頭脳戦

「イタチさん」
「どうした」
「これ、どう思います」

ずい、とイタチの前に差し出されたのは、黄金に輝くみたらしがたっぷり掛かった団子。それを目にした時、思わずイタチも「おぉ…」と感嘆の声を漏らした。クールな彼には、甘味好きというギャップがあることは既にリサーチ済み。こんな美味しそうな甘味を目の前にして、あの言葉を口にせずにはいられないだろう。さぁ言え、言うんだイタチ!

「美味そうだと思う」
「………」

灰と化した私の手から、イタチさんは団子を奪って歩き去っていく。今日も今日とて作戦は失敗。やはり相手はあのうちはイタチ。そう簡単にこちらの思惑通りには動いてくれないということか…。悔しさの余り、その場に膝をついて地面を殴る。めっちゃ痛。

「鬼鮫の旦那。あれは一体何なんですかィ」
「いつもの事です。温かく見守ってあげましょう」

ヒソヒソと話すデイダラと鬼鮫を横目に、私はギリィと奥歯を噛み締めた。私が企んでいる対イタチの計画。その名も、「好きって言わせよう作戦」は、始めてから1ヶ月の月日が経つが未だ成功の芽は見えない。これまであらゆる手を使ってきた。眠るイタチさんに催眠術をかけたり、好きと書いたカンペを見せて言わせようとしたり、今の様にイタチさんの大好物をチラつかせたり…。しかし彼は言葉巧みに私の企みをひらりと交わす。本当に手強い男だ。

しかし、ここで諦める訳にもいかない。イタチさんのあの甘く低い声で、好き、って言われたい。例えそれが、私に対しての言葉じゃなくても…。ならば、ここでクヨクヨしている場合ではない。急いで次なる作戦を考えなければ。私は懐から使い込まれたメモ帳を取り出し、がりがりと凄い勢いで筆を走らせた。よし、今度はこれだ。今度こそ成功するだろう。今回の作戦は今までで一番自信がある!

先程イタチさんが歩き去って行った方へと走ると、まだそう遠くへは行ってないだろうイタチさんを探す。見慣れたその背中を見つけ、大きな声で呼び止めた。

「イタチさーん!待ってー!」
「…ななしか。どうした」
「ゲームしませんか!」
「ゲーム?」

私がイタチさんの背中に書いた文字を、イタチさんが当たるというゲーム。やらないかと誘うと、いいだろう、と写輪眼を光らせながら頷いた。行きますよ、とその背中に人差し指を添える。さあ、いよいよだ。私の悲願が達成する時が、すぐ目の前に迫っている。どきどきと高鳴る心臓を感じながら、私はその背中に指を滑らせて文字を書いた。

「…す、か?」
「当たり!じゃあ二文字目」

き、とゆっくり指でなぞる。この文字をイタチさんが口にすれば、私の勝利。作戦成功だ。ワクワクとその背中を見つめて言葉を待つ。しかし幾度も待てど、最後の一文字をイタチさんの口から紡がれることは無かった。私が訝しげに「イタチさん?」と後ろから問うと、イタチさんはくっくっと喉を鳴らして楽しそうに笑っているものだから、私はただぽかんと口を開けた。

「そんなに俺に言わせたいのか?その言葉を」

振り向いたイタチさんの悪戯そうな笑み。それを見て、私は全てを察した。この人は最初から私の目論見などお見通しで、わざと言わなかったんだ。つまり私はずーっとこの人の手の平の上で踊らされていた訳か!完敗だ。悔しくて大きなイタチさんを睨む様に見上げる。

「そんな顔をするな。あらゆる手を使って言わせようとするお前が可愛くてついな」
「か、かわ…!?」
「好きだ、ななし」

あれだけ言わせるのに苦労した台詞を、こうもさらりと言われるとは。しかもそれは、私に向けられた言葉だった。私はそんなイタチさんに飛び付きながら返す。

「私も好き!」