私の隣に堂々と立っているオスカー像にクスリと笑ってしまった。確か今日のかに座のラッキーアイテムは金色の像だ。そんなにドンピシャで使ってもらえるとは思っていなかったから少し嬉しかった。
夏が過ぎ去り町が茜色に染まる秋。今日も真太郎くんはシュート練習をしていた。何本も何本も。私がいない時もずっとやっているんだからその本数は尋常ではないだろう。いつも通りその様子をベンチで見守っていると、彼の左手のテーピングが少し剥がれているように見えた。

「真太郎くん!」

声をかけると彼はこちらを向いてくれる。「テーピング!」というと、不思議そうに手元を見てそれから「ああ」と納得したように呟いた。そしてボールを小脇に抱えてこちらに歩み寄ってくる。そしてオスカー像とは反対隣に座るとボールを足の間に挟んで、テーピングをめくり始めた。

「めくっちゃうの?」
「貼り直してもどうせめくれるからな。予備は持って来ているのだよ」

そう言って真太郎くんはポケットから細身のテーピングテープを取り出した。流石抜かりないなぁ、と思いながらそういえばテーピングをやったことがないことを思い出す。知識としてはあるけれど、ミニバスではコーチがやっているし、実践経験がないため自信がなく言い出しにくかったのだ。やりたい……なんて言ってもいいのだろうか、とじーっとテープを見つめていると、真太郎くんは空いている右手でメガネを持ち上げため息を吐いた。

「そんなに見るな。やりたいんだろう?」
「やっぱりわかる…?」
「お前はわかりやすいのだよ。隠し事ができるなどと思うな」

ピシャリと言い切られて苦笑が漏れる。彼は私に左手とテープを差し出してくれた。指の一本一本に丁寧に巻いてるんだなぁと感心しながらめくっていく。ぺりぺりと音がするとなんだか不安になって、「いたくない?」と聞くと鼻で笑われた。

「心配性だな、お前は」
「だ、だって〜!」
「痛くない。気にせずやってくれ。ダメならそういう。俺の性格はわかっているだろう?」
「うう……」

確かに痛かったら「痛いのだよ!」と言いそうな気がする。そういうところで彼はとても素直だ。だから気にしないようにと心で唱えてテーピングを外しきる。この指先を見たのはいったいいつぶりだろうか。明らかに日焼けがしていない指先がなんだか少し愛おしかった。

「まず最初に短く切ったテープを指先を覆うように貼れ。本当は関節にかかるように貼るのだが、俺の場合は指先保護のテーピングだから関節にかからないようにするのだよ」
「な、なるほど……」

言われた通りテープを短く切って指先に貼っていく。真太郎くんは私の行動を無言で見つめている。こうやって見られると緊張して失敗してしまいそうだ。

「こら」
「ひゃっ!?ごめん!!」

何か間違っただろうか。呆れたような彼の声に飛び上がると、驚いた様子の真太郎くんが視界に入る。そして「ふっ」と笑われてしまった。

「そう身構えるな。指先が震えているぞ、と。そう言おうと思っただけだ」
「ご、ごめん……」

は、恥ずかしすぎる……。確かに私の指先は緊張で震えていた。初めてやると言うこともあるけれど、彼の指に触れて、それが驚くほどしっかりしていて、余りにも男の人の手で驚いてしまっていたのだ。ピアノをやっていたからだろうか、彼の指は多分幸男くんよりも長い。掌も広いし、もう骨張っていて緊張だってする。白魚のようだと思っていたのに、触れたらしっかり男なんだから。
何度も深呼吸を繰り返して心を落ち着け、一枚ずつテーピングを貼っていく。指先を覆い終わると「次は根本からぐるりと巻いていけ」と言われた。

「普通はキツく巻くものだが、そうすると動かなくなってしまう。だから緩く、出来る限り関節を跨がないように巻くのだよ」
「うん……」

言われた通りに緩く巻いていく。しかし緩すぎたり、少し力を入れただけでキツくなったりして焦ると彼はまた笑った。笑っているところを見るのは好きだが、今は流石にいたたまれない。よく見て巻こうと前のめりに顔を寄せる。こうやると真太郎くんがどう言う表情をしているのかも分からなくていいかもしれない。

丁寧に丁寧に巻き進めていく。すると頭に何かが触れたような気がした。何だろうと顔を上げると、両眼を見開いた真太郎くんと目が合う。「触った?」と聞くと、「いや」と短く答えられる。どうやら気のせいだったようだ。

なんとかテーピングを巻き終わり、端っこをちぎって「できた!」とその完成形を見る。

「…………」
「…………っふ」

小さく吹き出したのは真太郎くんだった。まぁ、これは私もひどいと思うから何もいえないけれど。
一応言われたことは気をつけたつもりだが、あまりにもテープがガタガタだ。これは練習しなきゃなあ…と落ち込んでいると彼は有無も言わずに立ち上がったしまった。そしてボールを拾い上げコートに向かっていく。

「待って待って真太郎くん!もう一回やらせて!」
「これで十分なのだよ。指先は保護できているし、関節の稼働も問題ない。満点ではないが、お前の気持ちは受け取った」

そう言って彼はそのテーピングがされた指先に唇を触れさせる。大人っぽく笑った彼は、私に見せるようにシュートを放った。


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