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──「ごめん、」
星降さんは私を受け入れてはくれなかった。そんな事もあると頭の中では判っていたはずなのに、いざとなると酷く混乱してしまった。

「……別にいいですよ」
私は顔をあげて笑ってみせる。
「急に変なこと言ってごめんなさい。…さ、さっきの、は、忘れてください」
今こうしている間にも目頭が熱くなる。泣いちゃ駄目だ。今は泣いちゃ駄目。
「…若葉」
星降さんは、私に手を伸ばす。
「っあ、私、もう行きますから…」
これ以上も聞きたくなくてその手を振り払う。
「若葉!」
星降さんが私の手を強引に掴む。
「俺、は」
「…いや、です」
この場だけでも我慢するつもりが、涙が溢れだす。星降さんは手を離した。
私は早々にその場を去った。

***

泣き腫らした顔であの後授業になんて出られるはずもなく、私は校外に出てしまった。河川敷にやってきた。
「……はぁ」
思わず好きだと言ってしまって、これからどうすればいいのか全く判らなくなってしまった。次星降さんに会ったとき、何もなかったように、何時ものように接するなんて事はきっと私にはできない。
「そういえば、無断欠席しちゃった」
普段の私であればこんな事する度胸もないけれど、今はいいかな、なんて思ってしまった。
少しでも気分転換を、と考え立ち上がり河川敷をのんびり歩いていく。
そんなときだった。
「……ん?」
今、何かを踏んだ気がする。草とは違う柔らかさのある何か。
何かと思い、恐る恐る自分の足の下を見る。
「……っえ、あ、ごめんなさい!!」
私の足元にいたのは少しはねた髪の毛が特徴の男の子だった。
「いっでー…」
「本当にごめんなさい!」
ひたすら頭を下げる。
その男の子は丁度寝ていたらしく、私はそれを踏んづけてしまったらしい。
「まあこんなとこで寝てた俺も悪いし……その制服さ、アンタ天河原中?」
「あ、はい」
「へぇ、…俺は雷門中に通ってる」
「そうなんですか…。えーっと…何年生なんですか?」
同じ中学生となると、なんとなく親近感が湧いた。
「一年」
「あ、じゃあ私より年下だね」
「は?アンタ年上なの?」
「うん、私2年」
そう答えると、男の子はにやりと笑って、
「ふーん、でもアンタって先輩って感じしないですね〜」
敬語に切り替えて嫌みっぽく言われてしまう。
「そ、そんなこと…は、あるかもしれないけど」
つい、語尾が小さくなってしまう。
「ははっ、やっぱり」
事実、周囲の後輩から敬まれる事なんて一度もなかった。
「……あ、そうだ。名前なんていうんですか?」
「佐野若葉。君は?」
「佐野若葉か…。じゃあ、若葉先輩って呼んでいいで??」
「うん、もちろんいいよ。…あの、君の名前は」
「言ったらつまらなくないですか?」
「な、名前教えるのにつまらないとかないよね…?」
私の反応を面白がるかのように男の子は言う。
すると、不意に「……あ、そういえば」と男の子は言った。
「なんで泣いてたんですか?」
悪戯っぽい表情から一変して、問われた。
「…泣いてたって、そんな事ないよ」
「嘘」
私の誤魔化しは、あっさりと否定される。
「俺、丁度泣いてたとこ見てましたから嘘ついたって無駄ですよ。残念でした」
「……え」
「なに泣いてんだか、って思いながら見てた」
「…君結構ひどいね」
「べっつにー?」
男の子は私の顔を覗き込む。
「ま、話したくないんならいいんだけど」
そんなことを言いながらも、男の子は興味津々、とでもいった表情をしている。
「…聞くだけ、聞いてもらってもいい…?」
男の子はこくりと頷いた。
そして私は、順を追って話をした。

***

「はー…なんか面倒な事あったんですね」
「面倒なんて言わないでよ…」
男の子は、そんなことを言うが、話は真剣な顔つきで聞いてくれた。
「…そんなのさぁ、」
男の子は口を開く。
「まだ好きなら頑張ればいいじゃん。もしこれからその人と離れなきゃいけないとかだったら諦めることになりそうだけどさ、傍にいられる限りは頑張れるだろ?まあそこはあんた次第だけど」
…ああ、確かにその通りだ。そんな簡単な事にも気付けなかった。
「やるだけやってみる努力ぐらいすれば?」  
私はそう言われて何度も頷く。
「…ありがとう」
男の子は屈託なく笑った。