「暁に新しい仲間を迎え入れる」
暁のリーダーことペインは、淡々とした口調でそう告げた。たった一人、この場に呼ばれた俺は、露骨に舌打ちをする。今の一言で、その先に言われるであろう任務の内容が、簡単に予想付いたからである。そしてその予想通り、ペインは続けて言ったのだ。
「今回はサソリ。お前に行って貰う」
「めんどくせぇ。俺じゃなくても他にいただろう」
仲間の勧誘なんて、全然面白くない。俺の傀儡コレクションが活躍できる訳でもない、ただその人物の元へ行って、説得するだけ。お世辞にも口が上手いとは言えない自分が、何故選ばれてしまったのか。確かに今は数名任務で出払っているが、それでもここで留守番していたのは俺だけじゃなかった筈。
「本来ならイタチに行かせるつもりだったが…、生憎任務で出払っている」
「角都や飛段は」
「今回の相手は、あの二人では相性が悪いのだ」
その言葉が嫌に気になって、ぴくりと反応してしまった。相性が悪いとはどういうことか。イタチや俺なら良くて、角都や飛段だと駄目なのか。意味は分からないが、一筋縄で行くような簡単な相手ではないようだ。退屈な任務だと思っていたが、少しだけ興味が沸いてきた。角都たちでは無理だと言わしめるその人物をここに連れてきてやろうではないか。俺は、その人物に関する情報を貰った後、早速ソイツの元へと出発したのだった。
ーーーー・・・・
到着したのは夕刻。すっかり日が暮れ、真っ赤な夕焼けが俺の影を大きく伸ばしていた。里の外れにひっそりと佇む小さな小屋。聞くところによれば、ここでその人物は生活しているらしい。わざわざチャイムを鳴らしてごめんくださいなんて挨拶をするような礼儀は、暁にはいらない。ドカンと扉を派手に破壊して中に押し進むと、奥で机に向かっていた影がこちらに振り返った。
「なんなのアンタ…。人の家に勝手に上がり込んで」
「お前を暁に誘いに来た。拒否権は無い。暁に力を貸せ」
面倒な説明は時間の無駄だ。それに、その説明をするのは俺の仕事じゃない。とにかく俺は、コイツを暁に連れ帰る。ただそれだけだ。目の前で眉を顰める暁の新たな仲間は、やはり想像していた通り、小柄で貧弱そうな女だった。名前を事前に聞いた時、女だろうなとは思っていたが。こんな女が暁として働けるとは到底思えないが、わざわざ仲間にしろと俺を送るくらいだ。何か能力があるのだろう。部屋を見渡すと、何かの研究をしているのだろうか。見るからに危険な色をした薬品や器具なんかが並んでいる。そして、俺が訪問するまで向かっていただろう机にも、同じ様な薬品と道具が散らばっていた。
「暁?よく分からないけど、私がそこに入るメリットなど何も無い。女を誘いたいなら、口説き文句の1つや2つ覚えてくることね」
「ちっ。口だけは達者な女だ」
ズルズルとヒルコを操りながら、こちらに背を向けて研究の続きをするななしの背後に近付く。ここへ送り出される時、ペインに言われた言葉を思い出しながら。
『向こうが勧誘に応じなかったら、ヒルコから出ろ。そうすればきっと、話を聞いてくれるだろう』
ヒルコから出るのはいいとして、何故それでこの女が話し合いに応じてくれるのか。意味がわからない上に半信半疑ではあるが、こうなったら言われた通りにするしかない。俺は、ヒルコから外に出て簡単に暁の外套の襟を正すと、もう一度その背中に声をかけた。
「おい」
「…なに?しつこいと嫌われ、」
振り返った女は、驚いた様子で固まる。その女が持っていた何かの器具は床に落ち、コロコロと転がって抜け殻となったヒルコにぶつかっていた。目を大きく見開いて、俺を真っ直ぐに見つめたまま動かない女に、俺は再び先程と同じ台詞を口にした。
「もう一度言う。暁に力を貸せ。お前に拒否権はない」
「…は、はい…!」
「は?」
「あっ、違…!い、いや、その、別に、あ、暁とかよく分かんないし、私は、自分の研究が…」
突然素直になった女に、俺は思わず拍子抜けした声を漏らしてしまった。先程まで話すらまともに聞く姿勢じゃなかったのに、どういう風の吹き回しだろうか。すぐに訂正されてしまったが、この女は一度、暁に入ることを素直に承諾した。コイツを暁に連れ帰るのが俺の仕事だから、簡単に話がつくのなら、それが一番に越した事は無いのだが、どこか釈然としない。一体この一瞬の間に、何がコイツの気持ちを変えたのか。もしかしたら裏があるのかもしれない。目の前の女に疑うような眼差しを向けていたが、ふと頭の中に、任務に出る前のペインとの会話を思い出した。
『ヒルコから出れば、大人しく暁に入ってくれるだろう』
『はぁ?どういう意味だ。何故ヒルコから出ただけでソイツが仲間になるんだよ』
『上手くは言えないのだが…、ソイツは、イタチやお前のような男に弱い筈だ』
『全く意味が分かんねぇよ』
『会えば分かる。安心しろ、ソイツは必ず仲間になる。行け』
その時は意味が分からなかった会話を、今ようやく理解しかけていた。目の前の女は、俺にキラキラと輝いた視線を送ってくる。…そういうことか。自分で自分の顔をそう思った事はあまり無いが、この顔でひょこひょこ付いてくるというのなら、それ程簡単な話はない。つまりは、この女は若くて顔の良い男に弱いという事だ。ただこの女自身も、自分のその軽さを認められないらしい。苦虫を噛み潰したような顔をして、卑怯な、とか、誰が入るか、などと口にして暁に抵抗を示している。だが弱点を知ればこっちのものだ。俺はズカズカと女に容赦なく近寄ると、その顎を掴んでぐいと引き寄せた。
「テメェ、若い男に弱いんだろう」
「うぐ…っ、なにを、…!?!?」
女の唇に噛み付いて、口を塞いだ。くぐもった声と共に、俺の外套を弱々しく握ってきたが、その手もするすると力が抜けて床に落ちた。蕩けた目を向ける女は完全に堕ちている。もう拒む理性など残っていない筈だ。ゾクゾクと征服欲が満たされていくのを感じる。新しい仲間など、面倒なだけだと思っていたが、コイツはなかなか面白い。いい暇つぶし位にはなりそうだと口元を歪めた。唇を離すと、女は物足りなさそうに俺を見ている。傀儡にしか興味が無かった筈なのに、生きた人間を支配するというのもなかなかいいものだ。
「…ななし、暁に来い」
「…あ…、」
「そうすれば、この先の快感をもっと教えてやる」
「は…い…」
「暁に入ったら、お前は俺と組んで貰う。いいな」
「貴方と…?」
「お前を支配するのは俺だ。俺に従っていればいい。傀儡のようにな」
頭がついてきていないななしを他所に、俺は持ってきていたもう一着分の暁の外套を投げ渡す。大蛇丸が抜けて、俺のツーマンセルの相手がいなかったが、丁度いい。ペインに話をしてコイツを相棒にしてもらおう。そしてじっくりと教え込むのだ。この女に、俺の支配を。
数ヶ月後。
「テメェ、俺より前に出るなと何度言ったら分かる。弱い癖に前線に出ようとすんじゃねぇ、邪魔だ」
「大丈夫よ!私が危なくなったら、サソリが守ってくれるでしょ?」
「ちっ…」
「何だかんだ言って、いつも心配してくれるんだもん。素直じゃないんだから」
「帰ったら覚えておけよななし…」
ななしにすっかり手玉を取られるサソリの姿があった。