二度目の夏は、異常ではないかと思うほどに暑くて暑くて。その暑さにやられてバテ気味のみんなも、それぞれ部屋や縁側を行ったり来たりして、涼める場所を探し求めている。

そうしている内に私が辿り付いたのは、一人涼しそうな顔の角名の部屋。彼は、夏は暑そうに見えないし、冬は寒そうに見えない不思議な人だった。感情表現が乏しいからだろうか。彼の傍にいれば何となく涼しくなるような気がしてやってきたものの、やはり暑いものは暑かった。

「角名……、暑い……」
「そりゃあ夏だからね」
「角名は暑くないの?」
「暑いよ」
「嘘だ、暑そうに見えないもん」
「見えないだけ」

本当かなあ、一人だけ何か裏技でも使って涼んでるんじゃないのかなあ、なんて疑いの目を向けると、彼は少しだけ笑った。珍しい、あの角名が。そう思うのとは反対に、やはり暑さには敵わなくて、私ははしたないと分かっていながら、角名の部屋に体を投げ出して大の字で寝転がった。肌蹴た着物の部分から涼しい空気が当たって心地よい。しっとりと掻いた汗に当たる風が、ひんやりしている。

やがてウトウトしだした私の上に、大きな影が覆いかぶさった。目を開くと、上には角名の顔があって、一瞬時が止まる。こんな暑い真昼間から、彼は一体何を考えているのか。

「角名?」
「したくなった」
「何言ってんの!?暑いからやだよ!」
「一緒に汗かいてお風呂入ろ」
「ちょっと…!」

意外と人の話を聞かない角名は、私の制止も振り払って、みるみる着物を脱がせていく。露わになる素肌に直に風が当たって涼しい。同じように着物を脱いで裸になった角名は、そのまま私に熱を落としていった。部屋の温度はぐんぐん上昇していって、余計に頭がぼーっとする。角名の額に浮かぶ汗が官能的で美しいとすら思った。暑さを忘れる程お互いに没頭した私たちは、汗でべたべたする気持ち悪い体を着物に通して。

「角名のせいで余計に暑くなった……」
「いいじゃん、汗かいた後のお風呂はきっと気持ちいいよ」
「もう…!二度としないからね!」
「それは残念。…でも、」

何も考えずに済んだでしょ。

そう言われて、私は彼の背中をはっと見た。最近、誰と肌を重ねていても、自分の運命のことばかりを考えてしまって、泣かない夜など無い程に涙を流していた。だってみんなも、私を抱く時とてもつらそうな顔をしているから。角名は、それを分かっていて、わざとこんな時間に私を抱いたというのだろうか。

「名無し」
「なに…?」
「名無しは、前に言ったよね。巫女としてじゃなくて、一人の女として見てほしいって」
「え…、うん…。言ったね」

こちらに背を向けたまま、着物を纏っていく角名は、ただ淡々とそんな言葉を私に聞かせてくれた。角名が言ったその話は、私が彼らと出会ったばかりの頃に言った言葉だ。それを何故今改めて告げてきたのだろうか。その真意を知りたくて、私は着物を着る手を止めて彼の背中を見つめていた。

「俺は…、名無しのことを一人の女として抱いてる。それは決して、名無しの運命を哀れんでいる訳じゃない。同情して抱いている訳でもない。勿論、子を作るなんていう馬鹿げた儀式の為でもないよ」
「角名……」
「だから、名無しもちゃんと、俺たちを見て欲しい。俺たちの想いを」
「………」
「忘れないで。俺たちが、名無しを愛した証を」

真っ直ぐこちらを射抜く角名の目。私は、ちゃんと受け止められていたのだろうか。彼らの熱い思いを。自分の運命を嘆くのに必死で、彼らに抱かれている最中も、ぽろぽろと泣いてばかり。彼らに『私のことを忘れないで』と要求するばかりで、反対に私は、一体どれくらいの愛を返してあげられていたのだろうか。

伝わってくる、角名の想い。またじわじわと涙が浮かんできて、目から滴がこぼれてしまった。それをごしごしと乱暴に袖で拭う。角名は小さく微笑みながら、そんな私を抱きしめてくれた。

「ちゃんと伝わってるよ、角名の想い」
「…なら良かった」
「ありがとう、角名。角名に会えてよかった」
「まるで最期の別れみたいじゃん。やめてよ」

角名も信じてくれている。私が生きている未来を、思い描いてくれている。みんながそうやって前を向いているのに、私だけ後ろ向きでメソメソしている。こんなんじゃ、掴めるものも掴めなくなってしまう。そのことを、角名は気付かせてくれた。

生きるんだ、私は。運命なんかに負けたりしない。

「行こう、名無し」

差し出された手を握る。お風呂に入って、この汗と涙を洗い流そう。温かくて優しい手を持つ彼と一緒に。