男子の一言金鉄の如し

しのぶの提案により、私の血の特性を使って薬を作る事になったあの日から、1週間が過ぎようとしていた。前にも言ったように、私の血は無限ではない為、採血する日は必ず間隔を置いて設けられている。それを破ろうものなら、「自分の体を大切にしなさい」ともれなくしのぶからのお説教が飛んでくるのだ。と言っても、例外はある。前回の煉獄との任務の時は、緊急事態であった為に咄嗟に採血を行った。ああしなければ、煉獄は生きていたとしても、私はもしかしたらこの場にいなかったかもしれない。

そして、明日はその決められた採血の日だ。私はまた、柱の誰かと夜を共にすることになる。明日の同衾の相手は、



(あ…、錆兎………)


ちょうど、屋敷の庭から錆兎の姿を見かけた。まさに明日同衾する相手である錆兎が、たった今任務から帰って来たのだろう。その隊服には土汚れや返り血が付着しているものの、本人には怪我はないようだ。その隣には、一緒に任務に出かけていた水柱の冨岡もいる。一瞬声を掛けようか迷ったものの、私は結局、こちらに気付いていない2人の背中を黙って見送った。今までであれば、おかえりの一声でも掛けて、2人を労っただろう。しかし最近の私は、どうにもそれが出来なかった。というのも、それには理由があるからだ。


(錆兎…、なんか私に対して怒ってるような気がするのよね…)


柱の人たちと同衾して薬を作る。そう決めたあの日から、錆兎は私を避けている、ような気がする。はっきりと何かを言われた訳ではないし、もしかしたら私の勘違いかもしれない。けど、今までずっと一緒に過ごしてきて、言ってしまえば柱の中では錆兎と冨岡が一番付き合いの長い2人だ。恐らくこの予感は当たっているだろう。錆兎は、私に対して何か思うところがあるのだ。


「…にしても、錆兎にしては珍しい…。思った事は本人に直接言う人だと思ってたんだけど」


男らしい真っ直ぐな錆兎が、こんな回りくどい事をするようには思えなかった。何か不満があるならば、ちゃんと当人同士で腹を割って話す。それが錆兎の性格だからだ。今までも彼には何度か怒られたことがあった。任務で無茶をした時とか、鬼に対してツメが甘かったり気を抜いてしまった時とか、それはもうがみがみとまるで母親のように説教してきた事が何度もある。でも、こんな風に避けたりとか、無視したりとか、そういう事をするような人じゃなかった。はっきりと気持ちを伝える、そして最後はちゃんと分かり合う。それが錆兎だった筈なのに、そこにも何か理由があるのだろうか。さっぱり分からない。そもそも一体何に対して怒っているのかすら分からなかった。


(分からない以上謝ることもできないし…、そもそも、本当に錆兎が私に対して怒っているかどうかの確証もない…)


でももう話さなくなって一週間が経とうとしている。仲間内でこんなことをしていたら、もし一緒の任務になった時に支障が出るし、やっぱり寂しい。私に悪いところがあるなら言ってほしい。ちゃんと治すし、謝るから。だから、錆兎、どうか私のことを、



「師範!!」



はっ、と弾かれるようにして顔を上げると、不思議そうな顔をした私の継子がこちらをまじまじと見つめていた。物思いに耽って固まっている私を不審に思っていたようだ。堪らず声を掛けて、私の意識を引き寄せた。お陰で目が覚めた私は、取り繕った笑顔を浮かべてその場を誤魔化す。

「ご、ごめんなさい。今は稽古中でしたね。続きをしましょうか」
「師範、どうかされましたか。今日は何だか稽古に集中されてないように見えますが」
「いえ…。私の問題です。柱でありながら稽古中に考え事だなんて…、ごめんなさい」
「それは大丈夫なのですが…」

深々と頭を下げる私に、継子は困惑した表情を浮かべていた。私らしくない姿に戸惑っているのだろう。しかしやはりどことなく元気がない私を目の当たりにして、その子は少しだけ考えるような仕草を見せた後、ぽんと手を叩いて笑ってみせた。


「師範!俺休憩したいです!少し休憩しませんか?この間の任務の時、美味しいと評判の団子を買ってきてたんです!」
「…八田羽くん。気を遣ってる?」
「いえ、全く。俺が食べたいんです、師範と一緒に。如何ですか」
「………、分かりました、休憩にしましょう」


継子に気を遣わせるなんて、ますます柱失格だ。はあ、と深い溜息を吐きながら、屋敷の中へと上がっていく継子の背中を見送る。気持ちを切り替えなきゃ。錆兎の事は、またちゃんと考えて解決しなくては。

ぱん、と気合を入れるために自分の両頬を叩くと、私も継子の後を追う様に縁側から屋敷の中へ上がった。そんな私の背中を、遠くから錆兎が複雑な表情で見つめていたとも知らずに。






◇◆◇◆







事が起こったのは、その次の日の夜だった。偶々用があって、鬼殺隊本部を訪れていた私は、屋敷に帰るために暗い闇夜の中を一人で歩いていた。この時既に私は、ある気配を背後に感じていたのだった。

(誰かが私の跡をつけてる…。しかも同じ隊服……鬼殺隊の誰かね)

向こうは隠れているつもりだろうが、気配はまるで隠せていない。私も柱だ、この程度なら流石に気付く。しかし同じ隊士、しかも恐らく下級の者であろうその人は、何故私を尾行しているのか。しばらくは様子を見ようと気付かないフリをして歩いていたが、やがてある程度までやって来ると、私はピタリと足を止めた。

「…何か私に御用ですか?」

誰もいない背後へ問いかけると、暫くの間の後、渋々といった様子で一人の隊士が出てきた。顔に見覚えはない。やはり下級の隊士の様だ。

「全く気配が消せていませんでしたよ。私が鬼だったら、貴方は今頃喰われていたでしょう」
「……………………」
「………?」

何の反応も示さない彼に、私もいよいよ不審さを感じ取った。何だろう、彼が持つこの言い様のない雰囲気。目は獣の様にギラギラと光り、呼吸を荒くさせてこちらを睨んでいる。一瞬鬼化でもしたのかと警戒したが、そういう訳でもないようだ。彼はまだちゃんと人間のままである。

「どうし…、」
「鳴柱の血が薬の材料だという噂は、本当ですか」
「え…?」
「俺たちの間で噂になってるんです。鳴柱の血が、あの万能薬の元だと」

思わず動揺し、狼狽えた。まさかそんな事を聞かれるなんて。私の血の事や、あの薬の作り方は、しのぶに固く口止めされている。知っている者は柱しかいない。だからこの隊士が核心を突いてきた事に驚きを隠せないでいた。咄嗟に取り繕いながら笑みを浮かべる。

「何を馬鹿な事を。そんな訳がないでしょう。私は只の人間です」
「……あの薬は凄いんです…。飲んだ瞬間体が熱くなって、気分が高揚する…。薬の力で鬼の頸を斬った時、とても興奮しました。あの時の感覚が忘れられないんです」

目は血走り、ダラダラと涎を垂らす。物欲しそうに私に向かって手を伸ばす姿は、とても人間には見えなかった。鬼とはまた違った恐怖が込み上げてきて、思わず絶句する。ジリジリとこちらに歩み寄り距離を縮めて来るその男に、私は混乱していた。

「あの薬が欲しい…。配って貰った分を、今日で全て使い果たしてしまいました」
「あの薬は本当に緊急の時以外、使ってはならないと言われている筈です。悪戯に乱用して薬に頼るばかりでは、貴方自身はいつまでも強くなれません」
「鳴柱様………、薬を下さい…。俺、あの薬がないともう不安で不安で、落ち着かないんです…」

次の瞬間、私は頭が真っ白になった。目の前のその隊士が、切っ先を光らせた注射器を取り出したからだ。ひっ、と小さく悲鳴が漏れ、顔を真っ青にする。状況に頭が付いていかない。一体何が起こっているのか。どこでそんな物を手に入れたのか。かと言って、さっきも言った様に彼は鬼になった訳じゃ無い。殺す訳には行かないし、何とか目を覚まさせてやらなければ。組手で応戦しようと必死に自分を奮い立たせるが、目の前の初めて見る、欲望を剥き出しにした『男』に恐怖心を感じてしまって、思考が止まる。冨岡や宇髄や煉獄の時は、こんな恐怖や気持ち悪さなど一切感じ無かったのに。知らない男の欲とはこんなにも恐ろしく、不快なものなのか。

やがてその隊士は、遂に目の前までやってきた。私を掴もうと伸ばしてくる手を交わし、何とか言葉を掛けて目を覚まそうとする。彼が何故こんなに興奮状態なのかは分からないが、とにかくこの状況を何とかしなければ。焦る私を前にして、隊士は小さくか細い声で、心の奥底の思いを口にしていた。



「死にたく無い…………、死にたく無い…………」



その言葉を聞いた時、私は固まった。この隊士は、ただ死が怖いだけなんだ。鬼との戦いが、怖くて辛いだけなんだ…。だから薬に縋ろうとしている。恐怖と戦うために。鬼と戦うために。

(鬼が…怖いのね……)

そう思ったら、この隊士を責めることなど出来なかった。ただ鬼を殺せる刀を持っているだけで、この男も町の男と変わらない。ここに集っている者たちは、皆が皆、他の柱の様に強い訳ではないし、鬼に対して恐怖を感じない訳じゃ無い。


血を…、私の血を上げるだけで、この子の恐怖を少しでも和らげてあげられるなら………。







「名無し?」


ふと別の方から名前を呼ばれて、私は顔を上げた。訝しげにこちらを見ている錆兎が、そこに立っていた。何をしてる、と言いかけて、錆兎の視線は男の隊士を捉える。そして、その隊士が持っている注射器を目にした瞬間、ぞわりと血の気を引かせて怒気を露わにした。

「お前…何をしている!柱に対して無礼な!」

私に掴みかかる隊士の肩を、錆兎が勢いよく掴んで、そのまま地面に投げ飛ばした。倒れる隊士の手から転がり落ちた注射器を、容赦なく踏み抜いて粉々に砕く。この隊士がしようとしていた事を、錆兎は瞬時に悟ったのだろう。危機一髪の所で救われた安堵感に、私は胸を撫で下ろしてその背中を見つめていた。


「立て。そんなに強くなりたいなら俺が直々に稽古を付けてやる」
「…………」
「薬に頼って得た強さなんて偽りだ!勘違いするな!男なら自分の実力で戦え!」

ぎゅっ、と地面を握り締める隊士の肩が、小さく震えている。微かに嗚咽のようなものも聞こえてきた。それでも錆兎は一切の甘さなど見せない。彼を冷たく見下ろし、厳しく叱り付ける。

「力を付けなければ、いつか必ず鬼の餌食になる。薬を使って戦ったところで、そんなのはその場凌ぎに過ぎない!お前自身が強くならねば何も変わらない!」
「…お前たちみたいな化け物染みた強さを持った奴には、俺の……俺たち下級の隊士の気持ちなんて分からない!どれだけ鍛錬を積んだって、どれだけ稽古をしたって、鬼と出くわした時は怖くて体が震える…。死にたくない…!任務が怖いんだ…!」
「分かりたくもないな。男でありながら情けない。俺がその根性を一から叩き直してやる!」

錆兎の手が、腰の日輪刀の柄に伸びた。ずっと成り行きを見ていた私は、弾かれるようにして咄嗟に口を挟む。


「錆兎!」
「……………」


私に名を呼ばれて、錆兎はようやく怒りから我に返ったようだった。ぐっと悔しそうに口を噤んだ後、渋々と言った様子で手を降ろす。隊員同士での抜刀はご法度だ。

「……行け。俺がまた、怒りに我を忘れて刀を抜いてしまう前に」
「…え……」
「早く行け!」

本来なら、この隊士がした事は何らかの処罰が下される程の事だ。恐らく隊士自身も、それを覚悟していただろう。しかしその覚悟とは裏腹に、何のお咎めも無しに「行け」と錆兎に吐き捨てられて、隊士は困惑したような表情を浮かべた。本当に行ってもいいものか迷う彼に、錆兎は怒鳴る。このままお前の顔を見ていたら斬りかかってしまいそうだ、と怒りを押し殺しながら。

慌てて逃げるように走り去っていった彼の背中を、私はぼんやりと見つめていた。もし錆兎が偶々通りかかっていなかったら、私はどうなっていたのだろうか。血を取られて、あの隊士はその血を飲んでいたのだろうか。改めて考えるとゾッと背筋が震えた。加えて、隊士を見逃してからずっとこちらに背を向けたまま、黙り込んでいる錆兎にも身が凍る思いだった。私に対しても怒っていることは明白だった。


「……何故あの時抵抗しなかった?」
「え…?」
「俺が来なければ、お前はあの隊士に血を分け与えていただだろう」

図星を突かれて、何も言い返せなくなる。隊士の心の奥に眠る、普段は言えないような本音に同情してしまった事は事実だ。そして私は、そんな彼に哀れんで、一瞬でも血を与えようか迷ってしまった。柱という立場である以上、私も錆兎のように厳しく叱責し、彼を突き飛ばさなければならなかったのに。私の甘さが招いた結果でもある。あの隊士ばかりを責められない。

「それは………」
「お前はいつもそうだ。鬼と戦っている時も、今の隊士に対しても…。名無しは甘すぎる」
「私の甘さが招いた結果である事は十分理解してるし、反省もしてる…。けど、みんながみんな、錆兎や他の柱の様に強い訳じゃない。事情も、鬼殺隊にいる理由も、皆違う…。彼にもそれを求めるのは酷だよ」
「酷だろうが何だろうが、強くならなければ生き残れない!ここに身を置く者なら尚更だ。俺はそうやって死んでいった隊士を何人も見てきた!」

振り返った錆兎の怒声に、私は息を呑んだ。彼に説教をされることは度々あったが、ここまで本気で怒りを露わにする彼を見るのは、どれくらいぶりだろう。それこそ、冨岡が水柱になった時に、錆兎の方が相応しい云々と冨岡に言われて、ブチ切れた時以来だろうか。あまりの迫力に、ひゅっと喉の奥が鳴った。

「…お前のその薬を飲んでから、下級の隊士たちにどんな影響が出ているか知ってるか」
「え……」
「もっと薬を寄越せ、薬があれば鬼に勝てると、普段の稽古にも手を抜き、薬を強請る腑抜けが増えた」

初めて聞く実体に、私は頭が真っ白になった。そんな事、しのぶは一切言っていなかった。初めて薬を数名の隊士に支給した時、「どうでしたか」と聞いたら「素晴らしい成果でしたよ」としか答えなかったのに。きっとしのぶは、敢えて私にはその事を隠していたんだ。私が聞いたら衝撃を受けると思って。

まだ薬は試験的にしか導入されておらず、そんな沢山の隊士には配給されていない。恐らく先程の隊士も、実験的に配られて使用した、数少ない隊士の一人だったのだろう。私もまだそんなに採血した訳ではないし、薬の在庫もそんなにある訳ではない。しかしたった1回の配給で、薬に対してあそこまで依存していた。鬼に対する恐怖が強い者ほど、縋りたくなるのだろう。良い影響ばかりではない事は知っていたが、まさかこういった方向にも悪影響が出るとは。

「俺はずっと反対だった。こんな薬を作ったところで、ソイツ自身が強くなれる訳ではない。偽物の強さに縋ったって、それはその場凌ぎのはったりだ」

それに…、と言葉を一度区切って、錆兎は真っ直ぐ私を見る。月の光を背にした彼は、先程までの怒りは形を潜め、切なそうに表情を歪めていた。

「薬を作る為には、お前が男と同衾しなければならないなど…、納得いくものか…!」
「錆兎……」
「お前の体は安いものじゃない!何故もっと自分を大切にしない!」
「あ…錆っ…、痛……!」

錆兎の手は、私の肩を力強く掴んだ。冷静さを欠いている錆兎の手には、ぎりぎりと力が込められて痛みが走る。顔を歪めて小さく痛いと悲鳴を上げる私を、彼はお構いなしに抱きしめた。

「薬の為とは言え、お前が他の柱と床を共にするなど…考えただけで気がおかしくなりそうだ……!」
「さ、さび…と……」

錆兎…、貴方の言葉はまるで、まるで…、他の柱の人たちに嫉妬しているようで…。誤解しそうになる。頭は熱を帯びてくらくらと回り、全身が一気に熱くなる。力強い抱擁に、私は心臓を吐き出しそうな程緊張していた。

「名無しをずっと傍で支え、守ってきたのは俺だ…。お前の血で薬を作るなんて、許せるものか……」

私の肩に顔を埋めて、消え入りそうな声で呟く彼の背中に、そっと腕を回した。痛い程伝わってくる、錆兎の気持ち。今でも覚えている、貴方と初めて会った日のことを。最終選別で鬼に喰われそうになっていた私を、錆兎は助けてくれた。お陰で私は今もここにいて、そして鳴柱になれた。

私と、錆兎と、冨岡は、切っても切れない縁で結ばれている。だからこそ、錆兎は納得できないのだろう。私の血を使って薬を作ることを。その為に、私が柱の人たちと同衾することを。

でも、それでも…。私は、薬を作ることに納得しているし、今更やめるつもりもない。私の意思が固いことは、きっと錆兎も分かってる。今更何を言ったところで、私を説得する事はできないだろうと。だから彼はずっと葛藤し、悩み、私のことを避けていたのだろう。私のことを理解するのであれば、否定するのではなく協力し、支えてあげなければならないのではないか。…そう、葛藤していたんだ。

「錆兎…。錆兎が私のことを大切にしてくれてる事、心配してくれてる事は十分伝わってる…。本当に感謝してる。でも私は…、」
「…分かっている。お前が、生半可な気持ちで薬を作ることを承諾した訳ではない事は。鬼殺隊の為に、その身を削ってくれていることは分かっている…。きっとこの薬は、大いに役に立つだろう…」
「なら、これからも傍で支えてくれる…?私が無茶して血を使ったりしないように…。錆兎なら、きっと優しく私のことを…扱ってくれるでしょう…?」

そっと懐から注射器を取り出して、それを錆兎に差し出した。今日は錆兎と同衾し、採血をするという決まりだから。私は他でもない、私のことを大切に思ってくれている錆兎に、血を採ってもらいたい。きっと彼なら、私に無茶はさせないだろうし、優しくしてくれる。

錆兎は、その注射器を無言で受け取った後、私をじっと見下ろした。男の経験がない私でも、錆兎が今何を思い、何をしようとしているのか、手に取るように分かって…。そのままそっと瞼を閉じた。近付いてくる吐息を感じて、ぴくりと肩を震わせたのと同時に。私と錆兎の影は重なった。


「ん……、ふ…ぁ……さび…と……っ」
「は……ぁ……、苦しくないか……」
「う……ん……。もっと……、もっと、」



溺れたい。そう告げながら何度も唇を重ね、どんどん熱くなっていく吐息を重ねて。そして錆兎は、私の腕に針を刺したのだった。

赤い液体が、注射器の中で月の日を浴びながら、きらきらと輝いていた。