男とは。

まただ。自分の部屋に帰ってくると、そこには既に先客がいた。ここは間違いなく俺の部屋なのに、部屋主の不在関係無くそこに居座る人物と言えば、2人くらいしか心当たりがない。その内の片方が、俺のベッドに横たわってゲームをしていた。

「おかえりー」
「……ただいま」

…じゃない。おかえり、ただいまじゃないんだよ。こっちに目もくれずに言うななしに心の中でツッコミを入れる。仮にも俺は男で、その男の部屋に上がり込んだ挙句、ベッドで寝転がっているなんて。スカートから伸びる無防備な脚、ワイシャツから少し透けて見えるインナー。幼馴染だから大丈夫だろうと思っているのか、それとも俺がそういった事に対して全くの関心がないと思われているのか。まあ関心は、他の健全な男子高校生に比べたら薄いかもしれないが、その相手が片想い中の相手となれば話は別だ。俺だって一応れっきとした男。何も思わない訳がない。

「…ちょっと」
「なに」
「もう少しなんとかしたら」

俺が脚を指差すと、そこでようやくななしは話を理解したのか、特に焦ることも無く「あぁ」と言った。失礼〜と悪びれた様子もなく笑うななしに苛立ちが募る。

「クロの前でもそうなの」
「まさか。クロは何するか分かんないし信用してないもん」

まさかの告白に、ぷつん、と何かが切れるような感覚がした。ななしの警戒心が薄いのは、どうやら幼馴染だからという理由ではないらしい。クロの前ではこうではないという事は、こんなにだらし無いのは俺の前だけだという事。それは、俺のことを男として見ていない証拠だった。俺はベッドに寝そべったままのななしの上に被さり、その腹の上に座った。

「ぐえ!重いよ研、」
「男の部屋でそんな格好してるなんて、何されても文句は言えないよね」
「え…」
「残念だけど、俺はななしが思ってる様な男じゃないよ」

驚いて固まったままのななしのワイシャツに手を伸ばす。ぷつんぷつんとゆっくりボタンを外していくと、そこでようやく我に返ったのだろう、顔を真っ赤にして俺の手を慌てて掴んだ。待って研磨!という制止にも聞こえないフリをした。

「いい加減限界」
「だから、待ってってば研磨!」
「よく頑張った方だと思うんだけど」
「そうじゃなくて…!」

必死に何かを言おうとするななしの言葉の続きが気になって、俺は動きを止めた。中途半端にはだけたワイシャツを握りしめたななしは、恥ずかしさから潤んだ瞳をあちこちに彷徨わせて、勇気を振り絞るように震える声を紡いだ。

「わざと、だから…」
「え…」
「研磨に…意識して貰えるように…わざとやってたの…」
「………」

今度は俺が固まる番だ。わざとあんな事をしていたと言うなら、それはつまりあれか。男として意識されてないどころかその逆で、男として意識されまくっていたということか。俺は再び彼女の服に手を伸ばす。

「わざとっていうのも問題だと思うけど、なら尚更遠慮する必要はないよね」
「け、けんま…」
「仕掛けたのはそっちだから、文句は聞かないよ」

今日は都合良く両親が出かけててよかった。