入学してしばらくするとすぐに学力テストがあった。内容は小学校の復習とその応用問題。結果次第でまた席替えがあった。……ほとんど変わらなかったが。
相変わらず一位は花宮くん。私はまだ二位に着けているけれど、いつ突き放されるかはわからない。私のこれは努力とか、才能とかじゃなくて、ただの「時間」と「経験」だ。一度通った道を繰り返し学んでいるのだから他の人より定着力がかなり高いだけ。たったそれだけだ。もちろん他の人には真似できないことだろうけれど、言ってしまえば凡人の延長線上。花宮くんとは比べ物にならない。

学力テストが終われば部活の仮入部が始まった。特に強制ではないようで、勉学に集中したいという場合はいわゆる帰宅部という生徒もいるらしい。勧誘なども活発に行っている様子は見られなかった。
私は先生(初日に見た無表情の人が担任だった)に渡された校内図を見ながら体育館に向かう。体育館は二つあって、そのうちの第一体育館を男子バスケ部だけで使用しているらしい。流石に強豪だなぁ……と渡り廊下を過ぎると、そこに第一体育館は建っていた。

「おっき……広ぉ…」

まるで来るものを拒まないように開け放たれた体育館に踏み入ると、その大きさにくらりとする。ボールが弾む音とバッシュのスキール音。生徒たちの掛け声が高い天井に響く。その天井には数個のボールが引っかかっており、毎度思うが誰がそんなに打上げたんだと笑ってしまった。

「あれぇ、女の子じゃん」
「へっ」

辺りをきょろきょろと見渡していると、身長の高い明るい髪の男の人が声をかけてくれた。三年生だろうか、しっかりとした体格の人だ。

「どうしたの?迷子?」
「い、いえ。仮入部に……」
「え、まじ? 剛田!!女の子が!!きたんだけど!!」

先輩の嬉々とした大声が体育館に響き渡る。鳴り響いていた音は突如止み、視線が全てこちらに集まる。あまりにも居心地が悪く指先を擦り合わせると、多分「剛田」さんが「うるせえぞ相川!」とキレた。剛田さんは「相川」と呼ばれた目の前の先輩よりかなりがっちりとした体格をしており、難しい顔をしたままズンズンと言った足取りでこちらに近寄ってくる。どうしよう!と助けを求める視線を巡らせると、ゴール下に立っている今吉くんと目があったが、いつも通り裏の読めない笑顔で手を振られた。あの人頼りにしちゃ絶対ダメだ。

「うるせえぞ相川!!」
「っだ!!それさっき聞いた!!」

剛田さんは勢いよく振りかぶった張り手を相川さんの後頭部に当てる。鋭い破裂音が響く。とてつもなく痛そうだ。

「すまんな、相川の馬鹿が。一応こいつが部長なんだが……」
「まぁ、それもいつまでかわかんねーけどさ」
「え?」

相川さんと剛田さんは冷ややかな目でステージ上を見やる。そこには一切練習に参加している様子が見られない五人組が座っていた。何か、訳ありだろうか。

「それはまーおいといて、君新入生?まさかとは思うけど、男バスマネ希望?」
「あ、はい!マネージャー希望です!」
「うおお!!聞いた剛田!?マネ希望!!」
「聞いてるよ。うるせえ」

剛田さんはテンションの高い相川さんにため息をつく。そんなに喜んでもらえると思っていなかったから少し照れ臭い。先輩たちもいい人そうだし、うまくやっていけるかもと意気込んでいるとステージ上の一人と目があった。
その口元が弧を描くのに、背筋が凍った気がした。

「せんぱーーーい!勝手に決められたら困るっすよ〜!」

目があった男が心底おかしそうにそう笑う。そして私を指差して手招きをしてきた。なんだか気味が悪いけれど逆らった場合が恐ろしく一歩を踏み出そうとする。しかしそれは相川さんによって制されてしまった。驚きその横顔を見上げると、まるで鬼の形相でステージ上の男を睨みつけていた。

「勝手も何も、部長は俺だ!“部として”の決定権はまだ俺にある!」

違和感があった。“部として”ということは、“何として”の決定権があちら側にあるのだろう。一体この部では何が起こっているんだろう。今吉くんは、バスケ部は強いと言っていた。特に去年 一、二年だった今の二、三年の部員が強い、と。これは、本当に強豪のバスケ部なのか……?確かな不安が私に忍び寄る。

「はー?まじ誰に向かって口聞いてんすか。レギュラー戻りたくねえのかよ!いや、頑張っても無理か!」

汚らしくステージ上の五人は笑い声を上げる。相川さんも剛田さんも悔しそうに唇を噛んでおり、あの五人以外は誰も笑っていない。誰もが俯いて悔しそうに唇を噛み、そして爪が食い込むほど拳を握っていた。

こんなの、普通じゃ、ない。
私が知っているバスケットじゃない。

「あの……」
「悪いな。本当は、もっといいところなんだが」

まるで過去を思い出すように剛田さんが悲しそうに微笑む。どう答えたらいいかわからず、「いえ」とそれだけが言えた。

そして相川さんに今日は帰るように言われて、私はおじきを一つして体育館を出ていく。今の私にできることは、何もない。


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