辰也くんと並んで歩く道は日本とは全然違って見るところが多すぎる。辺りを見渡しながら歩いていると、危ないよと優しく言われた。目を合わせて言われると恥ずかしくて、少しだけ視線を逸らす。今までこう言うタイプの子には会ったことがない。
「そういえば君の名前を聞いてなかった」
「あ、私はみょうじ なまえ」
「なまえ。改めまして、俺は氷室辰也、よろしく」
ただでさえ綺麗な顔をしているのに、そこに笑顔を浮かべられるとドギマギしてしまう。どんな表情でも映えてしまうんだろうと思わせる雰囲気に「綺麗」と口に出すことすらはばかれる。
「なまえはバスケットは知っているかい?」
「うん、知ってる。弟がミニバスをやっててね」
「ミニバス?あぁ、そうか日本ではそう言うのがあるんだっけ」
「え?こっちはないの?」
「うん。何歳から始めても舞台は同じだよ。3mの高さにゴールはある」
少し見上げながら言う彼の横顔を見つめる。こちらから見て右側を前髪で隠したような髪型をしているから表情はよく窺えないが、口元はどこか楽しそうに弧を描いていた。好きなんだろうな、というのは見ていて分かる。
「ほら、コートが見えてきたよ」
彼が案内してくれたのはストリートのバスケットコートだった。日本とは違い観客席のようなもので辺りが囲まれている。そこには先客がいるようで、こちらを見つけると笑顔で駆け寄ってきた。
「タツヤ!」
「タイガ!今日は早かったんだね」
「おう!……っで、そいつは?」
「ああ、今日から一週間俺の家にホームステイするなまえだよ」
「始めまして、みょうじ なまえです」
辰也くんに紹介されて頭を下げると、タイガと呼ばれた彼は私をじーっと見つめてから「ふーん」と興味なさげに呟いた。辰也くんが諫めるように「コラ」というと、タイガくんは不機嫌そうに唇を尖らせてから、「火神 大我」と呟く。それが名前だとわかって、「よろしくね大我くん」と手を差し出せば、彼は自分の手をじっと見つめて、ズボンで拭いてから握手してくれた。
「Oh,Tatuya!Is she your steady?You are a smart fellow.」
「Alex!It's not like that.」
私が大我くんと握手をしていると、金髪の女性が姿を見せた。彼らと違って見てわかる通りのアメリカの人で、怒涛の英語に頭が追いつかない。「Oh,Tatuya!」しか聞き取れなかった。
「いきなりごめんね、彼女はアレックス。俺とタイガの師匠なんだ」
「師匠……」
何の師匠だろうと思っているとアレックスさんは「日本人か!」と日本語で言うものだから驚く。「喋れるんですか」と聞けば「もちろん!」と快活な笑顔を向けられた。
「アレクサンドラ・ガルシアだ。気軽にアレックスと呼んでくれ」
芯の通ったハスキーな声で名乗ったアレックスさんに、自己紹介をすると、彼女はにっこり笑って顔を寄せてくる。すごく美人だし、綺麗な金髪だし、近くで見ると透き通った素敵な目だなぁと思っていると、それが予想よりもどんどん近付いて来て、何事だろうと口を開くときにはもう、それは塞がっていた。
「んっ!?」
「アレックス!!」
私の唇を奪った彼女は、にっと口角を上げて舌舐めずりをする。何が起きたかわからない私と、呆れたように頭を抱える辰也くんと、慌てた様子の大我くん。
「そんな顔しなくても……あー、可愛いな。なあ、もう一回していいだろ?」
「!?」
そう言ってまた近付いてくるアレックスさんに驚いて口元を押さえながら後ずさると、彼女は「なんだ?奥手だなあ」と笑う。奥手とか、国民性がどうこうとかじゃない。どう聞けばいいか分からず弟子の二人に視線をやると、辰也くんが少し気まずそうにしながら「キス魔なんだ…」と教えてくれた。大我くんは沸騰してるのかと言うくらい真っ赤だ。
「き、すま」
そりゃあ大学生や社会人になってから飲み会で酔ってキス魔になる人を見たことないわけじゃないけれど、彼女ほどストレートに迫ってくる人は初めてだった。そして少なくとも、タイムスリップしてからは初めてのキスだ。
「なんだぁ、タツヤもタイガもして欲しいのか〜〜??」
「いらねえよ!!」
「遠慮しておくよ……」
にぃっと笑ったアレックスさんはあからさまに逃げ回る大我くんを両手を広げて追いかけ始めた。多感な時期だろうに……。その追いかけっこからするっと抜け出した辰也くんは私に「大丈夫だったかい?」と聞いて来てくれる。
「大丈夫……だけどびっくりした。アメリカの人ってみんなあんな感じ?」
「まさか!確かにスキンシップは多いけれど、キス魔なんてアレックスくらいさ」
「ファーストキスだからびっくりしちゃった」
「え!いけないよカウントに入れたら!そういうのは、本当に大事な時にだけ数えないと」
辰也くんは「ごめんね」と眉を下げてから私の唇をその綺麗な親指で拭う。急な出来事だったからどきりとしてしまった。
「ほら、これでなかったことにしよう」
「…………」
魔性か、と突っ込みたくなる。もしこういうのを私以外にもしているのだとしたら、彼は背後から刺されても仕方ない気すらした。小学生相手にドキドキしてる私も私だけれど……。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
一度ため息をついて気分をリセットさせて、私と辰也くんは並んで二人の待つコートに足を踏み入れた。
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