「お邪魔しまーす」
「はーい、いらっしゃい」
休日、美奈ちゃんと渡部くんが私の家に遊びにきた。
「へー、俺佐野の家初めてきた。綺麗にしてんだなー」
「そ、そんなことないってー」
この間なんて、キッチンに出現することで有名なあの黒い悪魔が出てきたからね。
「私は何度かきたことあるけど……本当片付いてるわね、羨ましい」
美奈ちゃんが見渡しながら言う。
「あぁ、美奈子の部屋って結構ちらかってるもんなー、意外にも…っいっでぇ!」
「あら、ごめんなさい腕が私の意思に背いて勝手に……」
「おっまえなぁ……」
今にも喧嘩でも始まりそうな感じ……だけど、案外そんな事ないのがこの二人だ。
「お、落ち着いて…とりあえず私の部屋まで案内するから……」
私は二人の間に割り込んだ。
そうして私の部屋に入った途端
「あ、そういえばさ」
渡部くんが「佐野、」と私のほうを向く。
「なに?」
「あのさ、お前って星降のことが好き……なんだよな?」
唐突にそんなことを聞かれた。
そうだと答えようとしたが、ふと疑問に思う。渡部くんて、私が好きな人いるのは知ってるけど誰なのかは知らなかったんじゃ…。
そう思ったのを察したのか、渡部くんは
「あ、ごめんな美奈子が教えてくれた」
「みっ美奈ちゃん、どこまでバラす気!?」
「いやそれはなんていうか…ね。……不可抗力よ」
そんなことを言うけど美奈ちゃんは、多分口が滑ってしまったんだと思う。
「えーっと、まぁ…そうなんだけど、それがどうかしたの?」
すると、渡部くんの表情が少しだけ曇った。
「………?」
何を話しだすんだろう。
「あー、あの、さ………俺もよくわかってないことなんだけど…それにただの噂なんだけど、」
詰まりながら言う渡部くんに、美奈ちゃんは小突いた。
「何よ、はっきりしないわね。ちゃんと言いなさいよ」
小突かれたところをさすりながら「わかったよ…」と言った。
「……その、星降のことなんだけど」
それを聞いて、胸が無意識に鼓動が速くなった。
渡部くんは、躊躇いがちに言った。
「星降って、一時期なんだけど悪い噂があったんだよ」
悪い噂。そう聞いたら私の中には物騒な発想しか思い浮かばなかった。
「……なにそれ、どんなの?」
美奈ちゃんが私よりも先に問いかける。
「あー……言ってもいいの?」
「……そんなに言いにくいようなことなの?」
「なんていうか…言いだしたのは俺なんだけど、やっぱ佐野は聞かないほうがいい、かも」
渡部くんはそう言っている。けれど、やっぱり気になってしまう。
「だ、大丈夫。とりあえず、聞かせてほしいな」
そう言うと、渡部くんはやっと話してくれた。
「星降ってさ、昔は女遊びが激しかったんだって」
その言葉に普通は驚くところだろう。でも不思議と驚かなかった。
「んー…それに関しては、その、この間女の人といるの見ちゃったし…」
「…それはそうかもしれないけど、一人の女とじゃなくて、複数の、だぞ?それでも…」
「うん…」
改めてそんなふうに言われると、つい深く考えてしまう。
確かにそうだ。私が前に見た女の人だけじゃないんだ。
それに気づくと、あまり良い気分にはならない。
星降さんが好きだから、尚更。
「若葉?」
心配したのか、美奈ちゃんが私の顔を覗き込む。
「そんなに考えないで。平気よ、だって昔のことなんだし…ね?」
美奈ちゃんが渡部くんに同意を求める。
「あ、ああ…」
渡部くんは頷く。
「ほら、ね。昔のことなら今はそんなことしてないってことでしょ?昔のことじゃなくて今を見なさい」
美奈ちゃんが、優しさを含んだ声で話す。
「ま、確かにな。…急に妙なこと話してごめんな。でも、とりあえずは美奈子の言うとおりだから」
なんだか、二人にここまで言われると私は格好悪い。
私は笑って、
「平気だよ!私、案外ポジティブなんだから!」
明るくそう言ってみせた。
それに納得したのか美奈ちゃんは
「……そう、それならいいんだけど」
と、安堵の声を出した。
そのあとはすぐに話題を切り替えて、さっきのこをには触れずに話をした。
まだ、少しの不安を抱えながら。