諧謔
我の在りし日
腐乱せむ

短歌と俳句と詩
香木がむなしく光るショーケースかなしみばかりが波の花めく

触れていい?凍れる喉では言えぬからさようならとごめんなさいと

胸だ。手も這わさずに確信す。あなたに見えぬ傷口はここ。

目覚めて全て忘れて夜ねむる残らぬ日々の価値など知れるか

生命も螺子がないだけ結局は人間、機械、二進数の名

形容詞隠す酩酊恋に似て思えば酒気を嫌うわたしでしたね


325首〜330首

不埒かな神よ神よとまさに今救いを求めるわたしの瞼

教会の電飾ひかりて空虚な夜に十字架昏く聳え立ち

「世が世なら」老婆の撫ぜる洋人形神が救わず我とて焚べぬ

正気なら捨てた気でいる遠吠えに照らさぬ月魄愚かな肉塊

骨の音はじめに軋み擦れだし胸元耳よせ砕けるを待つ

己が身を焼くためだった火を見つめLove Suicideの意味遺却せん

ようこそ。広げた腕を光らせて羽とはならぬ湖の辺

黒き鳥染め抜き果てが白い羽偽り売った豚、牛、天使

贖いを叫ぶ民意がならしめる白いあなたを魔女ならしめる


316首〜324首

人の世に人のためなる法があり我は祈れり我が血の青さ

きみのこと時折取り出し眺めたり星ではないが星に似ている

散り際は惨めなものでかつてから見る影失いやっと息吐く

散り際は絵画の如き艶やかなあなたの絵の具わたしの臓腑

散り際を逃し逃して思い出す花でないこと人であること

散りゆくを永らく望み門扉開け招いた破滅人のかたちの

桜散る季節のどれほどつめたいかほら、嗅いでみて死が風薫る

あの風に擾され褪せる一片にわたしがどれだけ委ねていたいか

肉という檻を焚べよと神が説き惑う甘美さ人の本能

我が肉は死ぬため生まれたならば何故虚無の目の前足がすくむの


306首〜315首

今生に鎖とならぬは死ばかりか我が肉、血ですらただの桎梏

炭掬う箸かろきこと未知でなく骨の恐らく白き頃より

寒き日に芽吹く生ならこんなものロマンチストの君歌う呪詛

己が影見るのであれば玄冬か見上げた先の錦と吐息

どうですかそちらの土の感触は壊れた季節に死んでく椿

対岸のホーム犇く人々のうちに一人はもう足もない

小さき死招くという生殖へ自滅も嫌悪もまやかしだのに

ままごとはいつか壊れて然るべき規則と名乗る集団幻想

神さえも畏れぬという唇で神に触れたことさえもない

おしまいは望まぬ時ほど訪れる語るあなたの背に触れていた

構わない愛すことすらまぼろしで芽吹いた日々は嘘でないから


295首〜305首

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