昨日は出会ったばかりの男の子に励まされ、何とかやれる事はやってみようとは思った。けれどいざ目の前にしてみると簡単にいくことではなかった。
「…あの、来週の日曜日は練習休みなので…」
「わかった」
用件だけ伝えれば、星降さんは短く返事した。
何かきっかけを作って話せるようにと思ったが案外難しかった。
きっと、私があんなことを言わなければ、きっと今頃いつものように話せていただ。
何も言わなければよかったとは思わない。ただ、この状況がただひたすらにつらかった。
「若葉、」
ベンチに座って休んでいたとき、不意に喜多さんに呼ばれる。
「はい、何かありました?」
「あぁ、別に大したことじゃないから……忙しいならいいんだけど」
「あ、大丈夫です。丁度今はすることをないですし」
そう言うと、「そうか」と言って、喜多さんは私の隣に腰かけた。
「少し、…聞きたいことなんだけど」
喜多さんはいつもとは違い、躊躇いがちに話しだそうとする。
「……あの、」
「佐野さ、」
喜多さんは、やっと話しだした。
「…何か、あったのか?」
核心をついたような台詞。けれど、喜多さんは昨日のことは知らない。
きっと、
「なんか、寂しそうだったから」
私の様子から察したんだ。
「何かあったのなら、俺でよければだけど話してくれないか?」
どうして喜多さんは、
「少しでも佐野を元気づけられたらって思うんだ。…だから頼む。俺に話してみてくれないか?」
私にそんなに優しくしてくれるのだろう。
喜多さんは、いつも優しい。サッカー部のマネージャーになったばかりのときだって、理解の遅い私に対して優しく教えてくれて、私が泣いていたときは何も言わずに傍にいてくれて。
不思議なぐらいに、優しい。こんな私なんかに優しく接してくれる。
どうしてですか。私に優しくしたって何の得も、損もない。
…どうしてこの場で、私を選んだんですか。丁度向こうにだって、シュートが上手くいかなくて困ってる後輩だっているじゃない。
「……喜多さんは、優しすぎるんですよ」
「え……?」
突然の私の言葉に、喜多さんは困惑した表情を見せた。
「そんなに優しくしないでください。私なんかに優しくして何になるって言うんですか」
「佐野、」
「どうせ優しくするなら、」
「佐野っ!」
喜多さんは、急に声を張り上げる。思わず、喜多さんの顔を見る。
喜多さんは、どこか寂しげな顔をしていた。
「……優しいだなんて、言わないでくれ」
「え……」
顔を伏せて、呟くような、か細い声で言う。
「俺は、優しくなんかないんだ……」
声が震えていたのは気のせいだろうか。
「……今だってそうだ。佐野が寂しそうなときに、敢えてこういう態度をとってさ……」
「……?」
その言葉の意味がよくわからなかった。
喜多さんは尚、言葉を続けようとした。
「…佐野、」
名前を呼ばれる。
「……俺は、佐野が」
「若葉ちゃんー?ちょっといい?」
喜多さんの言葉は遮られる。私は、監督に呼ばれた。
「…あ、あの、私呼ばれたので……」
私は短くそう言い、監督のもとへ向かった。
喜多さんは、何を話そうとしたのだろう。