梅雨が開けて夏休みがやってきた。相変わらず塾とミニバスで忙しく、空いた時間も真太郎くんに会いに行くので外出量が半端ではない。日焼けはしたくないから必死になって日焼け止めを塗っているが、ついこの前花宮くんに「焼けたな」とまじまじと言われて悲しくなったりした。それでもたびたび持っていくお菓子を素直に受け取ってくれるだけマシになったと言うものだろう。

そういえば、最近幸男くんには会えていない。一方的に姿を見かけることはあるが、やはり中学に上がってから忙しいようでまともに言葉を交わしてなかった。幼馴染だからすぐに会えるという考えも相まって、すれ違いは深刻だ。

そのかわり……と言うほどでもないが、敦くんと今吉くんとは結構な頻度で会うようになった。二人ともよくストリートのコートにいるのを見かける。敦くんはベンチで座ってお菓子を食べていることが多いが……。そういえば敦くんは身長が170cmを超えたらしい。話していると首が痛くなるから、お互いめんどくさがって目を合わせなくなった。それでも気にならないのは空気が合うからなんだと思う。
今吉くんは中学で上手くやっているみたい。バスケの強豪でもあるようで、ストリートのコートで生き生きと自主練に勤しむ様はどこからどうみても健全なスポーツ少年だ。口を開いたら相変わらずだけれど。

ーー赤司くんとは、あのお葬式の日以来会っていない。
そもそも今まで街中ですれ違うこともなければ、どこに住んでいるかも知らない人だ。特別な何かがあった日だけに会う、私にとっては高嶺の花のような人。会おうと言う方が無理があるだろう。相手は赤司家の御子息。本人がそう呼ばれることを嫌がっても、世間はそれを許してくれない。

それから、今年のお盆は母方の実家にもいくことになった。実家……と言ってもそう遠いわけではない。遠くないからこそ顔を出していなかったらしいのだが、せっかくいとこにもあったんだからという母なりの気遣いらしかった。
清志くんや裕也くんとまた会えるのは正直嬉しい。私は案外人と関わるのが好きな部類なのだろう。色んな人の話を聞いたり、関わったりするのが今はとても楽しい。大人になったら友人を作る暇なんてないとわかっているかもしれないが。それでも、誰かのそばにいることが好きなんだと思う。

そして……今年の夏は、もっと大きなイベントがもう一つ存在するようだ。



「え!?旅行券!?」

いつも通り大学病院のバスケットコートに顔を出すと、まるで私を待っていたと言いたげに真太郎くんが歩み寄ってきた。彼はポケットを漁ると、何か封筒のようなものを差し出してくる。なんだろうと受け取り、中を覗くと……。そこにあったのはアメリカはロサンゼルスまでの旅行券だった。

「うむ、先日商店街の福引を引いたのだよ。おは朝でかに座が一位でな。つい自分の運命を信じてみたくなったのだ」
「も、もしかして……?」
「もちろん特賞!ロサンゼルスへの旅行券を手に入れたのだよ!」

す、すごすぎる……。よく見ると飛行機のチケットに日程表まで入っている。どうやら滞在先(しかも選べるらしい)なども用意されている旅行券のようだ。それにしても一等賞を超えて特賞なんて……開いた口が塞がらない。

「アメリカかぁ……すごいなあ……。お土産待ってるね!」
「ん?いくのはお前なのだよ」
「……へ……?」
「だから、それはなまえにやる。土産楽しみにしてるぞ」

ふっと口角を上げて、真太郎くんはコートに戻っていってしまう。言われたことが理解できずしばらく固まっていると、彼の放ったボールがネットを揺らしてハッとする。

「えええ!?なんで!?なんで私なの!?」
「うるさっ、やかましいのだよ!」
「え!?でもだって?!ええ!?」

真太郎くんは鬱陶しそうにこちらをじとりとにらめつけてくるが、勘弁してほしい。絶対に私の反応は間違っていない。

「だ、で、ええ?だって、これ真太郎くんが……!」
「俺は別に旅行なんぞ興味ないのだよ」
「で、でも……!!」
「……勘違いするなよ。綺麗なものを素直に綺麗だと言えるお前が見た方がいい世界だってあるだろう」
「……でも…」
「何度も言わせるな。お前がいった方が相応しいと思った、それだけだ」

有無を言わせないような強い言葉に何も言えなくなる。正直、海外には興味がある。生まれてこの方一度も日本から外に出たことはなかったし、もしかしたらこれは運命が導いたチャンスなのかもしれない。でも……。

「私、英語話せない……」
「っ!」

私の呟きが聞こえたのか、真太郎くんは軽くコケながらシュートを外してしまった。漫才のようだ……と口に出したら怒られそうなので心に秘める。真太郎くんは転がるボールを拾ってから、こちらをギンッと睨んだ。今日怖い顔しか見ていない……。

「お前は本当に……!」
「いやだって、本当に話せないし…!」
「気が抜ける奴なのだよ……まぁ、そういうところも……」
「そういうところも?」
「…………そういうところ“が”、気に食わん!」
「ええ!?」

真太郎くんは不機嫌そうに言ってからまたシュートを始めてしまった。せっかく彼がくれたチケット、アメリカには行きたい…。けれど言語の壁は高いよなあ…と思いながらベンチに座る。ふぅとため息をついてから、そういえばまだ伝えてない言葉があることを思い出して「真太郎くん!」と声をかけた。

シュートを決めてからこちらを振り向く彼に、「ありがとう!」と叫ぶと、真太郎くんは目を見開いてから少しだけ笑みを浮かべてくれた。


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