つくづく我が母の突拍子もない発言には呆れさせられる。
春休みも中盤に差し掛かったある日、母は突然こういった。
「明日は結婚式よ!」
そう言うものはもっと何ヶ月も前から事前に知らせておくものではないかとため息も出ない。
と言うことで母に連れられ私は少し離れた親戚の結婚式に来ていた。弟の裕はこう言うところでじっとしていられるタチではないので、笠松家でお留守番だ。いつのまにか母が用意していたドレスに身を包み、髪を整えメイクもすると、急なこととは言えテンションは上がる。結婚式自体はタイムスリップする前に何度か体験しているため初めてではないが、やはり人によって規模は違うから少し楽しみではあった。
「親戚って……お母さんとはどう言う関係なの?」
「んーとね、私の姉の旦那さんの妹の結婚式なのよ」
「あー……まぁ、親戚と言ったらそうか」
血縁関係がなくても、まぁ義理のキョウダイといっても差し支えない関係でホッとした。この人のことだからめちゃくちゃこじつけの遠い親戚かと思った。結構そう言うこと平気で言う人だし。
それにしても、母に姉がいたことは知っていたが会ったことはなかった。タイムスリップする前ももちろん。もしかして来ているのかと辺りを見渡してみるがそれらしき人はいない。母方の親戚との関わりなんてその程度のものか。
「まだ時間あるし、私挨拶に行ってくるわね!」
「え、ちょっ」
母は上機嫌にそう言うと、人が集まる場所に歩いていってしまった。自由人にも程がある。
仕方ないので指定された席についてぼんやりと辺りを見渡す。当たり前だが大人ばっかりだ。あっちは新郎の会社関係者だろうか。あっちは新婦の友人の集まりだな。そんな答えのない問題を呑気に解きながら母の帰りを待っていると、「ねぇ」と声をかけられた。優しい女性の声に「はい?」と振り向くと、どこか見覚えのある……というより、母を可愛くしたような容姿の女性が立っていて直感する。
「お、おばさん……?」
「やっぱり!なまえちゃん?妹から話は聞いてるわ」
本当に、人生で初めて見た伯母の姿に驚きはしたが、想像以上に似ていてすぐにわかった。慌てて席を立ち自己紹介をしながら頭を下げると、彼女も挨拶を返してくださる。話は聞いてるってことは、姉妹事情自体は悪くないのだろう。私が会うタイミングがなかっただけか。
「よかったぁ、すぐに会えて。本当はもっと早く会いに行きたかったんだけど、お互いに家を出たものだから会い辛くてね。こんな時になってごめんなさい」
「あ、それはわかります。仕方ないですよ。私も会えると思ってませんでした」
お互いに苦笑していると、今度は「おい」と男の子の声がする。声変わりしかけのような掠れた声だ。伯母の肩越しにそちらを見ると、二人の男の子が立っているのが見えた。大きな瞳に蜂蜜色の髪の毛の二人は、ぱっと見で兄弟だとわかる。伯母はそちらを振り向いてから私に「私の息子よ」と紹介してくれた。つまり……いとこってことか。
いたのか…いとこ。ここに来てまた衝撃の事実である。
「はじめまして、みょうじ なまえです。春から六年生になります」
「宮地 清志。春から中1だ」
「裕也、六年」
「清志くんに裕也くん。えっと……よろしく、ね?」
もちろんいとこなんて今までいたことがないため対応に困っていると、清志くんは表情を緩めて「よろしく」と言ってくれた。裕也くんの方はふいっと視線をそらして何も言ってくれない。だが耳が赤いのは見えたので緊張しているのだと理解する。
「じゃあ、私挨拶に言ってくるから」
伯母はそう言うと、手をひらひらと振って先程母が行った方へ歩いていってしまう。なんだかんだで似ているな…とその背中を見ていると、清志くんがため息をついたのが聞こえた。
「これだから母さんは…」
「清志くんのお母さんももしかして割と自由人?」
「“も”ってことはそっちもか?」
「うん、かなり自由人」
「似たもの姉妹だな」
「……二人はいとこがいるって知ってた?」
「知ってたよ、俺も裕也も。写真も見たことあるし」
「え、なにそれ」
「お前んとこの母さんが送ってくるんだとよ、写真。だからお前の顔は知ってた」
「そ……っかぁ」
私の知らないところでそんなやりとりがあったのかと照れ臭くなる。せめて可愛く撮れたやつだけ送ってくれよ…とそんなこと今更祈っても遅いけれど。
「んで、こいつは緊張してるだけだから気にすんな」
「し、してねえよ!!」
私が裕也くんの様子が気になっていることに気付いた清志くんがそう言ってくれるのだが、当の裕也くんはそれを激しく否定する。慌てて可愛いなぁと思って眺めていると裕也くんと目が合い、彼はみるみるうちに顔を赤くするとどこかに走り去ってしまった。初めて会ったときの幸男くんを彷彿とさせる。
「ねぇ、もしかして裕也くんって女の子苦手?」
「いいや?あれはちげーよ。なんつーか、本の中のお姫様に出会ったとか、憧れのアイドルに会ったときの反応だよ」
「裕也くんって私のこと好きなの?」
「……もっと照れるとかしろよ」
「いや、嬉しいなとは思うけれど、私は仲良くなりたいから」
だからああやって逃げられるとちょっと困る。それに好意自体は嬉しいが、清志くんの言い方だと「憧れ」に近いものだと思った。私はみんなより大人だから、好意の違いくらいは分かっているつもりだ。
「……変なやつ」
清志くんは小さくそう呟いて裕也くんの後を追っていってしまう。おかしかったかなぁ…と自分の言動を振り返っても、とっくの昔に社会に投じられた私の精神性では、何が変なのかがさっぱりわからなかった。
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