「ミイラの死体だぁ?」
そう声を上げたのは、定例となっているこの会議で集合した暁の面々、その内の1人である飛段だった。眉を釣り上げながら腕を組む彼に対し、一同の前に立つペインは静かに答える。
「妙な噂を聞きつけた。ここ連日、ミイラの様に干からびた死体が森に捨てられていると」
リーダーの話によれば、その死体は、チャクラが抜き取られたような形跡が残っているのだという。何かそういう不思議な能力を持った者の仕業なのか、そこまでは分からないが、この不可解な死体に近隣の村に住む人々は怯えているらしい。その会話を隣で聞いていた私は、書物に出てくるようなミイラを想像して、ぶるりと背筋を震わせた。
「暁はその死体の謎を調査する。飛段、角都」
「はぁ!?おいおいおいおい、冗談じゃねぇぞ!」
今回の任務は、この不可解な事件を調べること。その任務に指名された飛段が、すかさず抗議の声を上げた。周りは小さく溜息をつきながら、また始まったと肩を落とす。毎度この男は、何かしら文句を言わないと気が済まないのだろう。只でさえ大きな声でワーワーと騒ぎ立てるものだから、みんなも視線を逸らしてどこ吹く風を貫いている。
「俺たちは人助け組織じゃねぇんだぞ!なんでそんな事しなきゃなんねぇんだよ!」
「人助けではない。人集めだ」
「……どういう事ですか」
リーダーの言葉に、ようやく口を挟んだ角都。そこでやっと、この任務においての本当の目的が、リーダーの口から語られる事となった。
「犯人の正体を掴み、その人物を暁に加える」
「…本気ですか、リーダー」
「これから戦いはますます激化してくる。少しでも戦力を増やしたい。飛段、角都、頼んだぞ」
「……ちっ。人使いが荒ぇんだよリーダーはよォ」
ガシガシと後頭部を掻く飛段も、渋々ではあるがようやく納得してくれたようだ。無言で命を受け入れる角都に促され、早速その場を離れ任務に就こうとする二人を、ペインが呼び止めた。
「待て。角都、飛段」
「……まだ何か」
「今回はななしにも同行して貰う」
「え?」
突然自分に白羽の矢が立って、思わず目を瞬かせた。それは角都と飛段も同じなようで、2人とも足を止めて私に視線を寄越す。私がこの2人の任務に同行するのは、彼らの体質上珍しい事であった。
角都と飛段が持つ、特殊な体質、…不死身。飛段に至ってはそのカラクリすら不明だが、彼らは私の力に頼らずとも、激しい戦いを切り抜けられる実力と能力を持っている。なので今まで、この二人の任務に同行した回数は、他のペアに比べると圧倒的に少ない。私?と自分を指差しながら首を捻る傍で、私が彼らに同行する事について反対したのは、角都・飛段の当事者ではなく、今まで会話を黙って聞いていたデイダラであった。
「納得いかねぇな、うん」
「デイダラ…」
「コイツらの気持ち悪ぃ芸術の欠片もない体質がありゃ、ななしの能力なんて必要ねぇだろ、うん」
「おいおい言ってくれるじゃねえの」
「殺されたいのかデイダラ」
途端にぴりぴりと緊迫した雰囲気が流れるその場で、私はこっそりと溜息をついた。顔を合わせればいつも喧嘩ばかりで、本当に血の気の多い集団だ。思わぬ挑発がデイダラから飛んできて、売られた喧嘩は必ずお買い上げスタイルの飛段と角都は、黙ってられるかと言わんばかりに身を乗り出す。ちょうどデイダラと角都たちの間に位置していたイタチは、意図せず双方に挟まれるような形になり、不機嫌そうに眉を寄せて二人を交互に睨んでいた。
「オイラたちも今から尾獣捜索の任務に出るんだ。ななしはこっちに寄越せ、うん」
「はァん?なんだデイダラちゃん、もしかしてななしがいないと不安なのか?」
「…んだとコラ」
「そうだよなあ、尾獣だもんなァ。手強い尾獣相手じゃあ、怖くなっちゃうのも無理ないぜ」
「テメェ…」
「ちょ、ちょっとデイダラ、飛段!やめてよ…」
ヒートアップしていく一方のデイダラと飛段に、見てられなくなって思わず間に入り込む。邪魔すんじゃねえと言わんばかりの視線を両側から浴びて、私は二度目の溜息を付いて。デイダラと飛段は、血の気の多いメンバーの中でも一番折り合いが悪いのか、こうしてしょっちゅう争いになる。飛段も飛段で、私を連れて行くことなんて本当はどっちでもいい筈なのに、恐らくデイダラをからかいたいのだろう。「ななしは譲れねェな!ゲハハハ!」なんて言って、間にいる私の肩を強引に掴んで引き寄せた。
「ちょっと飛段、」
「オイラが不安なんじゃねぇ!お前じゃななしの面倒見切れねぇっつってんだよ!うん!」
「んなの楽勝だっつの。なあななし?」
「…………」
ぐい、と飛段に腕を引っ張られたかと思いきや、今度はデイダラに腕を引っ張られて、まるで綱引きのようにそれが繰り返されていく。双方の間を行ったり来たりしながら、私の表情はどんどん死んでいき、終いには止める気すら失ってしまった。口を閉ざし、無の境地でひたすらに繰り返される両サイドの喧嘩を右から左へ聞き流す。利口な角都やイタチや鬼鮫、サソリなんかは、私の様子が徐々に変わりつつある事にすぐ気づいて、巻き込まれまいと散り散りになっていくというのに。当の本人たちは相変わらずお互いのことしか頭に無いようで、ひたすらに幼稚な口喧嘩を繰り広げていた。
「デイダラちゃんはななしちゃんが傍にいねぇと寂しくて仕方ねぇんだよなァ、可愛いところあるじゃねェか!ゲハハハハ!」
「角都に全部世話してもらってるような奴に言われたくねぇんだよ!うん!」
「はぁ!?オレが角都の世話してやってんだろ!?」
「とにかく、ななしはオイラたちが連れて行く。なあ、サソリの旦那!」
「…オレを巻き込むな」
誰も止めようとしない彼らの喧嘩は、収まるどころか周りを巻き込みつつどんどんヒートアップする一方だった。やがて、怒りを押し殺して静かにやり取りを聞いていた私にも限界が近づいてきて、遂には目の前で向き合う二人の後頭部を、それぞれの手でがっしりと掴む。
「「え」」
「喧嘩はやめなさい!」
掴んだ後頭部を、そんな台詞と共に力任せに押し付ける。我ながらなかなか強引な終わらせ方だとは思うが、もうここまで来たら仕方がない。2人の頭はお互いを目掛けて近付いていき、ゴン、と鈍い音を立ててぶつかった。額から煙を上げる男2名が、そのままクラクラと目を回して大人しくなったのを確認して、ようやく静けさを取り戻したこの空間に、何度目か分からない溜息を落としたのだった。
「…デイダラ」
やっと収まった喧嘩を前に、ずっと静観を決め込んでいたペインも口を開く。なんなら、喧嘩している最中に、そのリーダーとしての権限を振りかざして止めに入って欲しかったものだが。名を呼ばれたデイダラは、うっすらと目に涙を浮かべながら顔を上げて、淡々としているリーダーを睨みつけていた。完全に八つ当たりだ。
「今回ななしに同行して貰うのは、傷を癒す為ではない」
「はぁ?」
「件の情報を収集する為には、近隣に住む者たちへの聞き込みが必須だ」
「ああ……、」
なるほどな、と唸ったデイダラは、未だ痛みに悶える飛段と、その後ろに立つ角都を横目で見て鼻で笑った。
「確かに、そこの二人は人との会話が苦手だな、うん」
「んだとテメェ」
「…やはり死にたいようだな、デイダラ」
「もー!やめてってば!」
懲りないコイツらは、またもや睨み合う。せっかく収まった喧嘩が再び勃発しそうになって、このままではエンドレスだ。こんなに喧嘩していて疲れないのだろうかと疑問に思う。呆れながらも再び間に入ると、デイダラが私を見下ろしながら真剣な表情を浮かべていて。きっと心配してくれているのだろう。分かりづらいが、デイダラは何だかんだでいつも私のことを考えてくれているのだ。
「大丈夫よデイダラ。私だって、やる時はやるんだから」
「今まで何遍もその言葉を聞いてきたが、一度たりとも大丈夫だった試しがないだろ、うん」
「うぐ……。そ、そうだけど。ほら、角都と飛段も付いてるし!」
私とデイダラが同時に視線を投げれば、角都と飛段が少し離れた所で話しているのが見える。いつもはデイダラやイタチが傍に居てくれるから安心だが、今回はあの不死身コンビ。不安がないと言えば全くの嘘になるが、あの2人の実力が相当なものである事も知っているので、何かあることは無いだろう。
「…気を付けろよ。今回はオレも旦那も付いてやれねぇ、うん」
「うん。頑張ってくるね」
そっと交わしたその言葉を最後に、私はデイダラの元から離れて、角都と飛段に駆け寄った。話をやめてこちらを見る2人の視線を前に微笑みかけて。大丈夫、デイダラがいなくたって、きっと上手くやってみせる。相手が例え、なかなか気難しいコンビだとしても。彼らだって暁の仲間なのだ。もう長い付き合いにもなるし、気持ちは同じはず…。
「2人とも、よろしくね!」
「俺たちはお守りは御免だぞ。自分の身は自分で守れ」
「デイダラちゃんみたいに優しくねぇからな、精々足引っ張んなよ」
「…………………」
気持ちは、同じ……………。
「うわぁんデイダラ〜、やっぱデイダラの方に行く〜!」
「おい!髪を引っ張んな!さっきと言ってること違うじゃねぇか!うん」
「サソリ待って行かないで私も連れてって!!」
「さっさと向こうに行け。リーダーの命令だろ」
別の任務に行こうとするデイダラとサソリの後ろ髪を引っ張って泣きつきながら、不安しかない角都・飛段コンビとの任務が始まろうとしていた。
ーーーー・・・・
「こちらです」
目の前の男が、私たちに頭を下げながら、藁で包まれた1つの遺体を引っ張り出してきた。飛段が何の躊躇いも無くその藁をひっくり返すと、骨が浮き出て正にミイラのようになった、干からびた遺体が露になって、思わず小さく悲鳴を上げる。隣に立っていた角都の腕を掴んで目を逸らしていると、そんな私を飛段が呆れた様に見上げていた。
「おいおい、こんなんで泣く子も黙る暁が悲鳴上げてんじゃねぇよ」
「だ、だって…」
「何だよ、サソリとデイダラの奴、コイツに死体も碌に見せてねぇのか?甘やかし過ぎだろ。なあ角都」
「……下がってろ、俺と飛段で調べる」
私が何かをすると、飛段はいつもデイダラとサソリに文句を飛ばす。何か言い返してやりたい所だが、普段デイダラたちにかなり甘えてしまっている事は紛れもない事実で、返す言葉が見つからなかった。そんな飛段にお尻を叩かれて恐る恐るもう一度遺体を見下ろすと、まるで渇きに苦しむかのように口を開け、目も見開いたままの遺体が再び視界に映る。遺体の損傷が激しく、最早女性なのか男性なのかも分からない。こんな酷い殺し方をする奴を、暁に入れようだなんて、リーダーも無茶な事を言うものだ。ぎゅう、としがみつく私を、角都は手で己の後ろに押し込んだ。前へ歩いていく大きな背中を見つめながら、角都なりの不器用な優しさに救われたのだった。
「角都……ありがとう…」
「おいおい何だよ角都ぅ。随分と優しいじゃねぇか」
「黙れ。隣でヒィヒィ言われても五月蝿いだけだ。さっさと調べるぞ」
へーへー、と呑気な返事をして、2人は遺体の側に膝をつく。流石は、普段から死体に触れる事の多い2人なだけあって、こんなに酷い光景を見ても全く平気なようだ。
干からびた死体が無残にも置き去られているという森から、すぐ側に位置する小さな村。私たちは今、そこを訪れていた。この不可解な出来事を受けて、村はすっかり怯えきってしまい、外はかなり閑散としていたが、これでも以前は活気のある村だったのだと、目の前にいる男は語る。突然訪れて「遺体を見せて欲しい」と頼み込んだ私たちを、村人の男は快く出迎えてくれたのだった。
「何とかしてくださいますか、旅人様。これじゃあ俺たち、怖くて夜も眠れなくて……」
「俺たちは人助け集団じゃねぇ」
「この村がどうなろうと、俺の知った事ではない」
「ちょっとちょっと、2人とも…!」
懇願する村人に対して、容赦なく辛辣な言葉を投げる2人に、思わず前に出て村人に頭を下げる。「ごめんなさいうちの者が…。こう見えても、根はいい奴なんですよ」なんてフォローする私の後ろで、ふん、と鼻を鳴らしながらそっぽを向く角都と飛段の足を、1回ずつ思い切り踏んでやった。
「いっ…!?」
「!?」
「怖がってるのに、不安を煽るようなこと言わないの!」
女に叱られる、大の男2人。ちっ、と面倒臭そうに舌打ちをするその姿を、村人は呆気に取られながら見ていた。今の様子を見ていても、やっぱり私がこの2人について来たのは正解だったかもしれない。二言目には殺すという物騒なワードが出てくるこのコンビには、人とのコミュニケーション能力など皆無。リーダーが私を同行させたのも頷ける。
「私たちが何とかしますから、安心して下さいね」
「おお…有り難や…。その代わり、宿や飯は用意させて頂きますので…」
私が村人との交渉を成立させている傍らでは、角都が遺体の調査を再開させていて、そこから分かった新しい事実に目を細めていた。
「チャクラと一緒に、血も根こそぎ抜き取られているな。一体何だこの死体は…」
「血だぁ?んなもん抜き取って、何に使うんだよ悪趣味だな」
「飛段に言われたくないと思うよ」
呆れた顔を向けながら、私も私でその謎を考えてみる。チャクラや血をわざわざ抜き取られている死体。ただ殺す為だけならば、そんな面倒なことをする必要はない筈。ということは、何か血を抜き取らなければならない理由がある…。
「そういえば、小さい頃に読んだ本で、そういう妖怪が出てきたことがあったような…」
「妖怪?」
「うん。西洋の方では有名な妖怪で、人の血が食料なの」
幼き頃の古い記憶を辿りながら、訝しむ2人に説明をする。確か、吸血鬼、と呼ばれていたような気がした。その名の通り、血を吸う鬼だ。この吸血鬼という種族は、夜にだけ活動し、人間の血を狙う妖怪だ。それ以外の物は食べられないようで、空腹になると人を襲い、生き血を啜って殺すのだとか。
「おいおい…まさかそんな絵本の話を信じてるんじゃねぇだろうな」
「絵本じゃなくて文献!子供扱いしないでよ!」
「どっちも変わんねぇだろ。本といえば、このジャシン教の教典こそ、至高であり最高だ!」
懐から取り出した分厚い本を片手に、いつも恒例のジャシン教勧誘を始める飛段の隣で、角都は難しい顔をしたまま遺体を見下ろしていた。彼も彼で、あらゆる可能性を考えているのだろう。角都は飛段よりも勘が利くし、頭も働く。私の吸血鬼の話に対しても、特に否定も肯定もせず静かに聞いてくれていた。
「角都、何か分かった?」
「……いや」
「そう…。あの男性から聞いた話だと、いつも夜になると村の人が攫われるみたい。宿を借りて、日が暮れるのを待ちましょう」
「おい、ななし」
「ん?」
宿まで案内してくれるという男性について行こうとする私を、角都が呼び止めた。
「この村に滞在する間、極力1人になるな」
「…角都、心配してくれてるの?」
「……次の日消えてても、俺はデイダラのようにお前を探したりはせんぞ」
「もー、またデイダラの話?」
はいはい分かった分かった、なんて言いながら再び歩き始めた私と飛段。その前を歩く村の男に、角都は意味深な視線を注いでいたのだった。