03


「暦ちゃーん、醤油持ってきてくれー!」
『はーい、今持って行きます』

朝、忙しい時間帯。
ようやく女中の仕事にも慣れてきて、スムーズにこなせるようになった。

『はい、どうぞ。ハゲ田隊長!』
「んなっ、原田だ!わざとか?オイッ」
『そうでしたっけー?すみませーん』
隊士の人たちともすっかり打ち解けて、冗談も言い合う仲だ。


ただ、一つだけ慣れないものがある。

「オイ、一条!マヨ足んねぇぞ」
『…………』
無言で土方さんにマヨネーズを渡す。
「ありがとよ」

ぶちゅ〜…


『…ぉぇ、気持ち悪っ』
ボソッと土方さんから離れながら、今の気持ちを素直に呟いた。
幸い、本人は聞いてなかったらしい。


『あ、そういや忘れてた』
急いで台所を出て、沖田さんの部屋へ向かう。

『沖田さん、朝ですよ。起きてくださーい』
この間、近藤さんに頼まれた仕事のひとつに、毎朝沖田さんを起こすというものがあった。
なんでも彼は寝起きが物凄く悪いらしい。

『だから、朝だって言ってんだろ!この、ドSゥゥゥゥ!
同時に敷き布団を引っ張り、無理矢理沖田さんを目覚めさせる。
もうこれは毎日のように行っていると思う。

「完全にオメェがSじゃねぇかィ。…おはよーごぜーやす」
『おはようございます。早く片づけたいんで、朝ご飯食べちゃってくださいね』
さぁ、次は洗濯機を回さなくては!

気づいていると思うが、初めの丁寧な言葉使いなんて二日で崩れた。
ここでやっていくには、上品さなんてこれっぽっちも必要ない。
むしろド根性が必要だ。
しかも今、女中は私一人。
前の女中は辞めてしまい、隊士で分担してなんとかなっていたらしいが、ひどい有り様だった。

『どこをどうしたら、流し台にカビが生えるんだよ』
一人グチをこぼしながらズンズンと歩く姿は、もはや女じゃないと思う。
いや、前から女らしくはなかったけれど。


「一条!」
朝食の片づけも終わり、洗濯物を干していると、聞き慣れた声が私を呼んだ。

『あ、ザキさん。……ミントンすか?』
「お、よく分かったね。流石」
そりゃあ、その尋常じゃない汗と手に持っているラケットで安易に予測できます。
もう、洞察力とかの問題じゃないです。

『また土方さんに怒られますよー。そろそろ来るだろうし』

「……山崎ィ!!!テメェ、またサボってやがんのかァァァァ」
「わ、一条、もっと早く言ってよ」
『それくらい自分で気づいてくださーい』
土方さんから必死に逃げるザキさんは、私に悪態をつきながら猛ダッシュで走って行った。

『ザキさん、ご愁傷様です』






屯所内も人が少なくなり、大分落ち着いてきたお昼。
『あ、マヨがない』
先日箱で買ったばかりのマヨネーズがあと一本になっていることに気づいた。
『はぁ、どんだけ消費してんの。買いに行くのめんどくさ…』
とは言うものの、買いに行かなかったら大変なことになるので、仕方なく行くことにした。
もちろん、大江戸スーパーに。



「ありがとうございましたー」
大江戸スーパーの前。
大きな段ボール箱を二箱抱えて歩く私。
周囲の目が痛い。
突き刺さってるよ、私のハートにィィイ!!

まぁ、別に重くはないんだけどね。
女の子としてどうなのかな?とか思っちゃう訳だよ、うん。

トボトボと帰っている途中。
突然声をかけられた。

「大丈夫ですか?僕、持ちますよ?」
メガネ君、君は天使だ!
『え、でも悪いですよ』
「いーのいーの、お嬢ちゃん。俺ら、万事屋だから」
一緒にいた銀色の髪の人も手伝ってくれるようだ。

「何アルカ、お前等。今更好感度アップさせようとしたって無駄ネ!」
やたら反抗期なチャイナちゃんとそのペット?もおそらくは万事屋なのだろう。



『あ、ありがとうございます。とても助かりました』
「いーえ。またなんかあったら言えや。一応万事屋だし」
『はい。ではまた』
第一印象は良く!がモットーな私はここでも猫かぶりまくりです。
屯所までの帰り道は、万事屋の皆さんがとても面白い話をしてくれたので退屈はしなかった。
私が真選組の女中をやっている、と言うと即刻辞めなさいと言われたけど。

ちなみに銀髪の人が坂田銀時さん。
通称銀さんらしい。

メガネの少年は志村新一くん。
あれ?新七だったっけ?新八だったっけ?
まぁ、いいや。

チャイナの女の子は神楽ちゃん。
なんかどっかで見たことがあるような、ないような。
気のせいだ、うん。


『よっこいしょ…。ただいま帰りましたー』
マヨネーズを抱え、台所へと向かう。

「遅かったね」
ひょこ、と顔を覗かせたのはザキさんだった。
『あんの、マヨラーのマヨのせいだ
「ちょ、聞いてたらどうすんの」
やべ、どうしよ。

「あ、洗濯物取り込んでおいたからね」
『お、さすが気が利くー。ありがとうございます』

ザキさん、きっと将来いいお嫁さんになるよ。
なんて考えつつ、ふとあることに気づいた。


『ザキさん、今から任務ですか?』
「あ、うん」
『だから隊服じゃないんスね』
ザキさんは私服のような格好をしていて、脇には刀を差している。

『潜入捜査かなんかですか?』
「そう。天雷党とか言う攘夷派のところに」
『天雷党……、確かあそこのアジトはとても複雑で、下手に行動しない方がいいらしいですよ』
たいていの攘夷派の情報は以前収集していたため、ある程度分かる。

「それは面倒だな。わかった、気をつけるよ。じゃ」
『いってらっしゃい』
ザキさんが私に任務の話をしたということは、その一派の情報が少なかったのかもしれない。
…もっと教えてあげればよかったかな。
まぁ、ザキさんならなんとかなるだろ。
ちょっと気になりつつも、夕飯の支度を始めた。
また、たくさん作らなきゃ。
あぁ、めんどくさい。








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