私がやっと小学生になって、精市くんと一緒に小学校に通えるようになった。毎日精市くんに会えることは嬉しかったし、楽しかった。だけど、余計に精市くんとの距離を感じることも多かった。
精市くんは、いつも女の子に囲まれていた。登校するときだって、同じ登校班の女の子に囲まれていて、違う班の子がわざわざ精市くんに話しかけることだってあった。
それに精市くんは女の子だけじゃなくて、男の子からも好かれていたから、5つも年下の私が話しかけられるタイミングなんて、ほとんどなかった。私と瑠璃と精市くんは、他の子たちよりも家が少しだけ奥にあったから、女の子たちと別れてそれぞれの家につくまでの、ほんの少しの時間は、精市くんと話すことができた。

「ももちゃん、学校にはもう慣れた?」
「精市くんがいないから、さみしい」
「おれがいないから? 瑠璃と同じクラスだったよね? なら、瑠璃と一緒にいれば寂しくないよ」

私は精市くんを困らせるようなことばかり言っていたのに、それでも優しかった。申し訳なくなって、それでも嬉しくて。精市くんは、私にもこんなに優しいんだ、っていつも精市くんを囲んでいる女の子たちに、自慢したいくらいだった。

「ももちゃんは、お兄ちゃんのことが大好きだもんね」

たとえ少しでも、精市くんとの時間があることが、嬉しかった。ただそれでも、精市くんが女の子たちに囲まれているところを見たり、楽しそうに話している姿を見ると、羨ましい、ずるい、と思った。
今思うと、あれは嫉妬だったんだ、と気づく。あのころは、嫉妬なんていう言葉を知らなかった。そんな感情があるなんてことを、知らなかった。ただ純粋に、綺麗な気持ちで精市くんを想っていると感じていたのに、そんなことはなかった。私は幼いころからずっと、精市くんを取り巻くもの全てに嫉妬して生きてきたんだ。

「それじゃあ、今から一緒に遊ぼうよ。瑠璃と、おれと、ももちゃんで」

精市くんは、私がほしいと思う何かをくれた。それでも、1番ほしかったものはくれなかったけれど。簡単な言葉で満足できていたあのころが懐かしい。好き、という言葉を言おうとも思わなかったあのころ。
精市くんが私に笑いかけて、優しくしてくれれば私も笑えた、あのころ。ささいなことで、私は特別だと思わせてくれた精市くんが、大好きだった。

「ももちゃんは何したい?」
「あ、家にシュークリームあるよ! ももちゃん」
「……うん、遊ぶ」
「そういえば、今日は真田も来るんだった。4人で遊ぼっか」

真田くんは、よく幸村家に遊びに来ているらしかった。初めて会ったあの日以来、何度か一緒に遊んだこともある。精市くんと違って、手先が不器用らしく、折り紙で鶴を折ってと頼んだとき、ひどく困った顔をしていたことをよく覚えている。
しかしなんだかんだ面倒見はよく、精市と一緒に私と瑠璃の面倒を見てくれた。お母さんのように私たちを叱ってくれることもあって、精市くんと真田くんは、私にとってお兄ちゃんのようだった。
優しくて、甘やかしてくれる精市くんと、厳しいけれど、間違ったことを正して、私たちを導いてくれる真田くん。今の私がいるのは、精市くんと真田くんがいたからだといっても、過言ではない。




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