あれから、もうすっかり夜になってしまった。今日は月の光が随分と明るい夜だ。デイダラの粘土が作った鳥に乗りながら、心地よい夜風に髪が靡く。夜空を舞う四羽の鳥。先頭を行くのは、私とデイダラが乗る1つ。その後ろに続くのが、それぞれイタチ、サソリ、鬼鮫の3つだ。私たちは、敵にかけられたW呪いWを解く鍵を探る為、ある場所に向かっていた。そこは、私の忌まわしい過去の記憶が眠る、生まれ育った故郷。
「あった、あそこの集落!あそこが私が生まれた里よ!」
デイダラの後ろから指を指す。ぼんやりと人工的な光が集まった小さな集落が見えた。デイダラ達を乗せた鳥は方向を変え、目的地へと一気に加速したのだった。
ーーーー・・・・
里の集落から少し外れた、山の麓。そこに目的地はあった。昔から変わらない、小さくてオンボロな小屋。私を先頭にして立つみんなは、一応犯罪者組織である事から、顔を隠す様に笠を被った。入るよ、という意味も込めてみんなを見渡すと、イタチがコクリと頷く。みんなの意を確認した後、一応中にいるであろう人物に挨拶の意味を込めて、ノックをしようとした。しかしその手は壁を叩く前に、中から聞こえた声に止められたのだ。
「いるのは分かっている。中に入れ」
「……!」
懐かしい声だ。私は緊張した面持ちのまま、暖簾を潜った。4人も後に続いて中に入って行く。小さな居間では、パチパチと音を立てながら火が焚かれ、奥から入り口に立つ私たちを見つめる老人の男の姿があった。
「久しいな、ななし。お前がこの里に帰ってくる日が来るなんて」
「おじいちゃん、お久しぶり。変わらず元気そうで安心した」
立派な髭を撫でながら、お爺ちゃんと呼んだその男は、私の後ろの仲間を見渡した。笠の奥から警戒するような目を4人分向けられて、やれやれと首を振る。この人は、私がまだこの里にいて力を利用されていた時、唯一味方としていつも匿ってくれていたお爺ちゃんだった。私たち一族が常に辿る悲運を長年に渡って見守り続け、出来る限り力になろうとしてくれていた。その経験から、私の一族に馴染みの深いこの人なら、何か知っているかもしれないと目論んだのだ。
「後ろの男共も、そんなに警戒する必要はない。この老いぼれ如きが、お前たちを殺そうなんて出来るわけがない。その身なり…只者ではないな」
「我々をご存知なのですか」
「風の噂で聞いた事がある。長生きしてると、知識だけは無駄に増えていくものよ」
何となくではあるが、暁の存在を知っているようだ。この組織が、どんな事をしているのかも。おじいちゃんは、私が今ここに身を置いていることを、どう思うんだろう。自分たちの目的の為、里を襲い、人を殺す。そんな汚いことばかりやってきた。直接手は下してないけれど、そんな彼らをサポートする私も同罪だ。気まずそうに目を伏せた私に対し、おじいちゃんは笑った。「信頼できる仲間が出来たのなら、よかった」と。その優しさも昔と変わらない。じわりと胸が温かくなる。しかし今は、おじいちゃんと再会の喜びに浸る暇も、思い出話に花を咲かせる時間もない。私たちは、目的あってここへやって来たのだから。
「おじいちゃん、聞きたいの。私のこの、力のこと…」
「大体予想は付いている。ななし、お前の体に何か術が施されているな」
「…!分かるの?」
「邪気のようなものがお前からぷんぷん匂う。邪な者の不穏なチャクラが…」
「今日、敵に呪いをかけられてしまったの。そのせいで力を封じられて…!」
「そう焦るな。どれ、体を調べさせて貰うぞ」
早口で捲し立てる私を制して、お爺ちゃんはゆっくり立ち上がった。私から漂うその邪な気というのは、呪いをかけたあの術者のものなのだろうか。私をじろじろと見つめるおじいちゃんを、後ろの4人も静かに見守っている。やがておじいちゃんは、その手を伸ばし、私のお尻をスリスリと撫でたのだった。
「きゃあああああっ!?!?」
悲鳴をあげるのとほぼ同時に、ばき、と骨の軋む音が響く。気付けば目の前にいたおじいちゃんは頭にタンコブを3つくっ付けていて、その傍に拳から煙を上げたデイダラが立っていた。
「殺すぞエロじじい、うん」
「少し場を和ませようとしただけだ、短気な坊主め…」
「余計な事はしなくていい」
「分かった分かった!とりあえずななし、」
痛む頭を擦りながら体制を直したおじいちゃんは、私に向き直った。私の鎖骨辺りを指差しながら、少し見せてくれるかと言った。ここに紋様が刻まれている事に気付いているようだ。おじいちゃんとは幼き頃ずっと共に過ごした親の様な存在だ。見せる事には抵抗はない。外套に手を掛けてボタンを外していく時、ふと視線を感じて振り返る。じーっとこちらを見ている四人の視線。
「あ、あの…悪いんだけど、後ろ向いててくれないかな」
「別にテメェの首なんか何度も見てんだ。今更だろうが」
「見るどころか噛んだ事もあるしな」
「オレたちのことは気にすんな、うん」
「貴方たちは気にしなくても私が気にするの!」
「まあまあ皆さん、ななしさんも女性ですから。後ろを向きましょう」
鬼鮫が納得いかなそうなみんなを宥めて、こちらに背中を向けるのを尻目に、私は外套を脱ぎ、首元を晒した。そこに広がるのは、あの男に付けられた呪いの紋。おじいちゃんはその紋に釘付けになっていた。文字をなぞるように指を滑らせている。
「これは……」
「あれ…、敵に呪いを掛けられた時より、更に紋様が広がってる気がする…」
「ふむ…着実に呪いが進行している証拠だな。なかなか強力な術のようだ。…もう良いぞ」
見たいことは確認できたようだ。私は服を整えて外套を羽織り、後ろで背を向けている四人にも声を掛けた。一通り私の体を調べて何かを考え込んでいたおじいちゃんだったが、その表情は険しさを増すばかり。こちらも緊張した面持ちで、言葉を待った。この呪いを解く手がかりを握っているのは、このおじいちゃんの言葉1つだけなのだ。
「…解呪の方法は分かった」
「ほんと!?」
「……ああ」
「…随分と歯切れが悪いな」
イタチが眉を顰める。髭を撫でるおじいちゃんは、確かに言いにくそうにしている。呪いを解くのは難しいのだろうか。しかし、解かなければ私の存在価値が無くなる。私が暁に居られるのは、この力のお陰なのだから。
「…まず、呪いを解くには幾つかの条件を満たさねばならん」
「条件?」
「1つは、術者を討つこと」
「まあそれはそうだろうな、うん」
私に呪いをかけたあの男を殺さなければ、この紋様は消えない。土に潜り身を潜めるなかなか手強い相手だった。こればかりは、みんなの力を借りないといけない。しかしおじいちゃんの説明だと、これだけでは呪いは解けないらしい。
「そしてもう1つは、ななし。お前のその不完全なチャクラを鍛え、呪いに打ち勝たなければならない」
「え……」
「そもそもお前は、自分のその力の仕組みを理解しているのか?」
首を左右に振る。物心つくかつかないかの頃に、私は暁に引っ張られてこの里を出ている。自分の力の謎を気にした事はあったが、それを調べる手段が無かったのだ。
「お前の体に流れるチャクラは、驚異的な回復力を有している。そのチャクラを、噛まれた相手の体内に送り込む事で、傷を癒しているんだ」
「チャクラを送り込む…」
「お前に掛けられた呪いは、そのチャクラを毒素に変える呪い。今はまだ自覚症状が無いかもしれんが、時間が経つにつれて、呪いはお前の体を蝕むだろう」
「そんな…!」
「やがて、お前は呪いに食い殺される」
ぞくりと背筋が震えた。この呪いは、単に私の力を封じるだけのものではなかった。力を封じた上で、確実に私を殺すための呪いだ。私はこんな所で死ぬ訳にはいかない。呪いを一刻も早く解除しなければならない。しかし、不完全なチャクラを鍛える、というのがイマイチ分からない。
「でもおじいちゃん…チャクラを鍛えるってどういう事…?まさか今から修行しろとでも言うの?そんな時間は…」
「勿論そんな時間は無い。その呪いは、恐らく3日も経てばお前の命を食らう」
「ふざけんな…!だったらどうすりゃいいんだ、うん」
「………」
苛立つデイダラに詰め寄られて、おじいちゃんは口籠った。先程も、解呪の方法があると言った時、おじいちゃんは何となく言いづらそうにしていた。何か隠し事をしているのか。様子がおかしいおじいちゃんを前に首を捻っていたが、イタチは既に察しが付いているようだった。言えずにいるおじいちゃんに代わって口を開く。
「手っ取り早く真の力を引き出す方法ならある。…そうだろう、老人」
「…お前は分かっていたのか」
「ああ。…俺は正にその方法を、試そうとしている人物がいるからな」
「イタチ…!何なの、その方法って!教えて、私呪いを解く為なら何だってするわ!」
縋り付く私に突き付けられたのは、なんとも残酷な言葉。
「この内の誰かが死ねばいい。そうすればななしの真の力が発揮されるだろう」