諧謔
我の在りし日
腐乱せむ

短歌と俳句と詩
実感の伴わぬまま日が急いてかわいた風が哄笑となる

果物の網目切り裂くつま先でできぬ瘡蓋傷は癒えずに

たらたらと垂れ流されし液体が我の血なのか樹液なのかも

毬栗の針だけを折る悪趣味を理解のできぬお前が好きだ

ドラマならここが追うべき時だとは分かっていながら見送る背中

今にでも取り落としかねんその指がそれでも掴む焔のうつくしさ

生きたまま燃える街並み我が眼下夜に倣って帷を落とす

思い出す風のつめたさ暁のこれほどまでに真っ赤なことを

飛び立ちて再び降りる鳩の目のうつろなること街への警鐘

美辞麗句空に描ける脳持ちてそれでも悩む心持つ故


285首〜294首

予感する終わりの時を過ぎ生きて死骸と我に違いがあるか

繋いだ手二度と離さぬ決意をし、きっときみには伝わらないな

君はここ私はここに決まる椅子座る場所なら己で決めたい

追いかけて追いかけていたまぼろしはそれでも光る我が胸光る

世界には数多転がる不幸ですそれでもきみはここまで耐えた

あそこには書き置きめいてもうゆくとああさいごまで好きと言えずに

本当は君が目元手で覆う瞬間我はひどく冷えていた

鮮やかな花が見えぬか人々の喜び嘆き命と流血

偽りに何の意味があろうかと数多のリボン靴裏汚す

吐き出せず喉元唾液蟠る言葉であれば容易きことが


275首〜284首

どこにいる?頼む神とか仏とか踊る衆愚を流せよ洪水

悪夢から命からがら現逃げしかし地続き朝日が燃える

今すぐに終わりにしてくれなにもかも半紙で首吊り嗚咽の真似事

美談美化死体を飾る人々のうしろに見える繰り手繰り糸

吸う吐くをかろうじてするくちびるにねじ込むのなら菊にしようか

美化されし己がすがた浮遊する人の身勝手茨に唾を

肉体を捨て去ることがお望みの亡霊どもをついばむ鳥陰

たましいの近さ深さを愛というもううんざりだ喜劇に悲劇

盃を傾けたとて空ではね冬の砂音我を蝕む

天地に知るものぞなき偽りがなぜにこれほどつめたく鳴るか


265首〜274首

愛だの恋だの抜かせるくちびる或いはこころ、そのやわさ

瞬間はあれほどまでに輝いた今は実にも褪せ劣る虚

長々と口上述べて、それから?月も見えぬ夜に雪風

感傷を許せなくとも傷ついたきみのこころをきみは許せよ

言えずとも良いと結びし幼子の花恨みにただ燃ゆ

ぼくは閉じきみは問いかけあの日々もかつてのことと震えぬこころ


259首〜264首

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