アメリカ3日目。観光を終え氷室家に戻るとそこには大我くんもいた。疑問に思う私に氷室さんが「今日は辰也の友達が泊まりに来ていてね」と教えてくれる。大我くんは氷室さんにペコリと頭を下げてから私の母にも挨拶をしてくれた。私の時はあんなに固かったのに、どうやら母親世代の女性は平気らしい。

みんなで食事をとり、シャワーを浴びてからリビングに戻ると、氷室さんと母が何やら楽しそうに話し合っているようだった。二人は本当に気が合うようで、まるで長年の友人のように意気投合している。興味本位でどうしたの?と聞くと、氷室さんが先に口を開いてくれた。

「それが、明日の夕方から友人がホームパーティー開くって言うから、みょうじさんもどうって誘っていたのよ」
「へぇ、パーティー!」

流石アメリカだと思った。なんとなく広い家に音楽をかけ、踊りながらお酒を飲むような光景を想像する。大学時代に一回誘われてノリで行ったナイトクラブを思い出した。あんな感じなのだろうか。あそこまでアングラではないだろうけれど。
母を見やるととても行きたそうで、ため息が出る。本当にいくつになっても若さを捨てない母だ。見知らぬ人のパーティーでも、言語が通じなくても乗り切ってしまいそうだ。

「行ってきたら?私はお留守番……というか辰也くんたちと一緒にいるし」

必ず一緒にいるべきでもないだろうと母の背中を押すと、彼女は「流石私の娘!わかってる!」と楽しそうに笑って頭を撫でまわされた。正直、辰也くんと大我くんのバスケプレイをもっと見ていたいな…と思っていたところだったのでちょうどいいと言ったらそうだ。

「じゃあ、おやすみ。明日は飲み過ぎないように」

私が母にそう言うと、氷室さんはクスリと微笑んで、「どっちが母親だかわからないわ」と言うものだから、少し気恥ずかしくて慌てて二階への階段をのぼった。階下からは母の笑い声が聞こえた。



私が泊まっているのは二階の客間の一つだった。氷室家はかなり大きく、客間がいくつか存在している。辰也くんは隣の部屋で寝ているようで、大我くんの部屋はもう一つ奥だ。明日は夕方から親がいない。つまり夜ご飯は自分で用意すべきなのだろう。母は私の料理の腕を信用しすぎだとは思うが、それくらいはわけない。豪華なものは作れないけれど、頑張ってみようかな…とそんなことを考えながら部屋の電気を消した。よし寝よう、と布団に潜り込んだ瞬間、部屋の扉がノックされた。何事だろうと思って「はい」と答えると、ゆっくり扉が開く。そこには枕を抱えた大我くんが立っていた。

「大我くん……」
「いいか……?」

控えめに聞いてきた彼に答え、ベッドサイドテーブルに置いてあるリモコンで部屋の電気をつける。大我くんはひどく怯えた様子だった。素早く扉を閉めた彼は、少し俯きながら近づいてきたと思ったらもそもそとベッドに入ってくる。

「え、なっ、に!?」
「しーっ!タツヤにバレる!」

慌てた様子で指摘されるため、思わず口を掌で押さえてしまう。それからゆっくり息を吐き、小さな声で「どうしたの?」と聞くと。「別に……」とだけ返された。いや、別に……が理由でベッドに入ってくるなんて普通ないだろう。

「そっち詰めろよ」
「えぇ……?」

理由もわからずとりあえず奥に詰める。大我くんは枕を置くとそこに背を向けて寝転がり、「おやすみ」と言ってまぶたを下ろしてしまった。全然お休みできないんですけど。ベッド自体はとても広いから問題はないけれど、隣に男の子が寝ているのなんて弟以外じゃ初めてではないだろうか。

「ね、ねえ大我くん」
「んだよ……」
「何かあったの?」
「……なんでもねーし」
「なんでもなくないでしょ。辰也くんじゃダメなの?」
「だって、タツヤにバレたら恥ずかしいだろうが!」
「何が?」
「うっ……!」
「教えて欲しいなぁ?だめ?」
「…………」
「ねぇ、大我くん」
「…………タツヤが」

私の質問責めに根負けしたのか、大我くんはこちらを向いて口を尖らせる。頬は少し紅潮しており、照れ臭いのが見て取れた。

「タツヤが怖い話とかするんだぜ?」

大我くんは真剣な様子でそう言った。真剣……というのは冗談抜きという意味で、彼の様子は迫真に迫るものがある。あり得ないと言いたげに彼はぶるりと体を震わせた。本気で、本心からそう言っているのだろう。予想外すぎて、考えていた返答が全て崩れ去っていく。辛うじてできたのはおうむ返しだった。

「怖い……話ねぇ…」
「べっ別に怖かねぇけど!女のところにゴーストが襲いにきたら危ねえからな!守ってやろうかと思っただけだ!」

早口に捲し立てた彼は次こそ布団に潜って黙り込んでしまう。なんだか可愛いなぁと思って頭を撫でると、小さい声で「ガキじゃねえよ……」と呟かれた。「うん、ごめんね」と応えつつ、もしこれで安心して寝てくれたらとも思う。

「大我くん、電気消してもいい?」
「ん」

サイドテーブルに手を伸ばしリモコンで電気を消す。真っ暗になった部屋に二人分の息遣いだけが聞こえた。私も布団に潜り込み、隣で丸くなった同世代にしてはずいぶん大きな背中にそっと投げかける。

「守ってくれて、ありがとう」

少しだけ揺れた背中。彼は長く長く口を噤んでから、「おう」とだけ応えてくれた。温もりがある背中がなんだか優しくて、よく眠れるような気配を感じながらゆっくりまぶたを下ろした。


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