「お母さん……ちょっとぶかぶかじゃない?」

あっという間に卒業式が終わり、ミニバスのマネージャー業(名目上)も引退し、中学入学前の春休み。私は先日採寸してやっと今日届いた制服に腕を通した。

「いいじゃない。成長期成長期!」
「そうかなぁ……」

黄土色のブレザーに緑がかったチェックのスカート。大きな緑色のリボンがチャームポイント。私が通う中学の制服は普通にレベルが高いと思った。少なくとも、中学でブレザーなんて初めて着たし、なんだか新鮮だ。

志望校へは無事合格した。もちろん、上位一割が獲得することが出来る特待生枠で。ただし新入生代表の挨拶は私ではなかった。あれは毎年入試一位の人が任されるものらしい。多分、今年は花宮くんなのだろう。あんなに意気込んだのに結局負けてしまって、入学式で顔を合わせるのがめちゃくちゃ気まずい。そんなことを考えながらリボンをしっかりと結ぶ。

「うーん、初々しくてかわいいじゃない!!」
「いったっ……!」

母は私の姿を頭のてっぺんから爪先まで何度も見て、嬉しそうに笑って勢いよく背中を叩いてきた。そしてどこからかカメラを取り出すと楽しそうに撮影会を始める。「視線こっちー!」とか、言われなくともカメラ一台しかないわ。

「ふっふー。これは妹と氷室さんにも送らなきゃ!」
「は、恥ずかしいってば!!」
「なにいってんのよ!思い出思い出!!」

鼻歌まじりに母は部屋を出ていく。そんなもの送ってなにが楽しいんだっていう気持ち半分、それで私のことを思い出してくれたらいいなっていう気持ち半分だ。楽しそうなその背中を止めるなんて野暮なことはできない。

とりあえず、サイズはこれからの成長に期待するということで一応いいとして、今は汚したくないしクローゼットにかけておこう、と思っているとチャイムの音が響いた。何かお届け物かなぁとそんなことを考えながらリボンに手をかけると、「なまえー!」と私を呼ぶ母の声がする。リボンを解くのをやめ「はーい」と返事をして、階段を下りる。玄関には笠松さんと幸男くん、慶太くんと祝くん。笠松家が勢揃いしていた。

「なまえお姉ちゃん!かわいいー!!」
「慶太くん!祝くん!!」

無邪気な二人は相変わらずで、二言目には可愛いと言ってくれる。くそぉ…愛らしいじゃないか…。抱きついてくる二人を抱きとめて、撫でくりまわしていると、「おい」と頭上に声がかかった。顔を上げるといまいち感情の読めない幸男くんが視界に入る。怒……?笑っ……?なに?照れて……?

「ゆ、幸男くん……?」

幸男くんは口を噤んだまま何も言ってくれないし、このままじゃ埒があかないな…と思っていると、慶太くんがボソリと耳打ちしてくれた。

「兄ちゃん緊張してるんだよ、お姉ちゃんが可愛いから……」
「あー……なるほど」
「こら慶太!!しばくぞ!!」
「いってええ!!」

幸男くんは慶太くんの頭を全力でどつく。完全にどついてから「しばくぞ」っていっているような……。慶太くんは叩かれた部分を押さながら、祝くんを連れて笠松さんの後ろに隠れてしまった。
残された私たちは向かい合う。あいも変わらず幸男くんは複雑な表情……というか百面相レベルだ。

「…………」
「…………」

なんだか夏祭りの時を思い出した。あの時みたいに、私は普段とは違う服を着て、幸男くんはそれを見て固まって、声にならない声を上げて……。懐かしいな、と思うと同時に少し笑えた。

「まー、なんだ」

でも、あの時とは多分違う。
幸男くんは少しだけ居心地が悪そうに頭を掻いてから、それでもしっかり目を見て笑ってくれた。

「すっげぇ似合ってる。合格、おめでとう」

多分、私たちは少しずつしか進めない。弱くて臆病な生き物だから。でも、これははっきりとわかる大きな一歩だった。積み重ねられた年月という、疑いようのない成長。

私は、中学生になるのだ。

「うん!ありがとう!」



まるで、蒼穹のように眩しい青が、君なのだと私は思う。進む道は変われど、その姿を見失うことなんてきっとない。上を見上げれば、必ず君を思い出せるから。

ネットを打ち抜く運命が。
金色を纏った揺らぎが。
愛を失った孤独が。
私を導いたその手が。
情熱を失った少年が。
真っ直ぐに打ち込むその背中が。
世界を照らす眩しい太陽が。
夜を包む優しい月が。
才能の塊が。

それぞれがどこに向かうのかなんて私にはわからない。それでも、足を止めるわけにはいかないから。ただ同じ人生を歩むなんてしたくない。もっと、上を。もっと、輝きを。

もっと、綺麗で、ただ一つのその光景を。

追い求めて私は進む。
まだ、始まったばかりなのだ。


私の瞳を貫く、瞬きの青。


私は、新たなるステージに上がる。



瞬きの青 小学生編ー完ー


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