02

突然響いた大きな音に屯所中がざわめく。

「なんだ、この音」
「テ、テロか!?」

―ドタドタドタ…


「なんですかィ、安眠妨害でさァ」

殆どの隊士が音のした中庭に駆け寄る。
土埃が舞う中、二つの影が確認できた。



「…っ、」
『っ痛、ん?生きてる』


視界が良くなり、見るとそこには女を抱え倒れている山崎の姿があった。

「や、山崎!…と女の子?」
隊士達が困惑している中、俺とトシと総悟が駆けつけた。




『あれ、なんで生きてんだろ』
なにがなんだか分かんなくなっている様子の少女と、

「あ、よかった、無事だね。大丈夫?」
その下にいる山崎。

何が起こったのかサッパリだ。


「オイ、ザキ!大丈夫かッ?」
とりあえず近寄ってそう聞くと山崎は"まぁ、なんとか"と言って少女を起こし、立ち上がる。


『え、ちょっ!あ、本当に大丈夫ですか?』
オロオロとしている少女に対して山崎は、
「平気、だよ。慣れてるから」
と落ち着いていて、俺の方に向かってきた。

「お騒がせしてすみません、局長」
山崎は隊服についた土埃を払った後、素早く頭を下げた。

「いや、それはいいんだが、この状況を説明してくれないか?」
それは、ここにいるほとんどの隊士が思っているはず。

「それが…俺にもよく分からないんです。その子が空から降ってきたってこと以外」


「「「「空から!?」」」

そんなやりとりがあり、皆の視線は話題の人物へと向く。

「本当にいたんだな…シータ」
土方が不意に呟いた。

いや、ラ●ュタじゃないです

「土方さん、若干気持ち悪いでさァ」

「オイ、若干ってなんだよ」
沖田の毒舌にすかさずツッコミが入る。


「シータじゃねぇなら、こいつ天人か?」
とりあえず土方の中でシータは消されたようです。

「うむ、本人に確かめてみるしかないだろ」
そう言って近藤は暦に近寄り、


君、年いくつ?
顎に手を当てて聞いた。

ちょ、待てェェェ違うだろォォォ!!なんだソレ、ナンパか?ナンパなのか?」


「いや、だってなぁトシ…」
ニヤニヤと頬を赤く染める近藤の姿はひどい。

「だってじゃねェェェ、いい年こいて何赤くなってんだよ」


あれこれしているうちに、今度は沖田が暦に話しかける。
「あんた、何者ですかィ?」
少し警戒とも取れる態度に、暦は顔をしかめた。

が、すぐにそれは消えた。

『ただの人間です。訳あって宇宙船から落ちて、そこの人にぶつかってしまったんです』
無表情で淡々と述べる姿に沖田の顔は少しひきつっていた。


『あの、本当にお騒がせしてすみませんでした。えっと、そこの"地味な"人もすみません。さらに"地味"にしてしまったのでは…。治療費でもなんでも払います』

勢いよく頭を下げ、謝罪をする。
念のためもう一度、これは謝罪です。

「え、なんか悲しくなってきたんだけど。これ謝罪だよね?」
山崎の目にうっすらと涙が。


『つかぬことをお聞きしますが、ここはどこなんでしょうか?長い間宇宙船にいたので、地上のことはさっぱりなんです』
幼い外見とは裏腹な言葉使いに皆は少し驚いているように見える。

「あぁ、ここは江戸にある真選組屯所だ」
スムーズに言った言葉だったが、暦の中ではある単語がリピートされていた。

『し、真選組っ??新鮮グミではなくて?』

「上手いこと言いますねィ、でもここは真選組でさァ」

『そ、そうなんですか』

「とりあえず、立ち話もなんだから中に入って話そうか」
暦が打ちひしがれているのをよそに近藤が提案した。

「そうだな」
『あ、はい』
と各々が同意したのを確認して近藤、土方、沖田、山崎と暦は局長室へと向かった。



「はい、どうぞ」
『ありがとうございます』
局長室に入り、しばらくして地味な人がお茶を出してくれた。


「まず、名前を教えてくれ。呼び方に困るしな」
『一条暦です』
「暦ちゃんかぁ。うん、いい名前だ」
ゴリラさんは、とても人が良さそうな笑顔で私の肩に手をおいた。

これが真選組のトップなのかぁ…と暦の心に何やら感銘が込み上げてきた。

「ところで、宇宙船から落ちたって言ってやしたが、それまた奇妙な話ですねィ」
口を出してきたのは、部屋の隅に座っているハニーフェイスくん。
以後ハニーくんと呼ぼうと勝手に決める。

『はい。ちょっとその宇宙船でアルバイトしていたんですが、上司と喧嘩しまして飛び降りました


いやいやいや、それそんなサラッと言うことじゃないからね?」
地味な人はここぞ!とばかりにツッこむ。


『そうですか?別に死にたいとかじゃなかったんですよ?どちらかと言うと逃げたかったの方が正しいです』

"その上司、とても怖くて。"と付け足すと、"どんな上司だよ!"と返された。
この話を信じていないらしい。



「そうかぁ、大変だったなぁ。」
一人を除いて。

『えぇ、もう苦しくて苦しくて…。少しだけ意見しただけなんです。なのに…』
折角なのでゴリラさんにのってみることにした。
ホロリと涙をチラツかせ、悲劇のヒロインになりきる。

「行く宛はあるのかい?」
ほか三人の冷たい視線を感じるが、事を円滑に済ますには仕方がない。

『ありません。今から探そうかと…』
そう、今から必死で探さねばならない。
何より、一刻も早く屯所から出たい。

「そうか。だが、今からと言っても難しいだろう」

確かにそうだ。
どうしようか。江戸の知り合いなんてロクな奴がいない。

ゴリラさんはうーん、と唸り、しばらくして手をたたいた。
「そうだ!暦ちゃん!」
『な、なんですか?』
急にザッと立ち上がり大声を出すものだから、少し身を構えてしまった。


ここの女中やらない?


『「「「……え?」」」』
突然の提案にゴリラさん以外は驚いた。


「ちょ、何言ってやがる近藤さん!こいつの素性もわかってねぇのに」
瞳孔をさらに広げた黒髪の人が負けじと大きな声を出す。

「確かにねィ。天人かもしれやせんぜ」
ハニーくんも警戒心丸出しだ。

地味さんは何も口に出さず、私を探っているようだ。

「いや、アルバイト辞めてきたって言うし、ちょうどいいじゃないか」

そういや、真選組の女中って他に比べれば給料が高かったような。

どうすっかな…お金欲しいし
謹慎な事を考えていると、ゴリラさんが私の目の前に立った。

「こんな綺麗な目をしているんだぞ。嘘を言っているとは思えん!しかもまだ、十代だろう」
『はい、17です』
事実、私は嘘は言っていない。
"綺麗な目"だなんて…照れるな。

「17ですかィ、俺より下ですねィ」
「仕方ねぇ、何かやらかしたらすぐに辞めてもらうからな」
黒髪さんも承諾したようです。
「よし、暦ちゃん。ここで働いてくれるかい?」
『…はい、よろこんで』

結局女中になることにした。
だって給料高いし、ゴリラさんはお父さんみたいに優いし。

「そうと決まれば、とっつぁんに報告しなきゃな」
女中服の注文も、とウキウキなゴリラさん。

「そういや、自己紹介するの忘れてたな。俺ァ、真選組局長 近藤 勲だ!お父さんって呼んでもいいぞ」
「近藤さん、気色悪いですぜィ」

『はーい、お父さん
「テメェもノるんじゃねぇ!」
いいじゃないか別に。
家族設定楽しいじゃん。


「はぁ、副長の土方十四郎だ」
たばこに火をつけながらボソリと言われた。
素直じゃないな、この人。

本物の副長の沖田総悟でィ。よろしく頼みまさァ」
『はい、よろしくお願いします』

「誰が副長だァ、テメェ刀抜きやがれ!」

ものすごい形相で沖田さんを追いかける姿は、まさに鬼の副長です。
あの二人が部屋から出て行くと、妙に静かになる。



すると、地味さんが口を開いた。
「あの、山崎です。よろしく」
『あっ、よろしくお願いします。そういえば、お怪我大丈夫ですか?』
「あ、うん。大丈夫だよ」



「ザキ、ちょっと暦ちゃん頼む。俺ァとっつぁんに電話してくる」
「はい、わかりました」
くつろいでいいからね、と私に言って近藤さんも出て行った。


山崎さんとこれまた微妙な空気が流れる。
「よくわかったね、俺が怪我してるって」

『え?』
急に発せられた言葉に反応が遅れる。

「おそらく今の時点で俺が怪我をしてるだなんて分かったの、君だけだよ。副長ですら気づいてなかった」
『いえ、それは。ぶつかった本人ですもの、分かって当然です』
「そう」

あぁ、この感覚は。
山崎さんはきっと監察だな。
探られる感じが気持ち悪い。

『あの、もうやめません?腹の探り合い』
そう言うと、山崎さんの目がピクリと動いた。
「そうだね、やめよっか」
少しだけ部屋の空気が良くなった気がする。

『すみません、ああいうの苦手なんで。ムカムカしてくると言うかなんと言うか…』
「そうだよね、探られて気分悪くしない人はいないよね。でもそれに気づける人と気づけない人がいるけど。で、一条さんはどうして落ちてきたわけ?」

『さっき言ったことは本当。情報屋かつ忍のバイトしてたってとこ』
山崎さんにはそういう系だとバレているだろうから、本当のことを言った。

「喧嘩して飛び降りるなんて、相当だよね」
『人使いの荒い上司だったんだから仕方ないじゃないスか』
「うちもひどいよ」
山崎さんにはなんとも言えない負のオーラ。
相当苦労してるな。

『監察とか忍者って大変ですよねー、本当に』
「そうだね、でも俺は好きだよ」
『なんスかソレ。告白ですか』
俺は監察一筋!みたいな。

「なんか第一印象と違うんだけど一条」

気のせいだから

「局長とかがいるときは、丁寧な言葉だったのに」
猫かぶるの上手いね、と嫌みったらしく言う。

『忍とか観察なんてそんなもんでしょ』
「あはっ、そうだね」

「これからよろしく、一条」
何やらどや顔で差し出された言葉と右手に
『何かあったらいつでも手伝います、ザキさん』
私は唇をくいと上げて応えた。
どうやら、ザキさんとは上手くやっていけそうです。







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