「あ、若葉」
朝、登校中。不意に名前を呼ばれ振り向く。そこにいたのは
「星降さん、安藤くん」
安藤くんは「はよー」と挨拶をしてくれて、星降さんは手を口に当てて欠伸をした。
「え……なんでこんな時間に?今まだ早い時間のはず…」
「ああ、俺委員会の仕事があるんだよ。星降には手伝ってもらおうと思って」
そう説明する安藤くんの横で星降さんが気だるそうな顔をした。
「本当は面倒だけどな」
「最終的にはOKしてくれたじゃん」
「やっぱメンドい」
そんな二人のやりとりを見て私は思わず笑みをこぼしてしまう。
「……なに笑ってんの」
「だ、だって〜………わっ!」
星降さんが私の頬を思い切りつねった。
「い、いひゃいっ」
「なんか腹たった」
「な、なんかって…」
ぐいぐい頬を引っ張られていると、安藤くんが「あ!」と声を上げた。
「時間に間に合わねぇ!!」
「え、時間ないの?」
「そういう訳だから行くな!」
安藤くんは走って学校へ向かって行った。
「……って、星降さん!」
「うるさい、なに」
「安藤くん行っちゃいましたよ!?委員会の仕事手伝うんじゃなかったんですか?」
そう言うと、星降さんは少し考えるの表情を見せ、そして、
「ま、いいか」
と、あっさりと言う。
「い、いいんですか……」
思わず呆れてしまう。
「じゃあ、行こうか」
「えっ、どこにですか?」
「どこって…学校しかないだろ。どうせ行くところ同じなんだし一緒に行こうってことだよ」
「え、あ……」
「なに、嫌なの」
嫌な訳がない。それどころか、むしろ嬉しい。
できれば、「一緒に行きたいです」とか素直に言えたらいいけど、さすがにそんな勇気は出なかった。
「………はい」
その一言が、今の私の限界だった。
登校中、星降さんと私は他愛もない話を続ける。
「そういえば星降さんって頭良いらしいですね」
「まぁどちらかと言えば…?でも喜多のがいいけど」
「私からしてみたらどっちも良いですよ。私、少しでも怠るとすぐ勉強したこと忘れちゃうし」
「それは別にいいと思うけど。だから若葉はちゃんと勉強してるんだし。そういうコツコツするとか俺には到底無理」
…確かに星降さんのそういう姿はなかなか想像つかない。私が「んー…」と唸ると、
「……別に想像しなくていいから」
と、きっぱり言われた。
「大丈夫です。欠片も想像できませんでしたから!」
思わず正直に言ってしまった。
「……そういえば若葉この間の体育のとき転んでたっけー」
うわあ、言い返してきた!いちいち人の恥を掘り返してくる。泣きそう。
「すぐ泣くなっての」
星降さんはそう言うと、片足で私の足を蹴った。
「いだっ!け、蹴らないでください!今の結構痛かったです!」
「…軽く蹴ったけど?」
「サッカー部のFWの軽くは一般的には軽くないんですよ」
「あー、ごめんごめん」
星降さんは相変わらず適当に謝る。
それでも、そう思いながらも、文句が言えない。今更ながら、本当に私は、
「やっぱ星降さんのこと好きなんだな…」
「え、」
すぐ横にいる星降さんは、目を見開き驚いたような表情をしている。
え、あれ、私、
思わず口に出してた?
「……あ」
この場合どうしたらいいんだろう。
星降さんは、何も言わない。多分、聞き逃しただなんてことはなかったんだ。
何も思いつかない。だって、告白まがいのことを言ってしまったんだ。
「………」
でも、このままじゃどうしようもない。改めて自分の想いを伝えればいいじゃないか。私はそう考えた。
多分、これはチャンスだと思う。
今言わなかったら、私のことだからずっと自分の想いを伝えれないままだ。
「……っあの、星降さん」
星降さんは視線をこちらに向ける。
一瞬、言うことを躊躇った。手のひらに少しだけ汗がにじんだのを感じた。
でも、言わないと。
「…私、星降さんのことが、…す、好き、なんです」
辺りが無音に感じた。
言い切った、と腰が抜けそうになる。
星降さんは、少しの間黙って、そしてはっきりとした口調で言った。
「ごめん」
その言葉を聞いて、私は何も反応しなかった。否、できなかった。
星降さんは、更に言葉を続ける。
「そんな風に想ってくれたのは嬉しい。でも、俺自身、若葉にそんな風に想ったことはない」
その言葉は、私の耳には入らなかった。
うまくいきっこない事だってある。それは十分に判っていた。判っていたはずなのに、心の奥底に不意をつかれた自分がいた。