デイダラにセクハラする

おっぱいは世界を平和にするって、本気で思うんですよ、私は。いきなりどうしたって思われるかもしれないんですけど、でもそうじゃありませんか?男性は勿論のこと、女性も、あのふかふかなおっぱいが大好きな方、沢山いらっしゃると思うんです。当然、私も大好きですよ、おっぱいは。大きなお胸をされている方は、つい目で追ってしまいますし、いいなあって羨ましく思っちゃう。逆に控え目な方は、可愛いなあ、愛おしいなあ、って思うんです。ねえ、分かるでしょう?この気持ち。男である貴方なら、尚更。

「お前、何言ってんだ、うん」

そう私が熱弁すると、目の前の男は心底軽蔑するように眉を寄せて、こちらを見下ろした。開いた瞳孔が、私を冷たく突き刺している。思っていた反応とは180度違う返事が返ってきたことに、私もきょとんと目を瞬かせた。あれ、おっぱい好きじゃないのかな。デイダラ。

「デイダラも好きでしょ?おっぱい」
「興味ねぇ、うん」
「嘘だあ。何かっこつけてんの?」
「かっこつけてんじゃねえよ!本気で興味ねえんだよ!うん!」
「ええ?そんな馬鹿な」

そんな人いるの?この世に。まあ実際目の前にいるこの男は、たった今声高らかに興味ない宣言をした訳だが。でもなあ。そんな人いるのかなあ。信じられないなあ。だっておっぱいだよ?ふかふか夢いっぱいのおっぱいだよ?疲れた時とかさ、ふと包まれたくなるじゃん。ああ、柔らかいお胸に包まれて眠りたいなあって思うじゃん。

「思わねえよ!うん!お前だけだろ!人を勝手に巻き込むんじゃねえ!」
「いやいや。絶対みんな好きだからね。デイダラは知らないだけでしょ、あの魅力を」

童貞でしょ?と付け足せば、プライドの高い彼はたちまち顔を真っ赤にしてぴきぴきと血管を浮き立たせる。今の発言はちょっとまずかったかな、なんて思ってももう遅い。一度口にした言葉を取り消すことはできないのだ。すっかり臍を曲げてしまったデイダラは、「あっち行け!」なんて子供のような事を言いながらそっぽを向いてしまった。ああ、やってしまった。こうなると、彼はなかなか機嫌を直してくれないのだ。

「ねえ、デイダラごめんね」
「…………」
「デイダラってば」
「………」
「ほら、私のおっぱい、触っていいから」
「は!?」

つんつんと肩をつつきながら何度も謝って。ごめんね、気にしてたよね、悪気はなかったんだけど、と謝罪と言い訳を繰り返していく内に、デイダラはより不機嫌になっていく。これは益々マズイと悟った私が繰り出したのは、最終手段。繰り出された、『ごめんね、おっぱい揉む?』の秘奥義により、ずっと無視を決め込んでいたデイダラが勢いよく振り返った。…ほら、食い付いてきた。やっぱり好きなんじゃん。興味あるんじゃん。そんな私の心の声は、表情ににんまりと滲み出ていた。デイダラの眉間の皺が、より深く刻まれていく。

「テメエ…、オイラをおちょくってんのか…」
「おちょくってないよ。触る?って聞いただけじゃん」
「ふざけんな!お前の胸なんか触ったって、こっちはちっとも得しねぇんだよ!うん!」
「酷い事言うねえ、デイダラ」

まあでも確かに。私もそんな自慢できるような胸を持っている訳ではないし。私のこれを触ったところで、デイダラに何の得もないというのは事実か。ごめんごめん、とへらへら笑う私に、盛大な舌打ちを落とすデイダラ。何なら唾まで吐き捨てて中指を立ててきそうな勢いである。…どこのチンピラなんだ、君は。

「なら、私が触ってもいいかな」
「は?」
「いただきます」

デイダラが触らないと言うのなら、私が触らせて貰おう。謎の結論に至った私は、彼の承諾も得ぬままに、その胸にぴたりと両手を添えた。さわさわ、と黒の外套の上から優しく撫でる。手の平から伝わってくる感触は、何も柔らかくない…、男の硬い胸板があるだけだ。石のように硬直して頭を真っ白にするデイダラ。抵抗してこない事を良い事に、私は存分にその胸板を堪能したのだった。暁の中では小柄に見える彼も、こうして触れてみると、やはりれっきとした男性で。当たり前と言えば当たり前なのだが、私からしたら十分に男の体をしていた。贅沢を言えば、もう少し筋肉が付いていればもっといいかなーとは思うけど。

「……………」
「うーん…。やっぱ硬いなあ。これはこれでいいけど」
「…………」
「飛段とかさあ、もっといい雄っぱいしてそうだよね。今度触らせて貰おうかな、」

かな、と言いかけた瞬間だった。いきなり体を壁に叩き付けられて、あまりの勢いに思わず悲鳴が漏れるところだった。強く打ち付けた背中がじんわりと痛む。何、なに、なんなの、とパニックになる私の前には、勿論ご立腹のデイダラ様。獣が唸りを上げるようにこちらを威嚇して、押さえ付けている私の手に力を籠める。あまりの迫力に、数分前の自分を呪った。

「で、でいだらさん…?」
「気が変わった。お言葉に甘えて、触らせて貰おうか、うん」
「わ、私の胸なんか触ってもつまらないと思いますけど…」
「オイラが確かめてやるよ。飛段のクソ野郎とどっちがマシか、うん」

いや流石に飛段よりはいいおっぱいしてると思いたいよ!?だって飛段は男じゃん!比べる対象違くない!?と思ったところで、それを言葉にする暇など与えてはもらえない。べろりと舌を出すデイダラの手の平は、真っ直ぐ私の胸へと伸ばされていく。軽率に『触る?』なんて言った私の馬鹿野郎。

ぐっと目を瞑って、ごくりと生唾を飲み込んだ。最後に聞こえたのは、「オイラのは高く付くぜ、うん」という楽しそうな声。それが分かってたら、決してデイダラの胸を触ろうなんか思わなかったのに。騙された、悪徳商法だ!クーリングオフ!!クーリングオフ!!

「返品は利かねえぞ、うん」


さっきまでの初心はどこへ行った、デイダラよ。