放たれたボールがリングに飲み込まれたのを確認し、私は手元のスコアボードに背番号と斜線を引く。隣に座るコーチは「そう、今はフィールドゴールとフリースローしかないから簡単だとは思うけど、スリーポイント入るとややこしいぞぉ」と口角を上げる。その間にまた一回ゴールが決まり、私は淡々とスコアを記録していく。

「どう…できそう?」
「はい。結構楽しいです、これ」
「ほんと?ならよかった」

スコアボードの記入は試合を俯瞰で見つめているような感じがして面白い。コーチに聞いてみて本当に良かった。

今日は久しぶりにミニバスの練習を見にくることができた。今は練習終わりのミニゲーム中。何かしたいと思っていた私は勇気を出してコーチにスコアボードの取り方を聞いてみて、軽く書き方を教わってから実戦に挑んでみたのだが、これがなかなか覚えることがたくさんあって楽しい。この歳になっても新たに知ることはたくさんあるみたいだ。

「じゃあ、とりあえずスコアボードは任せちゃおうかな。俺以外に取れる人がいないから助かるよ」
「はい、大丈夫です」

コーチはにこりと微笑んでコートの方に向かっていく。その間に再度得点を告げるホイッスルの音。また背番号4番…幸男くんだ。

「すごい…」

スコアボードを見ると殆どが幸男くんの得点だ。試合を見ていると殆どがスリーポイントラインからのシュートで、ミニバスでなかったらもっと沢山の得点を出しているはず。私が知らないうちに彼はさらなる成長をしていたらしい。

試合が終了するとコーチがスコアボードの確認をしてくれる。その間に私はタオルとドリンクを持って「お疲れ様」と声をかけながらみんなに配り回った。

「はい、幸男くんおまたせ。お疲れ様」
「おう、ありがとな」

幸男くんと少し話したかった私はわざと彼を一番最後にしていた。幸男くんはドリンクを口に含むと小さく「うめえ」と呟いてくれる。頑張って作った甲斐があるってものだ。

「なんだ、お前が来るのは久しぶりだが、マネージャー姿が板についてんな」
「ほんと?幸男くんもキャプテン姿板についてるよ」
「やめろ恥ずかしいだろ」

幸男くんの褒め言葉に対する照れ隠しで褒め返すと、彼は耳まで赤くしてタオルで表情を隠した。彼のPGとしての資質はすごく高い、とコーチが言っていた。難しいことはよくわからないけれど、周囲をまとめ上げるキャプテンシーと、努力に裏付けされたプレイに隙がない…って。ただ少し緊張しぃなのは問題だけど…とも。

「本当にすごいね、幸男くん」
「褒めても何も出てこねえぞ」
「あ、そうなの?じゃあやめようかな…」
「お前なぁ…」
「冗談だよ」

そんな軽口を言い合ってるとコーチに名前を呼ばれる。間延びをする返事をして「ちょっといってくる」と幸男くんに断りを入れてコーチに駆け寄る。

「ふっふっふー。お邪魔だったかなぁ?」
「安心してください、コーチの無粋な詮索は全く無意味なので」
「うわぁ…辛辣だぞ〜?」
「はいはい。で、どうでした?」
「うん、初めてなのにこれはすごいよ。みょうじさんは覚えがいいねえ」
「そうですか…!よかった!」

コーチはスコアボードにサインすると私に差し出してくる。「初スコアボードの記念にどうぞ」と、どうやらいただけるらしい。まだ少し迷いがある筆跡だったが、100点のテストが返ってきたようでなんだかむず痒い。いずれもっとうまく書けるようになれたらいいなぁ。

「こんだけ出来るんだったら毎週来て欲しいくらいだけれど…塾があるんだっけ?」
「中学受験を予定してるので…」
「へぇ、やっぱり頭いいんだね」
「あ…いえ、その…」

いつまで経っても成績を褒められるのは苦手だ。ちゃんと説明することもできないし、素直に受け取ることもできない。否定は何か違うし、肯定は自分が許せないのだ。本当に頭がいいのは、真太郎くんとか花宮くんのことを言うのだろう。

「まぁ、仕方ないよね。むしろ自主的にマネージャーみたいなことしてくれてることに感謝しなくちゃ」
「い、いえそんな…!これは本当に、じっとできない性分であって…悪いところでもあるんです」

お節介は行きすぎたらいけないとわかっているし、自分が「行きすぎる」タイプなのも自覚がある。コーチは「まじめだなぁ」と苦笑を零した。うまく誤魔化せないのも悪いところ。

そろそろ幸男くんのところに戻ろうとコーチに頭を下げて踵を返す。するとそういえば、と声をかけられた。何事だろうかと振り向けば、コーチは「いや、そこまで重要なことじゃないけれど」と前置きをしてから口を開く。

「受験する中学は決めているの?」
「いえ…それがまだで…」
「そうか〜どういうところがいいとかって決めてる…?」
「あ、えっと、特待生で授業料完全免除させていただけて、なおかつバスケ部が強いところだと…」
「うわぁ、それって帝光中って言ってるようなもんじゃーん」
「帝光中……?」

コーチは私の反応に「知らないの!?」と声をあげた。残念ながら中学事情には今だに疎く、もしかしたらどこかで聞いたことがあるかもしれないが記憶にはない。

「そうかぁ…帝光中行く気がないなら他にもバスケが強いところなら知ってるけど、紹介しようか?」
「え!?本当ですか?」
「もちろん!みょうじさんが折角ここまでマネージャー業覚えたのに使えないともったいないからね?」
「まぁ…そうなんですけど」

今更マネージャーするかは未定です、なんて言えなくて、悪戯っ子ぽく笑うコーチに曖昧に返答する。コーチは「じゃあ、学校のパンフレット集めとくね!!」と意気込んでるようで、申し訳なく思いながら「お願いします」と頭を下げて今度こそ幸男くんの元に戻った。

「ただいま幸男くん!」
「長かったな」
「うん、いろいろね」
「おう」

幸男くんはすでに着替えを済ませており、私は彼について体育館を出る。タオルとボトルの片付けはコーチに任せていいとのことなので、気にすることはない。「お先失礼します!」とコーチに頭を下げれば、ひらひらと手を振られた。


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