みんなを想うB

「どういう事…イタチ……」

かろうじて絞り出した声は、震えていて今にも消えそうな程小さかった。

力を封じられ、毒に侵されるという呪いをこの身に受けて、私たちはその呪いを解く為に手がかりを探していた。そしてやっと解呪の方法に辿り着いたというのに、それはあまりにも残酷なやり方だった。

「憎しみは人を強くする。短期間で真の力を得るにはうってつけだ」
「だったらお前が死ぬか?イタチ。言い出しっぺの法則ってやつだ」
「ふざけないで!!」

淡々と話を進めるイタチと、面白がって笑うサソリに思わず叫んだ。自分でも怖い顔をしているのが分かる。イタチを真っ直ぐ睨みながら彼に詰め寄ったが、イタチも動じる事なくただそこで佇んでいた。呪いを解く為に誰かが死ぬなんて、馬鹿げてる。そんな事許さない。誰かが死ぬくらいなら、

「誰かが死ぬくらいなら、こんな呪い解けなくていい!私が…っ!!」

私が死ぬ、と言いかけてそれが言えなかったのは、後ろから力強く肩を掴まれたからだ。驚いて振り返ると、私と同じくらい怖い顔をしたデイダラがこちらを睨んでいた。その気迫に押されて何も言えなくなる。そんな私にデイダラは、声を荒げる事もなく、ただ低く言ったのだ。

「だったら私が死ぬ、か?うん?」
「デ……ダラ…」
「次それ言ったらタダじゃおかねぇぞ」

掴まれていた肩が離されて、体の力が抜けたようにふらふらとイタチに寄りかかった。私を受け止めたイタチの顔を覗き込んだら、彼も彼で、苦しげな切なそうな目を私に向けていた。イタチもこんな顔をするんだ。誰かが死ねばいいなんて言ったけど、本当はそんなこと言いたくなかったんだ。だけど、そうしなければ私が死ぬ。きっとイタチの中でも迷ってるんだ。

「落ち着いて下さい皆さん。確かにイタチさんが言った方法は、確実で手っ取り早いかもしれませんが、それしかやり方が無いとは限りません。まだ時間の猶予はあります」
「その通りだ。ここで揉めている場合ではない。最悪の事態を避ける為に、今は知恵を振り絞る時」
「そう、ですね…ごめんなさい…」

張り詰めた空気の中、鬼鮫とおじいちゃんの宥めによって、その場は収まった。だけど、解決策が見つかった訳ではない。時間の猶予はあると言っても、タイムリミットはすぐそこまで迫っている。最悪、覚悟を決めなければならないだろう。私のチャクラを鍛える…。その方法を見つけなければ、この内の誰かが死ぬ。もしそうなった時は、この私が…。先程デイダラに怒られて口に出来なかった想い。それは、まだ消える事なく私の中に残り続けているのだった。

ーーーー・・・・

目を開けると、すっかり静かになった居間が広がっていた。囲炉裏を囲みながら、みんな胡座をかいて項垂れている。今晩はおじいちゃんの好意に甘えて、ここに寝泊まりさせて貰う事になった。明日は朝からここを発ち、術者のあの男を探す。私は、仮眠を取るみんなを起こさないよう、静かに体を起こした。寝る前は燃えていた囲炉裏の火が消えている。真っ暗な室内には、月の光が差し込んで、みんなの様子がぼんやりと映し出されていた。

「眠れねぇのか」
「…サソリ…」

突然声を掛けられて、びくりと肩を震わせた。そちらに目を向けると、腕を組んだまま前を向くサソリがいた。そうか、彼には睡眠は必要ない。自身の体を傀儡へと改造した、傀儡人間だからだ。

「うん…。何だか落ち着かなくて」
「イタチの野郎が言った事を気にしてんのか」

誰かが死ねば、私が助かる。イタチの提案は、有耶無耶になって消えたけど、当然私はそんな方法を取るつもりはない。だけど、その方法を聞いてから、私の中の不安はどんどん大きくなっていくばかりだった。嫌な予感がするのだ。もしかしたら、このうちの誰かが、消えてしまうんじゃないかと。

「さっきは、デイダラに止められたけど…、私の気持ちは、」
「言っておくが、お前やイタチにイラついているのは、デイダラだけじゃねぇぞ」
「え…」
「…残される側の気持ちが分からねぇから、簡単に死ぬだのなんだの言えるんだよテメェらは」
「サソリ……」
「胸糞悪い。そんなに死にたいなら、俺のコレクションにしてやろうか?」

言葉は悪いが、サソリなりの優しさだ。簡単に死を選ぶな、そう言ってくれているのだ。あの時イタチに突っかかっていたのは、そういう気持ちの表れだったんだろう。サソリも分かりにくいところがあるが、きっと私たちのことを失いたくない存在だと思ってくれている。それが嬉しくて、心を占めていた不安が、じんわりとほぐれていく。

「…ありがとう、サソリ」
「まずはお前に呪いをかけたっていう男を殺す」
「そうだね…。あ…、そういえばサソリ、今日はヒルコの中に入らないんだね」

確か昼間に別行動を取るまでは、彼はいつものあのヒルコの中に入っていた筈なのに、合流した時は彼だけが戻ってきた。不思議そうに問いかけると、サソリは昼間のことを思い出したのか、忌々しそうに舌打ちをした。

「壊された。帰って直さなきゃ使い物にならねぇ」
「あのヒルコが…?サソリが足止めしてた奴も、手強い相手だったの?」
「手強い…というよりは、知っている、という感じだったな」

サソリの話によると、対峙した相手は、ヒルコの事や、サソリの戦い方をよく知っている人物だったようだ。考えてみれば、私が対峙したあの男も、私に治癒能力があることを知っていて、 ピンポイントで呪いをかけてきた。何かが引っかかる。私たちは勿論、敵との面識はない。なのに何故、奴らは私たちのことをこんなにも知っているのだろう。

「さっきイタチの奴がリーダーに報告したようだが、どうやら俺たちは嵌められたらしい」
「嵌められたって…一体どういう事…?」
「依頼主と、今回のターゲットは組んでたって訳だ。最初から向こうの狙いは暁だった」

つまりは、私たちに依頼したこの仕事は、私たちをおびき寄せ始末する為の罠。事前に私たちの戦い方や能力をリサーチし、かなり周到な準備をしていたという事か。依頼主の行方は、現在角都と飛段が追っているとの知らせを聞いたのだという。どうやら術者を討つのも、簡単にはいかなそうだ。不安げに膝に顔を埋めていたが、ふと隣に目を配ると、毛布が1つもぬけの殻になっている。寝る前まで居たはずのデイダラの姿が無い事に気付いた。

「デイダラは?」
「一人で外に出てった」

先程、私が死ぬと言おうとした時、デイダラは私に怒っていた。あれから何となく気まずくて、まともに会話をしていない。喧嘩のような状態になってしまっているので、デイダラの事が気がかりだ。ちょっと見てくる、とだけサソリに告げると、私はそこを抜け出して、外に行ったというデイダラの姿を探した。

ーーーー・・・・

彼の後ろ姿を見つけて、そっと近寄った。一歩踏み締める度に、草が音を立てる。私の気配に気付いている筈のデイダラだったが、一度もこちらに振り返る事は無かった。彼の座る大きな岩に、そっと私も座って寄り添った。無言で月を見上げるデイダラにつられて上を仰ぐと、満天の星空と月を拝む事ができた。綺麗で明るい夜だ。

「デイダラ、まだ怒ってる?」
「…別に怒ってねぇ、うん」

それが嘘であることは分かっている。何時もならもっと私に突っかかってくる彼なのに、妙に静かだ。私に対して怒っているのもあるだろうが、この呪いをどうするべきか、考えてくれているのかもしれない。私の中では、最悪の場合の結論は出ているのだが、先程怒られたこともあって、それを口には出来なかった。

「…お前は余計なことを考えなくていい」
「え?」
「オイラたちが何とかする。必ず」

私の心の内を察したかのような台詞だ。もしもの時は私が犠牲になろうとしていることを、デイダラはとっくに察していた。私が頑固で、一度決めたら曲げないことも、この長い付き合いの中で把握しているだろう。だから彼は、もう一度忠告するように、余計なことは考えるなと言ったのだ。サソリも、デイダラも、イタチも鬼鮫も、必死に何とかしようと頑張ってくれている。敵の術者と戦うのもみんなだ。私が戦えないばかりにこんな呪いを受け、みんなを悩ませ、危険に晒している。その事実が、呪いよりも何よりも苦しかった。

「…ごめんね」
「何がだ、うん」
「私…全然役に立たないし。それどころか迷惑ばかりかけてる…」

言っていて、ジワリと涙が浮かぶ。泣いたらそれこそデイダラに迷惑がかかる。泣くものかとぐっと唇を噛み締めながら、俯いて自分の膝を見た。握った拳が震えている。

「…戦えないし、みんなはそんな私を守ろうとしていつも傷付いてる…。唯一の私の力も奪われて…」

傍に、いない方がいいのかな。

その言葉をポツリと呟いて、自分でショックを受けて心が痛んだ。私が傍にいると、みんなが傷付く。今はまだ怪我で済んでいるかもしれないが、いつかその命までも奪ってしまうかもしれない。私のせいで。それがとても怖い。私にとって、みんなは世界そのものであって、誰一人欠けたら終わる。暁は大きな目的の為に動いているが、私はもはや暁のために働いているわけでは無かった。大切な人たち…暁のみんなを守る為にここにいる。なのに、そんな私がみんなを傷付けていたら、本末転倒もいいところだ。呪いのことで不安になっているせいか、思考がよりマイナスな方向へ働いていく。暗い言葉しか出てこない私を、デイダラは力強く引き寄せた。ぐらりと傾いた体は、気付けばデイダラの温もりに固く包まれていた。ふわりと香るデイダラの匂い。とくん、とくん、と一定のリズムで刻むデイダラの心音。全てが心地よくて、温かい。ただ呆然と固まる私に、彼は切なそうに言った。

「お前は何も分かってねぇ」
「そんなこと…、」
「お前に出会うまで、オレは自分の芸術を追い求める為だけに戦ってきた。だが今は違う」

ぎゅう、と一層強くなる彼の腕の中に身を委ねて。

「初めて…誰かの為に戦いたいと思えたんだ。オレにはお前が必要なんだよ、うん」
「デイダラ……」

彼の想いを初めて聞いた。横暴で意地悪なデイダラが、私のことをそんな風に考えていてくれてたなんて。だからこそ、私が死ぬと言った時、あの剣幕で怒ったんだ。私がみんなを大切で失いたくないと思うように、デイダラも、私のことを大切にしてくれていた。ゆっくりと体を離し、お互いを見つめ合う内に、自然と顔が近付いていた。どちらも口を開くことはない。徐々に距離が無くなっていく唇が、どくどくと心臓が騒ぐ。このまま、私はデイダラと…、

「邪魔をして申し訳ないが、」
「!?!?!?」

突然聞こえた第三者の声に、私は思わずデイダラを勢いよく突き飛ばした。座っていた岩から落ちて、デイダラはぴくぴくと怒りでコメカミを震わせている。頭から落ちてかなり痛そうだ。申し訳ないと思いながらも、火照った頬を両手で押さえる。私、今デイダラとキスしようとしてんだ。思い返すだけで死にそうだ。その中に割って入ってきたのは、イタチ、鬼鮫、サソリの三人。

「昼間の男が近くにいる」
「……!!」

その言葉を皮切りに、私の首元の紋様がどくんと脈打つのを感じた。呪いが、あの男の存在を感じ取っている。距離が近いせいか、呪いの成長速度は加速し、一気に首元の紋様が広がってしまった。途端に体中に痛みと苦しみが走り、意識が朧げになる。倒れ掛けた私の体をデイダラが咄嗟に支えてくれた。

「ななし!!」
「術者が近いせいで、呪いの効力が強まったのだろう」
「あまり時間は残されていないようです。一刻も早くその男を殺さなければ」
「って言ってる間に、向こうから来てくれたみてぇだな」

サソリが睨む方向には、人影が1つ。月を背に立っている。瞳孔が開き切った目を向けたデイダラは、低く吐き捨てた。

「探す手間が省けて丁度いい。オイラが殺す。うん」

男はただ無言で、その場に立っていた。呪いとの戦いが始まろうとしていた。