デイダラと歯医者に行く

「うわああぁんやだあああデイダラあああ!!!」
「喧しい騒ぐな!!うん!!」

泣く子も黙る、犯罪者集団、暁。そのアジトにて、真昼間から響き渡るのは悲痛な泣き声だった。それは決して、幼子のものではない。アジトの一角で、オイオイと泣き縋る私と、そんな私に服を引っ張られているデイダラ。その光景を目の当たりにした鬼鮫が、遠巻きから指を差した。

「イタチさん、何ですかアレ」
「……歯医者に行きたくないらしい」
「はぁ…?」

全ての元凶は、私の口の中に潜む悪魔だった。なんか違和感あるなぁ、と思ったのが数日前。その違和感は瞬く間に痛みへと変貌した。今もジンジンと痛むそこは、私の歯を蝕んでいく。…つまりは、虫歯になったので歯医者に行かなければならないという訳だ。子供の頃から歯医者が大嫌いな私にとっては、これ以上の苦痛は無かった。

「やだよぉ行きたくないよぉデイダラ治してよぉ」
「無理に決まってんだろ!オイラは医者じゃねぇ!腹括ってさっさと行くぞ!うん!」
「やだ!絶対やだ!助けてイタチ!!」
「お前、オイラが付いてくるなら行くってさっき言っただろうが!うん!」

デイダラにもサソリにも虫歯の事がバレて、『さっさと歯医者に行け』と言われ続けた昨日。私は今の今まで、それをずっと無視し続けていた。だって怖いんだもん。幾つになっても怖いものは怖いよ。デイダラもサソリも他人事だと思ってそんな事を言うんだ。いよいよ本格的に怒り出したデイダラが、リーダーにチクったせいでみんなに筒抜けになり、「早く行ってこい」と全員が口を揃えて私を責める。この残虐集団め。

「デイダラ〜………」
「お、おい……」

終いには、ぐずぐずと鼻を鳴らしながらデイダラに抱きついて、その肩元に顔を埋めた。動揺するデイダラの手が、宙を彷徨う。密着する体に唸りながら、思わぬラッキーな展開に頬を染める彼だったが、デイダラの肩でチーンと鼻をかむと、ばしんと頭を叩かれた。

「痛い!」
「…さっさと行くぞ、うん」

首根っこを掴まれて、ずるずると引きずられていく体。助けて、と手を伸ばしても、イタチも鬼鮫も少し困ったように笑いながら、「頑張っておいで」と見送るだけであった。ひどい。裏切り者。鬼。デイダラの鬼。連行されている間、数々の暴言を浴びせても、「へーへー分かった分かった」と気の抜けた返事しか返ってこない。

結局そのまま私は、街の歯医者に連れてかれ、名前を呼ばれるまでの間、退屈そうに脚を組んで座るデイダラにしがみ付いていたのだった。私たちの他にも、待合室にはチラホラと同士たちがいて、小さな子が静かに絵本を読みながら待っている。これではどっちが大人か分からない。

「見ろ、お前よりずっと小せぇガキでもあんなに良い子に待ってるぜ、うん」
「うるさい!デイダラに私の気持ちなんて分かるもんか!」

腹を立てる私を、くっくっと喉を鳴らして笑う彼は、完全にこの状況を楽しんでいるようだ。…いつか、いつか必ず、今日の私と同等の恐怖を味あわせてやる…。


そして、ついに。



「さーん」
「!!!」

開いた治療室の扉から、お姉さんの呼ぶ声が聞こえた。死刑執行の時間がやって来てしまったらしい。顔面蒼白で固まる私を見て、デイダラは大きな溜息を1つ漏らした。ここに来るまでと同じように腕を掴まれて、ズルズルと引き摺られていく。嫌だ、やめて。お願い連れて行かないで。…もう何度目か分からない懇願。デイダラは、私の言葉には一切耳を貸さなかった。通り過ぎ様に、歯科助手のお姉さんが小さく微笑みながら、「付き添いの方ですか?」なんてデイダラに聞いている。

「で、でいだら…!」
「終わるまでここにいてやるから、うん」

子供のお守りをするように、診療台の傍らにある椅子に座って、デイダラはただずっと手を握ってくれていた。案外優しいところもあるものだ。ぎゅっと骨張った手を握り返して、その優しさに甘える。

「デイダラ、頑張ったらいい子いい子ってしてね…」
「してやるから…、しょうがなねぇ奴だな…うん」
「ほんとに?ほんとに約束だからね?」
「はいはい分かった分かった、うん」
「チューもしてね」
「もう分かったから、さっさと前向けって、うん。…………、うん!?」

クスクスと微笑ましそうに笑う歯医者さんたちに囲まれて、デイダラは慌てて椅子から立ち上がっていた。ちょっと待て、という彼の制止の声など、始まってしまった治療のけたたましい音に掻き消されて。どさくさに紛れてチューの約束を取り付けた私は、ただ密かに、口の端を吊り上げていたのだ。












「アイツが歯医者嫌い?…んな訳あるか。よくクリーニングに行くとか言って、一人で通ってるのを見たことあるぞ」
「騙しやがったなあのクソアマ!うん!!」

サソリの口によって全てがバレたのは、ちゃっかりご褒美を貰った、その翌日の事であった。