もう6日目かぁ、としみじみしながらなんとなく荷物を片付けていく。明日の昼にはもう空港にいるのだと思うと時間というのは本当にあっという間だ。バスケットコートに来れるのも今日が最後だ。夕陽に照らされたコートには今日も三人が楽しそうにぶつかり合っていた。

結局辰也くんの悩みはよくわからなかった。何かとてつもなく重く大きなものを抱えているということしか。私にどうにかできることではないかもしれないけれど、気付いてそのままなんてやるせない。彼は今も普通にプレイしているし、小骨が喉に刺さったような違和感だけが残った。

「なにしてんだ?」

じーっとコートを眺めていたつもりなのに、気が付くと大我くんが目の前にいた。私は預かっていた彼が持ってきたというタオルを手渡す。大我くんは「サンキュー」と笑って受け取ってくれた。コートではまたアレックスさんと辰也くん、二人の1on1だ。辰也くんも大我くんも素人目ではあるがとてもうまい。実力差なんてないとは思うが、それでも辰也くんは当事者として「置いていかれる」感覚を味わっているのだろう。それは、よくわかる。私だって赤司くんや真太郎くんにそういう感情を抱いたことがあるから。あれは、拠り所を失うようなとてつもない喪失感だ。辰也くんがそれを感じているというなら……。

「なぁ、タツヤが気になんのか」
「え……?」

そう声をかけてきたのは大我くんだった。隣に座った彼は純粋な輝きを持つ瞳で私を真っ直ぐに見つめてくる。どういう意味で言ったのかいまいち掴めない。どこまで深読みすればいいのだろうか。彼のことだから、そのままの意味だとは思うけれど。

「えっと、まぁ。でも、気になるって言ったらどっちもかな」
「どっちも?」
「うん、辰也くんも大我くんも」

一週間というのはあまりにも短すぎると思った。この街の良さを知るにも、彼らを知るにも。もっと話を聞きたいしプレイを見たい。それ以外でも、もっと知れることがあると思う。それすらももう、時間が許さない。

「もっと、一緒にいたかったなって。名残惜しいんだ」
「何言ってんだよ。まだ今日は終わってねーぞ!」
「え!?」

大我くんはニッと口角を上げると私の手首を掴んで立ち上がる。何事かと足をもつれさせながら階段を駆け下りると、大我くんは「おーい!」とコート内の二人に声をかけた。

「混ぜろよ!今度は、こいつも!」
「え!?」
「なまえが?バスケできるのかい?」
「ま、まさか!初心者だよ…!」
「何言ってんだ?バスケが一番好きって言ってたじゃねえか」
「そりゃあ好きだけど!」
「じゃあ、やった方が楽しいに決まってんだろ!」

それは、余りにも濁らぬ光で、なんとなく辰也くんの気持ちが分かった気がした。この光が心強いと感じると同時に、この光には勝てないと思ってしまう。それほど絶対の力を秘めているような、そんな真っ直ぐな光。眩しくて、目を逸らしてしまいたくなるほどの。



「タイム!!」

四つ巴のバスケはあまりにも展開が早くてついていけない。傍から見ていたよりも激しい攻防に目が回りそうだ。大きな声で叫ぶと三人同時にこっちを向いて、今にも倒れそうな私に駆け寄ってきた。

「お、おい大丈夫か!?」
「なまえ、少し休憩しよう」
「タイガ、タツヤ、飛ばしすぎだぞ」
「アレックスに言われたくねえ」
「アレックスに言われたくないね」
「なんだと!?」

師弟喧嘩を耳にしながらヨロヨロと座り込む。これだけ全力を出しても追いつくのがやっとだ。赤司くんに優しく教わってやった時なんて、本当に序の口だったのだなと気付かされた。時々パスをもらってシュートを決めたりはできたが、ドリブルなんてしたら一瞬でカットされてしまうだろう。こんなに汗をかいたのは初めて。タイムスリップする前に一度だけ死ぬ気でダイエットしようと思って、キツすぎて一日でやめた日よりもぐずぐずだ。
でも、なんだか清々しい疲れだった。全力を出すのなんて日常的にはないものだから、新鮮で頭の中や体の中がスッキリとする。そんなことを考えながらなんとか息を整えていると大我くんがタオルを差し出してくれた。「ありがとう」とそれを受け取ると、大我くんの肩越しに辰也くんと目が合う。彼は申し訳なさそうに笑ってアレックスさんの方へと行ってしまった。

「どうだった?バスケ!」
「キツイ!」
「はぁ!?」
「でも楽しかった。誘ってくれてありがとう」

本心を包み隠さず伝えると、キョトンとしていた大我くんはまた太陽みたいの笑う。ああ、大我くんが太陽なら、辰也くんは月なのだろう。なんとなくそんな気がした。

「ほらな、バスケはやった方が楽しかっただろ?」
「いや、でも見てるのも楽しいんだよ本当に」
「確かにプロの試合とかは見ててワクワクするけどよぉ……」
「ワクワクもするけど、綺麗だなって思うの」
「きれい……?」
「その一瞬に、そのワンプレイに全力をぶつけていく。その人の生き方やバスケへの情熱が見てわかる気がするんだ。それが、私には綺麗に写る」
「ふーん」

大我くんは理解したのかしてないのか曖昧な返事をして居心地が悪そうに視線をそらしてしまった。首回りの汗を拭ってからタオル洗って返すね、と言いたがったがそういえばそんな時間もなかったのだと気づく。どうしようかなと悩んでいると、彼がぼそりと呟いた。

「やるよ、それ」
「それって、タオル?」
「ん。持ってってくれ。俺は一緒に行けねえから」
「…………」

そんな言葉を添えられて断るわけにもいかず、私はタオルを握って頷いた。これが私と大我くんを繋いでくれる架け橋なんだ。それを、手放すわけにはいかない。「いつか、取りに来てくれる?」と問うと、彼は鼻の頭を少しだけ赤くしてから、自信満々に笑った。


「おう!」



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