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 お昼で盛り上がる『おぎのや横川店』は、年代問わず旅行客や地元の人が入り乱れて活気にあふれている。
 昼食は3人そろって『峠の釜めし』だ。発祥の地として知られるこの横川では人気の駅弁で、温かい陶器の釜から湧き上がる匂いはさっきよりももっとお腹を空かせる。

「「いただきまーす!」」

 そう手を合わせてから、ナマエはまず秘伝のタレに絡めさせた鶏肉を一口味わう。ジワリと口いっぱいに肉汁とタレが広がり頬を緩めると、ついで敷き詰められたご飯を食べる。昆布と出汁で炊いた茶飯を食べ、他の具材を口に入れ……と箸が止まらない美味しさだ。付け合わせの香の物は釜形の小さなケースに入っていて心躍らせる。
 唯一の家族である父は偏食家で、好き嫌いが激しいゆえに苗字家は外食はほとんどしないから、仲のいい人たちと食べるのは新鮮な気分だ。
 美味しいと女子ふたりで言い合っている間もシンは考えごとをして箸を進める気配がない。宇宙人の謎が気がかりのようだ。

「シン、冷めちゃうよ……?」
「なんの手がかりもないなんて、いつものことじゃない。そろそろ現実を知る頃かもよー?」

 つっけんどんな態度で食べ進めるアユの言葉をナマエはお茶とともに流し込む。
 たしかに学校でもシンの世界の謎好きはほとんどの人に理解されない。ナマエがそれに否定的にならないのは、何かの研究をしている父の教育の賜物だ。

 ──いいか、ナマエ。他人の興味あるものを否定してはいけない。相手の好きなものを理解できなくてもいい、まずは寛容でありなさい。話はそれからだ……。

 昔から散々聞かされ、今では父の考えを実践してシンの話の聞き役に徹している。楽しそうに話す彼は見ていて眩しいから……。

「こいつ食べたら、もう一回宇宙人の手がかり探しだ!」

 やる気を取り戻して釜めしをかきこむ姿にナマエは内心ほっとする。シンはいつでも元気でいてほしいと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。アユは未確認生物より、目撃された新幹線のほうがずっと気になっていた。

「それより、文化むらで新幹線探しよ!」
「だめ! 宇宙人!」
「ナマエちゃんはどっち!?」
「んっ!? わたしは……どっちも、かな……」

 話が振られるとは思わなかったナマエは口の中の香の物を急いで食べて、無難な答えを返したが、残りの滞在時間を考えてもどちらか一方を細かく探りたいふたりは、宇宙人! 新幹線! と主張し合った。
 膨れ面でにらみ合ってる姉弟のいさかいは、面白そうな話ねという声に遮られた。
 声のした方に向けると、スラリとした女性がテーブルの上のカメラを弄る手を止めてこちらを見ていた。
 シンは興味を持ってくれる人が他にもいてくれているのがわかり、にっこりと笑顔で彼女に近づいて話しかけた。

「俺の夢は、宇宙人と友達になることなんです!」
「へえ。どんな宇宙人?」

 これから話が弾みそうだった空気を壊したのは低い嘲笑だった。3人組の男たちが馬鹿にしたような目つきで席についていた。

「宇宙人と友達、ねぇ? ……子供はいいよな、無邪気で」
「俺もなりてぇ、めっちゃ可愛いエイリアンのアイドルと」
「いいねぇ、タコのアイドル」

 感じワルッとアユが唇を尖らせる。頭ごなしに揶揄うなんてイヤな大人だとナマエも思い小さくうなずく。
 席を移動する提案をするためにシンを呼びかけようとしたが、彼は男たちの前に立って口を開いた。

「可能性はゼロじゃない!」

 真剣な目をしたシンのいつもの口癖が出る。彼の父親がその夢を応援した言葉に、彼らは冷やかして大笑いした。言い返そうとアユとナマエが腰を上げたその時。

「──人の夢を笑うな」

 笑い声を鋭く裂くクールな一言。近くのテーブル席の白いつなぎを着た、シンとナマエと同じ年頃の少年が立ち上がる。

「アンタたち、人の夢を笑う資格があるのか?」

 敷かれたレールのような一直線の睨みつけるような視線。それを生意気と捕らえた男たちのうちのひとりが、その少年の襟首を掴んだ。
 あわやケンカ寸前とざわついた中、パシャリ! とシャッター音が鳴り響いた。

「はーい、そこまで。……アンタが先に手を出した証拠を撮ったわよ」

 カメラの写真を確認して不敵に笑う。シンの話を聞こうとした女性の勇気ある行動に誰もが安堵する。アユは格好いい姿に打ち震えている。

「下らない。相手がガキだとわかってるんだろう。大人として振る舞わないと……恥ずかしいことになるんじゃないか」

 青色のつなぎを身につけた男性が厳しく叱る。そして歯を見せて笑うと、分が悪い男たちは逃げるように出て行った。
 ナマエは詰めていた息を吐き出して、心配したとシンに駆け寄る。
 カメラの女性にお礼を言いたかったがもう遅く、また出会えたなら……と決意する。
 気を取り直して、午後の予定をどうしようかと口にする前に、ナマエは全身を駆け巡る怖気に襲われた。わき上がる震えを止めようと手をこすり合わせるが、指先は冷たくなるいっぽうだ。
 シンが大丈夫かと彼女の手を握る。ナマエはよくわからないが黙って何でもないと無理矢理頷く。

(どうして? こんなの、今まで感じたことないのに……っ)

 それより数秒後、つなぎを着た彼らのスマホが一斉に鳴った。素早くどこかに駆ける姿は何度も訓練を積んだような動きだ。
 つなぎの少年は昼食の皿を返却口に返していたが、傍に置いてある群馬県のマスコットキャラクターでも知名度の高い『ぐんまちゃん』のぬいぐるみが彼に向かってしゃべりかけた。

『アブトならきっと乗れる──』
「ばかっ、姿見せるな!」

 ぐんまちゃん──ではなく、手足の生えたようなスマホサイズの小型ロボットがその陰から出てきて、少年が慌てて両手で覆い隠して走り出した。
 シンとナマエはお互いの顔を見合わせ、シンは興奮したように口元をうずうずさせた。

「匂う、匂うぞ。世界の謎の匂い……!」

 いてもたってもいられず、荷物は椅子に掛けたままここに着た時と変わらずナマエと手をつないで同じように追いかけた。

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