「あ、うまい」
「ほっ、ホント!?」
夕食時間、私が苦労をして作ったものを褒めてくれたのは隼総くんだ。
「うん、案外おいしいー」
隼総くんに続いて、西野空くんまで褒めてくれた。
まさかの二人の言葉に私は思わず涙をににじませた。この二人が褒めてくれるなんてもう一生ないよ…!
「本当、佐野が作った割になぁ……」
「うんうん、まぁ人って見かけによらないって言うもんねぇ」
………。そうだと思った!今度は違う意味で涙がにじんでくる。
「………ん?」
不意に思い出す。
「星降さんは……」
そういえば見当たらない。今、この場所を見渡しても星降さんはいないらしい。
「あぁ、星降なら月に還ったよ〜。どうせならちゃんと送り出しておけばよかったよねぇ」
「コラ西野空! 違うだろ!」
急に喜多さんが現れたかと思えば、西野空くんの口を塞いだ。
「星降は気分転換にって外に行っただけだよ。それで夕食はいらないとか…」
喜多さんは苦笑いして言う。
「気分転換ですか…」
とはいえ、夕食抜くのはちょっとなあ。ただでさえいつもより多くの練習をこなしたあとだ。疲れもたまるに違いない。
夕食ぐらいは食べたほうがいいと思うんだけどな…でも私が顔つっこんだって仕方ないし…。
「マネージャー、おかわりー」
「あ、はーい」
私は立ちあがって皿を受けとる。
まぁ、星降さんがなにしたって私には関係はないから、いい…よね。
………関係ない、と思ってはみたが。
「これでいいかな…」
私は夕食の残りを皿に盛りつけ、とりあえずテーブルの上においておく。やっぱり帰ってきたらお腹へってるだろうし、と考え私は星降さんの分の食事を残しておいたのだ。
「それにしても、」
遅すぎる。何がって、星降さんが帰ってくるのが。もうすぐ10時になる。
部屋には戻ってないみたいだし、気分転換にしてはやけに長い。
つい、何かあったんじゃないか、と嫌な発想ばかり浮かぶ。
「〜っ、」
…捜しにいってみよう。何もなければそれでいいんだし、こんなんじゃ本当に不安になる。
夜は冷え込むから薄手の上着を羽織り、私は外に出た。部屋の窓から見た通り、外に出ると草木が視界を埋める。ボーっとしてると道に迷ってしまいそうな程。
「星降さん、どこにいるのかな…」
私はあたりを見渡す。暗いことに目は徐々に慣れつつあるが、それでもなかなか捜すのには苦労する。
最初、旅館を出るとき、スマホを使えばいいんじゃないかとは思ったけど圏外だった。
見つからないな、と思って更に奥へ進もうとしたそのとき、
「──っ!?」
急に後ろから口を塞がれた。
突然のこの状況に混乱する。なんなのかと、恐怖感が芽生えて涙が無意識に溢れた。
声が出したくても出せない。
よくよく考えてみれば、こんな時間に一人で外に出るのは迂闊だった。なんて馬鹿なことをしたんだろう、私は。こんなの、悪いのは私じゃないか。
と、諦めたときだった。
「若葉?」
「───、」
後ろから聞こえてきた、馴染みのある声。
「こんなところで何やってんの」
「………う、」
口を塞いだ、後ろの人は星降さんだった。
「……ふぇ、」
「え、」
見ず知らずの人物ではなく、星降さんであったことに私はひどく安心した。と、同時に。
「星降さんのばかぁっ!」
「!?」
私は大泣きした。
「驚かさないでくださいよぉ…怖かったんですから〜っ」
泣きやまない私に対して、星降さんはため息をつきながらも頭を撫でた。
「本当ごめんて、びっくりするかなーと思ってやってみただけだから」
「質悪すぎです…」
もう泣き止んだ私を、星降さんは未だあやす。
「ていうかさ、若葉も若葉だよ。こんな時間に外出てさ。本当に襲われたらどうすんの」
「うぅ……ごめんなさい。でも…、」
「でも?」
私は膝を抱え込んで顔をうずめて、
「星降さんだって……」
「ん?」
「星降さんだって、こんな時間に外、いたじゃないですか」
「男を襲う野郎がどこにいるかっての。」
「星降さんは、綺麗です」
「殴るよ」
「びゃっごめんなさい!…それはともかくとして、です。あまり帰ってこないと心配、です」
顔を少しだけ上げて、星降さんの表情をうかがうと、目を見開いていた。この流れで、この発言に驚いたんだろう。
「……心配、かけた?」
「………はい」
「ん、そっか。ごめん」
なんとなく、気まずい空気が流れる。何か、話してくれないかな…。
「………」
「若葉はさ、」
星降さんが急に口を開く。
「月とか、そういうの、好き?」
「月……ですか? 好きですよ。あ、この時期だったらそろそろ満月が出ますよね。星降さんは月、好きなんですか?」
すると星降さんは、
「うん、好き」
頬を緩ませ、そう短く答えた。
「……、」
その表情を見てわかった。
本当に月が好きらしい。
「俺さ、月に行ってみたいんだ」
少しだけ笑みを浮かべて、星降さんは言った。
「いつか、さ。ここからじゃ手も届かないような…そんな月に行ってみたい」
「……それ、いいですね」
大きな夢。叶えるのは難しいけれど、
「素敵です!絶対行けますよ、私応援します!」
星降さんなら、いつか行ける気がした。
「……簡単に言うなよ」
「あ……すみません…」
「でも、」
星降さんはふい、と顔をそむけて
「ありがと、な」
呟くような小さな声で、確かにそう言った。
「若葉、帰るぞ。もう遅いから」
「はいっ」
早々に歩いていく星降さんを追っていく。
なんだか、新しい一面を知れたような気がする。
「……ちょっと嬉しいかも」
「なんか言った?」
「あ、いやなんでも!」
今度、月のこと調べてみようかな、なんて私は心の隅でそんなことを考えた。