今吉くんに教室まで案内されるとそこにはすでに何人かの生徒と、先生と思われる人がいた。今吉くんと別れ教室に踏み入る、すると先生は手元の紙束と私を何度も見比べ「みょうじ」と呼んでくる。

「あ、はい」
「次はお前だ」
「え?」

先生は「ん」と黒板を指差した。そこには「席は成績がいいものから選ぶ」と書いてあって初めての経験で驚いてしまった。それに次って……。いくら教室を見渡しても座っているのは一人しかいない。窓際後ろから2番目の席。花宮くんだ。私より先に教室に着いていたはずの数人はまだ席を選ぶことができないようで立ち往生していた。すごい実力主義。

「って、わ、私なんですか?」
「実質は花宮と同率だけどな」
「同率!?」

そんなはずはない。だって私の元に新入生代表の挨拶の連絡など来ていないのだから。慌てる私に先生は心底めんどくさそうに口を開いた。

「花宮 真。学科試験一位。面接二位。入試総合一位」
「面接って……」

まさかあの面接にも順位をつけていた?その事実についていけない。

「みょうじ なまえ。学科試験二位。面接一位。同率一位だ。しかし、この場合は学科試験の順位が優先される。納得したなら席選べ」

吐き捨てるように言われて、私はいつも通り花宮くんの三つ前に座ろうとして、すると一番前になることに気付き、ちらりと彼を見やる。花宮くんは全く周囲のことなど意に介さないように難しそうな本を読んでいた。

「…………」

そろりと歩み寄って彼の後ろの席に座る。それを確認した先生は「次ー」と気怠そうに次の生徒の名前を呼んでいた。

「ねぇねぇ花宮くん」
「…………」
「ねえーってば。花宮くん」
「…………」
「花宮真くーーん」
「無視してんだから少し黙れ」

ため息と共にパタンと本を閉じた彼はやっと半身をこちらに向けてくれた。いつもと変わらないめんどくさそうな顔をしている。塾の蛍光灯の下以外の明るいところで見たところがなかったから少し新鮮だった。彼には夜のイメージがある。

「まさか初日からこうなるとは思ってなかったなぁ」
「……だから、何普通に話しかけてきてんだ」
「私と花宮くんが同率だって。啖呵切っちゃったからどうなるかと思ったけど、とりあえず勝負はお預けだね」
「あのな。その耳は節穴かぁ?」
「聞こえてるよ?」
「じゃあ無視すんな」

花宮くんはこちらの手を伸ばして、それからハッとしたようにそれを引っ込めてしまう。受験の日みたいにデコピンされると思って身構えていたのに、どうやらそんなことはないらしい。

「花宮くん?」
「うぜぇな。なんで後ろに座った」
「だって、一番前やだし」
「別にあっちでもいいだろ」

そう言って花宮くんは廊下側の一番後ろの席を指差した。そこには3位の人が座っている。上位3人軒並みやる気の感じられない席取りだ。

「えーやだよ。廊下寒そう」
「冬は暖房つくだろうが。天井についたでっけえエアコンが見えねえのか」

廊下側の天井を見ると、彼がいうように業務用といった感じのでかいエアコンが付いていた。空調完備なんてさすが名門私立中学。これは夏も冬も万年過ごしやすそう。過ごしやすくて授業中寝ないようにしなくては。

「でももう座っちゃったよ。あの先生そういう融通効かなそう」
「それはまあ、同意だが……」

まだ名前も知らないし、担任とも聞いていないけど、大間先生を老けさせたみたいな無表情な先生は教室に来た生徒を次々と振り分けていく。

「まあ、とりあえずはよろしく、花宮くん」
「ちっ」
「あー!面倒なやつと一緒になったなみたいな舌打ちやめっむぐっ」
「ばぁか!騒ぐな……!」

焦った顔をした花宮くんに口を覆われる。よく見るとあの先生が訝しげにこちらを見ていた。二人揃って愛想よく笑っておく。花宮くんの営業スマイル、久しぶりに至近距離で見た。この笑顔の裏にあんな本性があるとは普通誰もわからないだろう。

「はあ……ハラハラさせんな」
「ご、ごめんね……!」
「ただでさえ愛想よくすんのめんどくせえんだからな。お互い目はつけられたくねえだろ」

花宮くんはそう言って前を向き直すと読書を再開させてしまう。つまらないけれど、もうここは塾とは違うんだ。あの時みたいに他の生徒とめちゃくちゃ距離があるわけではないし、確かに花宮くんからしたらずっと気を張りっぱなしで疲れるのだろう。でも、だからこそ私の前では気を張らないで欲しかった。

「話、いつでも聞くからね」

ムカついたことがあったら言ってね!というつもりでいったのだが、彼は小さく「ふはっ」と吹き出すと。くつくつ笑いながら「はいはい」と言ってくれた。気持ちは伝わったのだろうか。伝わっていたら嬉しいなぁと頬杖をついてグラウンドの方を見やった。
豆粒ほどの黄土色が次々に校門を潜るのが見える。この中の20人がこの教室に集まるのかと思うと気が引き締まった。少しでも花宮くんと同じクラスでいられるように、勉強も…そして部活も頑張ろう、とこっそり一人で握り拳を作ってみた。


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