イタチとデイダラ。珍しい組み合わせだなぁ、と思いながら、前を歩く二人の背中を見つめる。元々ここには鬼鮫とサソリ…、二人の本来の相棒もいたのだが、しつこい敵の追っ手を追い払う為、一旦別れて別行動を取っている。残されたのがこの三人という訳だが、普段から接点があまり無い組み合わせだ、会話も殆ど無くて気まずい。今日は久々に金稼ぎの為、依頼されたお仕事をこなしている最中だった。と言っても、勿論その内容は、あまり人様に言えるような綺麗なものでは無いのだが。今回のターゲットは、みんなの手にかかれば大した事のない敵なのだが、1つの組織を敵に回すということで、念のためイタチと鬼鮫、サソリとデイダラの2組、そして治癒係として私が派遣されたのだ。
普段ならデイダラの粘土で作った大きな鳥の背に乗って、空を飛んで移動するのだが、追っ手がどこに潜んでいるか分からない状況で、あまり目立つような行動は取りたくない。ということで、三人で徒歩で移動している訳なのだが、その間の会話はゼロ。イタチは何を考えているのか分からないし、デイダラは何処と無くピリピリしているように感じる。早く鬼鮫が帰ってきてくれることを願いながら歩いていると、前を歩いていた筈の背中とぶつかった。足元を見ながら歩いていたので気付かなかったが、イタチが立ち止まって私を待ってくれていたらしい。ぶっ、と間抜けな声を上げた私に気遣ってくれた。
「ななし、疲れてないか。遠慮せずに言ってくれれば、お前1人くらい負ぶってやろう」
「えっ、そんな、私はだい、」
「コイツなら大丈夫だ。いざとなればオイラの芸術作品に乗ればいいだけだしな、うん」
「…お前に聞いたつもりは無かったのだが、デイダラ」
私を負ぶろうとしてくれていたイタチに返事をしたのは、私ではなくデイダラだった。私の代わりに、食い気味で拒否を示している。元々そこまで甘えるのは申し訳なく思っていたので断ろうとはしていたのだが、デイダラが何かとイタチに突っかかろうとしている姿に、小さく溜息をついた。彼は、この暁に加入する際、イタチに完敗してから、何かとイタチには対抗心を燃やしているようだ。幸いにもイタチは大人な人なので、デイダラの突っかかりを上手くかわして事なきを得ているが、見てるこっちはいつ喧嘩になるかとヒヤヒヤものである。
「ななしの気持ちを代弁しただけだ、うん」
「そうか。ななし、いらない気を回してすまない」
「あ、いや、ううん!ありがとうイタチ!疲れた時はお願いします!」
頼むから私をサンドイッチしながら言い合うのはやめてくれ。愛想笑いを浮かべてこの場を何とか収めたが、デイダラはまだ納得いないのか。噛み付く犬のようにイタチを睨んでいるが、イタチはどこ吹く風といった様子だ。仲良くしなさい、とデイダラに言おうかどうしようか迷っているところで、突然イタチに腕を掴まれた。
「え、イタチ?私まだ疲れてないよ?」
「……腕を回せ」
「え、まだ私歩け、」
まだ歩けるからと告げたにも関わらず、私は強制的にイタチの首に腕を回し、彼に抱えられた。その瞬間、ぼこぼこと地面が膨れ上がり、モグラのように土の中から人が飛び出してきた。イタチとデイダラは高く飛び上がり、咄嗟に木の幹に着地する。呆然とイタチにしがみ付きながら、先程までいた場所を見下ろすと、こちらを忌々しそうに睨む覆面の男の姿があった。敵の追っ手が、鬼鮫とサソリから逃げ延びてきたのか。幸いにも、姿が確認できるのはこの男一人。数的にもこちらが有利であることは確実。
「へっ、死に損ないが!サソリの旦那から逃げてきたのか?うん」
「…ななし、下がっていろ」
「うん…、二人とも、気を付けてね」
私の前に出た2人が、男を見下ろしている。男は、こちらの言葉に何も反応を示さず、無言のままだ。ちっ、と小さく舌打ちをしたデイダラが、手の平から小さな粘土を沢山取り出した。一気に片をつけるつもりだ。起こるであろう爆発と轟音に心を構える。
「喝!!!」
ドカンと派手な音と共に、煙が空まで昇る。その音は地面を揺らし、爆風によって木が騒ぎ出す。「やったか」と期待を込めた眼差しを送るデイダラに、イタチは「まだだ」と忠告した。イタチの読み通り、黒い煙の中から光が3つ、こちらに向かって飛んできている。それを交わすように、私の体はデイダラに乱暴に掴まれて、木から飛び降りた。2人のこの身体能力と反射神経にはいつも驚かされてばかりだ。お陰で全くの無傷である私は、戦いに巻き込まれない様にと少し離れた場所に降ろされた。
「少しは手応えがありそうだな、うん」
「デイダラ…」
「大丈夫だ、ここで待ってろ」
二人が強いのは分かっているのだが、どうしても不安になってしまう。だが、私には戦う力が無い。闇雲に戦場に出たって、ただ足を引っ張るだけ。悔しい思いを抱えながら、こくりと頷く。「いい子だ」と頭を撫でてくれたデイダラは、普段は意地悪だけどこういう時にとても優しい。前に向き直ったデイダラとイタチが戦闘態勢に入ったのを感じ取ると、その背中からそっと離れた。今はただ信じるしかない。2人のことを。そして、万が一怪我をするような事があれば、私は迷わず自分の力を使うんだ。
煙も晴れぬ内に、イタチが口から火球を吹いた。光の刃が飛んできた元へと、燃え盛る炎が貫く。しかし、煙が晴れたそこには、敵の姿は無かった。忽然と消えた相手に、デイダラとイタチは周囲に気を張る。一体どこに消えたのか。不穏な気配はまだ近くにいるのが感じ取れるので、ここから逃げたという訳ではなさそうだが。赤い瞳を光らせていたイタチが、不意に叫んだ。
「下だ!!」
盛り上がった土から勢いよく出てきた覆面の男が、手にしていた短刀で2人を狙う。光る切っ先は、間一髪のところで避けたデイダラの頬を掠め、一筋の赤い血が垂れている。
「ちっ…!モグラかよ!鬱陶しい!」
「姿が見えないのは厄介だな」
再び潜り込んでしまった覆面の男は、今度はイタチの足元から現れ、その刀を腹に突き刺した。痛みに顔を歪めるイタチに、私も前のめりになる。「イタチ!!」と悲痛に叫ぶ中、イタチ本人は冷静だった。素早い敵の刀を、腹に刺さったまま掴んで捕らえ、虎を模した水が男を飲み込んだ。
「イタチ!!大丈夫!?」
「すまない、ななし、力を借りるぞ」
「うわぁ!?」
我も忘れて駆け寄った私に、イタチは一方的にそう告げて私の胸ぐらをガバリと開いた。いきなり!?私の返事も待たずに!?と思わず動揺するが、今は敵と戦っている真っ最中。いちいち確認する時間の猶予がない事は、私でも分かっている。勿論仲間であるイタチに対して力を使う事には何の抵抗も無いが、晒された自分の胸元を見下ろしながら、やはり恥ずかしさというものは拭えない。というか、噛めるなら別に腕だっていいのに!
「あっ…、」
「少し痛むぞ」
「あぁっ、う…、イタチ……」
あっという間にイタチに固く抱きしめられ、私の首元に顔を埋めて噛み付いた。歯を立てた後、ちゅう、と吸い付かれるような感覚。こんな強引に噛まれるなんて…。行為を終えたイタチは、私の襟元を簡単に直した後、背後から飛んできたクナイを片手ではたき落した。クナイを投げたのは眉間に皺を寄せたデイダラだ。
「攻撃する相手を間違えてるぞデイダラ」
「そりゃ失礼。俺はてっきり、女を襲う暴漢か何かかと思ったんでな、うん」
「2人とも!今は喧嘩してる場合じゃないよ!」
気付けばまた敵の姿がない。土の中に潜り込んでいるのか。急いで走ってその場を離れる私と、消えた男の行方を探すデイダラとイタチ。しかし次にその男が姿を現した場所は、デイダラの所でもなく、イタチの所でもなかった。私の目の前の土が急に盛り上がり、突然覆面の男が立ちはだかったのだ。急いで走っていた足を止めるが、既に男は目前。
「ななし!!!」
「しまった、狙いは向こうか…!」
男は私の鎖骨辺りにトンと指を置いて、何かを念じた。何を念じているのか、ブツブツと繰り返される言葉はあまりにも小さくて聞こえない。なす術なく固まった私の背後から、デイダラの怒声が響いた。「伏せろ、ななし!!」その声に弾かれて、私は地面に伏せて頭を抱える。頭上を飛んだ鳥の起爆粘土は、分身をした敵に当たり、爆発した。煙をあげ、焦げ臭い匂いを残したものの、そこに男の死体は無い。気配もすっかり消え失せた事が分かり、デイダラは忌々しそうに舌打ちをしたのだった。
「逃したか…」
「ななし、平気か」
「う、うん…」
デイダラに起こされて、私は自分の体を見つめた。何かされた事は確実なのだが、いまいち何が起こったのか分かっていない。今のところは、体に異変などは特に感じないが、あの男は私に一体何をしたのだろう。実感のない私の異変に一番に気付いたのは、デイダラだった。先程イタチに力を使った時にはだけた襟元を、デイダラは掴んで開いた。
「ちょ、何して…!」
「何だこれ…」
鎖骨の辺りに刻まれた、真っ赤な文字。紋様のような、不思議な文字が羅列され、そこに記されていた。どんなに指でなぞっても拭っても消えない。あの男は、私の鎖骨辺りに触れて何か念仏を唱えたいた。と言うことは、これがその術なのだろうか。イタチはまじまじとその紋様を見つめ、眉間に皺を寄せた。
「これは…呪いか」
「呪い…?」
「ななしの力を封じる呪い…。恐らく今、ななしは治癒力を封印されて、使えない状態になっている」
「そんな…!力が、封印…?」
「どうすればこの呪いは解けるんだ、うん」
「呪印の解き方には色々ある。この呪いにはどの方法が当てはまるのか…俺には分からない」
「解き方を見つけないと…!」
私がみんなの側にいられる、たった1つの理由が呪いによって奪われた。これじゃあ、ただのお荷物だ。私ができるのは、みんなの傷を癒すことだけなのに。悔しくて唇を噛み締めながら俯く。何としてでも、この呪いを解かなきゃ。日は既に沈み始め、空も夕方の色に変貌しつつある。丁度戻ってきた鬼鮫とサソリとの再会に安心しつつ、私は焦る気持ちを抑えていた。
(早く解かなきゃ……)
あの覆面の男。そして、この体に刻まれた呪いとの戦いは、これから長く苦しいものになる事など、この時の私は全く知らなかったのである。