に恐ろしい。
「えーっと、それはその。今回はたまたま勉強を少し怠っていただけで……」
安藤くんが口を出す。すると監督は
「そう……。じゃあちゃんと勉強すれば次は上手くいくってことよね。どれぐらいいけそうなのかしら!」
「………」
監督の言葉に返す言葉もないらしい。
今回のテスト上手くいって良かったと私は隅でこっそり安堵した。喜多さんの成績がいいってことはなんとなく察してたけど…。
「…とりあえず、もういいわけは聞きたくないので」
あ、いいわけって言いきった。
「今日の部活はなしにして、そのかわり勉強会をします!」
何時もだったらみんな文句でも言うところだろうけど、言わなかったのはやっぱり監督の迫力のせいなんだろうなぁ…。
「あ、若葉ちゃんと喜多くんも参加してね。みんなに勉強を教えてあげて」
「わかりました」
「は、はいっ」
正直教えるのはあまり得意ではないけれど、監督に言われてはやらない訳にはいかない。
こうして、部活ではなく勉強会がスタートした。
「……で、ここに代入して、」
「あ、なるほど。それで、この式が成り立つのか」
喜多さんは丁寧に教えている。聞くからにわかりやすそうだ。
「若葉〜、英語教えてーっ」
「あ、はーい」
西野空くんが私のもとにくる。英語は得意分野だし教えられるだろう。
「どこがわからないの?」
「動詞ってなに?」
「……えっ」
「だからぁ、動詞ってなに?なんかここに動詞の原型がどうとか書いてあるんだけどさ、動詞が何なのかわかんないんだよねー」
西野空くんは教科書を指さして言う。
予想外にも程がある。なるほどそこからですか。これは骨が折れそうだ。
「動詞っていうのは……物事の動作とかを表す……例えば遊ぶ、とか演奏するとか」
「ふーん……よくわかんない」
ああ、どこから教えたらいいの!それを私に教えてほしい!
もしかして、英語は壊滅的なのか。
「西野空くん、こんにちはって英語で言ってみて」
「………馬鹿にしてんの〜?Hello、でしょ」
見事な発音だった。
それからは、なんとか私は英語を基本中の基本を教えることに奮闘した。
「あ〜っ、つっかれたー」
一番疲れたのは私なんだけどね、と思ったのは心のうちに留めておく。
「まじでもう無理……星降はこういう日に限ってサボりだし」
「え、サボりなの……?」
そういえば星降さんがいない。
「え、なに?今までいなかったことに気づいてなかったの、星降かわいそ〜」
…言い返せないっ。
「ま、僕もたまにサボるから人のこと言えないんだけどね〜」
そもそもサボるということに抵抗はないのか君達は。
それにしても、今日は星降さん学校こないのか。残念だなーと思う。
…って、あれ?いやいや、残念って!なんで残念なんて思ったの私!
───〈若葉って星降くんの好きでしょ〉
不意に、昨日の美奈ちゃんの言葉を思い出す。
「……やっぱ、好きってこと、なのかな」
「若葉なんか言ったー?」
「な、何も!」
自然と顔が熱くなってしまう。考えるだけでこんなんじゃ星降さんに逢ったらどうなることか。
「若葉〜っ、続き教えてよ」
「う、うん、わかった」
ちゃんと切り替えないと、と私は教科書と向き合った。
そして、なんとか勉強会は無事終わり、帰ろうと校門を通ろうとしたときだった。
「佐野ーっ」
「うん?」
急に呼ばれて、反射的に反応する。
目の前に現れたのは、
「渡部くん!」
美奈ちゃんの彼氏である渡部くんだった。
「どうしたの?わざわざこんなところまで」
渡部くんは雷門中に通っている。ちなみにサッカー部だ。
「あぁ、美奈子に放課後買い物に付き合えって言われてさ。それで迎えにきた」
「そっか、多分そろそろくるんじゃないかな」
「じゃあもうちょっとここで待っとくわ」
そう言うと、渡部くんは塀に寄りかかる。
「………美奈ちゃんとは今でもうまくやってるみたいだね」
すると渡部くんはニッと笑って、
「まぁな。ま、美奈子ってたまに変に意地張るからメンドいときもあるけど、でもそういうところも含めて好きになったんだし」
「そっか」
本当にこの二人は幸せそうに笑う。前も思ったけど、この二人みたいな仲が羨ましい。
「そういえば佐野ってさ」
「うん」
「好きな人いるんだって?」
「ぶふっ」
思わず吹き出す。
「そっそれは、誰から……」
「美奈子」
「…だよねぇ…」
美奈ちゃん口軽すぎるよ。渡部くんなら口堅そうだから良かったものを。
「あ、でも誰なのかまでは知らないけど」
「そうなんだ…」
それならまだ安心できる…。
「誰なのかは知らないけど頑張れよ?応援してるからなー!」
渡部くんは快く応援してくれた。
「んー…正直頑張れる自信はないんだけど……」
手を振って、「やるだけやってみるよ」と言ってみせた。
「うーん……」
家に帰った私は無意識のうちに唸る。
改めて考えてみると、私はいつのまに星降さんを好きになってたんだろう。
最初は正直何この人だとか思ってたけど……
「……でも、なんかどうでもいいかも」
とにかく、会えたら嬉しい。
会えなかったら、話せなかったら、寂しい。
知らないうちにそんな感情で埋め尽くされていた。
「そういえば…これが初めての恋だ」
そう気づくと、なんだか無性に恥ずかしくなる。
「明日は、星降さんに会えるかな」