季節はまた一つすぎ、息が白くなるほど冷え込む冬が来た。私はいつも通りストリートのコートに向かいながら手袋に包まれる手を擦る。今日は誰がいるのだろうかと覗き込むと、明らかに高校生ぐらいの三人組がバスケをしておりため息が溢れた。こういう日ももちろんある。流石に知らない人をジロジロと眺める趣味は無いので踵を返すと、ぼすんっと何かにぶつかった。
「いたた……」
「わりぃ!怪我してねえか?」
それは人だったようで、謝らなきゃと顔を上げる。私より少し背の高い色黒の男の子だ。「ごめんね」と頭を下げると、「怪我がねえならいいや」と快活に笑った。
「つーかお前もここにきたのか?」
「うん。そのつもりだったんだけど、今日は先客がいるみたい」
「混ざればいいじゃねえか」
「え!?」
色黒の彼はがしりと私の腕を掴むと迷いなくコートに入っていく。そして高校生たちに「なぁ!!」と声をかけた。とんでもなく肝が座ってやがる。どうなることやらと冷や汗が伝った。声をかけられた高校生たちは、こちらを振り向いて「小学生?」と口々に呟いていた。
「バスケ混ぜてくれよ!!」
満面の笑みで彼はそう言う。その笑顔にハッとした。すごく、綺麗だと思ったんだ。やりたいと言う気持ちと、好きだと言う気持ちが前面に出たその表情を。プレイを見るまでもなく、もう全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。
「おっ!坊主バスケできんのか!!」
幸いなことに高校生たちは彼を歓迎してくれるようで、色黒の子は嬉しそうに上着を脱いでコートに飛び出していった。私は投げ捨てられた上着を受け止めてコート傍のベンチに座る。彼は知らない子だけれど、この胸騒ぎの正体が知りたくて、そのプレイを見ていくことにした。
「すごい……」
男の子のプレイは小学生離れしたものだった。ミニバスの動きとは違う、変幻自在のプレイスタイル。ずば抜けたセンスと体幹。そしてなによりも瞬発力と反応速度が並ではない。思わず固唾を飲んで見守ってしまう。彼はずっと楽しそうだった。心底楽しくて仕方ないと言いたげで、それに影響されたのか高校生たちもすごく楽しそうにプレイしていた。
時間も忘れてそのやりとりを見ていると、コートに立つ時計を見た高校生の一人が「やべ!」と声を上げた。何か用事でもあったのだろう。彼らは2、3言色黒の子に言うと、手を振ってコートを出て行ってしまった。
「はー!楽しかったぁ!」
男の子はニコニコと笑ってこちらに歩み寄ってくる。冬だと言うのに尋常じゃないほど汗をかいているようで、慌てて持ってきていたタオルを手渡すと、彼は「サンキュ!」と受け取ってくれた。
私の隣に腰掛けた彼に何から言おうか考える。凄かったとか、そう言う陳腐な言葉を並べるのにも躊躇っていると、彼の方が先に「あ」と口を開いた。
「やっべ!そういえばお前誘うの忘れてた!わりい!」
「え、ううん!私はいつも見にきてるだけだから……!」
「はー?見てて楽しいかよ。さつきと一緒じゃねえか」
彼は不満げに唇を尖らせる。「さつき」というのはお友達だろうか。バスケ少年、という言葉があまりにもふさわしい彼に見ているだけという楽しみ方は無いのだろう。「私は見ているのが好きなんだ」と伝えても、「ふーん」と生返事が返ってくるだけだった。
「そういえばお前名前は?」
「あ、みょうじ なまえっていうの。君は?」
「俺は青峰 大輝だ。よろしくななまえ!」
ニカっと笑った彼と握手をする。なんだか大我くんを彷彿させる真っ直ぐさが眩しい。彼も太陽だなぁ、とそんなことを思った。
「青峰くんってこのコートくるのは初めてだよね?」
「まぁな。いつも行ってるところがなんか今日イベント?みたいなのやってて入れてもらえなかったんだよ。だから仕方なく走ってきた」
「走って……?」
例えバスケが主流になっているとはいえ、そんなにたくさんストリートコートがあるわけではないし、ましてや一つ一つはちゃんと離れているところに作られている筈だ。そこをわざわざ走ってきたなんて、バスケ少年すぎる…。
「なー、なまえはマジでバスケやんねーの?」
「えっ、う、うん。見る専だから……」
「…………」
青峰くんがじとーっとこちらを見てくる。嫌な予感がして逸らしてみたのだが、素早くそちら側に回られた。何度逸らしてもそれは同じことで、折れるのは私の方だった。
「……ほんっとうに素人だよ?」
「いいんだよ素人でも。楽しかったら!」
純粋少年の一言に思わず頷いてしまう。彼は嬉しそうに笑って私の手を引いてきた。
「早くやろうぜ1on1!」
「1on1!?相手にならないって!」
「んじゃ、俺は片手のハンデつけてやるよ」
「えええ!?それでも勝てる気がしない……」
「んじゃ目瞑るか?」
「…………勝てる気がしない」
どれだけハンデをつけても全然勝てるビジョンが見えない。そういう意味で真剣に言ったのだが、青峰くんは一度ぽかんとした顔をしてから、「俺も負ける気がしねぇな!」と白い歯を見せて笑ってくれた。
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