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【喜多視点】
もう、後戻りはできない。

反応は予想通りだった。
「……っ」
佐野は俺の言葉を聞いて、泣きそうな顔をした。顔を俯かせて、何か言葉を探しているようだ。
別にそんなに悩まなくていいのに。はっきり言ってくれたっていいんだ。その方が、俺にとってはいい。
「……喜多さん、」
佐野が、小さな声で俺の名前を呼ぶ。それでも、俺の顔まではちゃんと見てはくれない。
そして、佐野は言った。
「…ごめん、なさい」

これでいいんだ。これで良かったんだ。
例え、今までに築かれた関係が崩れたっていい。佐野にちゃんと伝えることができて、良かった。

***

佐野のことは、マネージャーに誘うあの時よりも前から知っていた。

──「佐野若葉。おどおどしてるし泣き虫だし…でも見てて飽きないヤツ」

いつかに、星降がそう言った。その言葉で、俺は初めて佐野若葉という存在を知った。
それで、只の興味本位だけで俺は佐野をマネージャーに誘った。
そして、俺は無意識のうちに佐野を目で追うようになっていた。

──「喜多さん、ふぉーわーどってなんですか…?」
──「佐野……ふぉーわーどじゃなくてフォワード」
──「フ、フォワード、ですか…」

何気ない会話が嬉しかった。会えるだけでも嬉しかった。
俺のなかに渦巻くのはそんな単純な喜びばかりだった。

マネージャーになってサッカーのルールなんて全く知らなくて。それでも頑張ることは忘れない佐野の姿が好きになった。
たまに褒められるとはにかむように笑うその表情に、俺は恋に落ちた


あぁ、そういえば。佐野が、星降にフラれたという話を聞いた。それも、星降本人から。
まさか本人がそんなことを言い出すとは思わなかった。
なんで俺にそんなことを。
そう聞くと、星降は「お前、若葉のこと好きだろ、頑張ってみれば」と苦笑いで答えた。
いつのまに気づいていたのか。でもそれよりも俺は疑問に思うことがあった。

星降は、佐野のことが好きなんじゃなかったのか。

傍から見て、星降が佐野に見せる表情は特別に思え。た
どうして、と。でも確信がなくそんなことは聞けなかった。
きっと俺がそんなところまで関わることはできない。

今、俺にできることは、佐野の幸せを願うことぐらいだろう。