ストリートのコートでシュートを打ち続ける清志くんをじーっと見つめる。彼もこちらを気にしているようには見えない。彼のプレイは特にドリブルが綺麗だ。少し素直じゃない性格とは裏腹に、実直で模範的なプレイをするなぁとついつい見惚れてしまう。さぞ女の子にモテるんだろうな。バスケやってるとモテそうだな。みんな彼女とかすぐできちゃうんだろうな。ちょっぴり寂しいな。なんて邪念を抱いていると、彼がくるりとこちらを向いた。心を読まれた……?
「本当に見てるだけで楽しいのかよ」
「え、うん」
心を読まれたわけではなかったようでつい胸を撫で下ろしてしまう。清志くんは心底理解できないと言いたげに眉を寄せた。そして手の中でボールをスピンさせると、なにを思ったのかこちらにチェストパスしてくる。
「うわ、っと」
よろよろになりながらなんとか受け止めると、彼は間髪入れず「ドリブル!」と叫んでくる。慌ててドリブルを始めると、清志くんは少しだけ口角を上げた。
「割とましなドリブルするな」
「そ、そう!?よかったぁ」
ドリブルは赤司くん直伝だ(直伝というほど長く教わってないが)。とにかく失敗だけしないように手元を見て必死にボールをついていたはずなのに、気がつくとボールがなくなっている。どうして!?と顔を上げると驚いた顔の清志くんが両手をボールを持った状態でそこにいた。
「清志くん!?」
「悪い。すげぇ甘いドリブル見てたらついとっちまった」
「うっ……ごめん」
「はぁ?なに謝ってんの?」
「いや、練習相手にもなれなくて……」
「……別に困ってねえよ。裕也もいるし。練習相手にしようと思ってコート入れたわけじゃねえし」
「ほら」と清志くんはまた私にボールを渡してきた。今度はどうすれば!?と胸元で身構えていると、ゴールを親指で指した彼に「ん」とシュートを急かされる。なんで私がプレイしてるんだろう……。と思いながらシュートを打つと、それはいつかのように綺麗にネットをくぐっていく。
「へえ」
それは多分素直に感嘆だったのだろう。転がるボールを拾いにいくと、「なぁ」と声をかけられる。
「ん?どうしたの?」
「今のスカッとしなかったか?」
「まぁ、ゴールが決まったら嬉しいよね」
「じゃあ自分でやろうと思わねえの?」
「う、うーん……」
私の中の根本に、「バスケは男の子のもの」というのがある。もちろん男女差別とかそういうものではなくて、実際アレックスさんはバスケやっててすっごくかっこいいなって思ったし、女子プロの試合とかも見てみたいと思った。それでも、それは「私のもの」ではないのだ。それをどう説明したらいいかわからず、少し口籠ってしまう。すると清志くんは、「いいよ、隠さなくて」と言ってくれるから、本当の意味を言葉にしようと思った。
「……ゴールを決めたら楽しい。ドライブで抜けたら気持ちがいい。長いパスが通ったら嬉しい。……それはわかってるの。……でも、だからこそ、私はそれを心ゆくまで味わっているみんなが見たい。そしてそれを支えたいって思うんだ」
自分のしたいことをしている彼らは本当に綺麗だと思う。頭と目と体と足と腕と指の一つ一つまで、それら全てを操ってコートを駆け巡り一つのボールをゴールまで繋げる。それを見ていたい。時間と体力と感情をぶつけ合うようなバスケットを、私は見ていたい。
「…………すっげぇな、お前」
長い沈黙に、清志くんがポツリと呟く。自分でも結構なことを言った自覚がある。嘘ではないけれど、それでも少しだけ頬が熱を帯びた。
「まぁ、分かる気がするけど」
「ボール」と呟いた彼にパスして渡すと、彼は流れるようにドリブルを始めた。よく見れば清志くんの耳の先が赤い気がする。私と同じだ、と思えば彼にちょっとだけ近づけた気がした。
「いいな。お前に支えてもらえる奴はさ」
「え……?」
ドリブルでインサイドに切り込み、ゴール下からのレーンアップ。単純な動きも洗練されている。
「羨ましいくらい真っ直ぐなやつがそばにいて」
「そうかな?」
「そうだろ。自覚ねえの?」
「いやぁ、恥ずかしいこと言った自覚はあるけど」
「なんで、恥ずかしくねえよ。俺は好きだぜ、そういうの」
ボールを拾った彼は優しく笑っていた。私の言葉は受け止めてくれないくせに、そんなに淀みなく褒められると言葉が出なくなってしまう。何を言えばいいのかわからんくなって言葉を探していると、彼はくつくつと笑った。
「な!なんで笑うの!」
「すっげえ百面相するからだろうが!」
そんなに笑うほど酷い顔をしていただろうか。慌てて顔を隠してももう遅いとは思うが、なんとなく彼の視線から逃れたくて両の手を眼前に広げる。清志くんはまた小さく笑ってから、「なるほどな」と呟いたような気がした。
「これは、裕也が知ったら大変だろうな。ドツボにハマりそうだわ」
上機嫌にニコニコ笑う顔が幼く見えて、つい「可愛い……」と心に留めておくべき感想が溢れてしまう。ハッと気付いた時にはもう遅く、先ほどとはまるで違う黒い笑顔を浮かべた清志くんにドスの効いた声で「刺すぞ、あぁ?」と言われた。本気で怒らせたらヤバそうだ……。
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