家の近くにある公園の、すべり台の下にしゃがんで、うつむく。小学2年生のときだっただろうか。瑠璃と喧嘩して、飛び出した。どうしてそんな大喧嘩をしたのかは、もう忘れてしまった。きっと、ささいなことだったんだと思う。
大嫌い!とお互いに言い合ってしまった。瑠璃は私のことが嫌いなんだ、私は本当は……嫌いなんかじゃないのに。そう思うと、勝手に涙が出てきて、止まらなくなった。
しばらく泣いていると、雨が降ってきて、最初はぽつぽつと小雨だったのが、本降りになった。どうしよう、と急に心細くなって、私がとっさに頭の中に思い浮かべたのは、精市くんの顔だった。

「精市くん……」

名前を呼んだって、聞こえるわけがないのはわかっていた。精市くんはもう中学生で、電車に乗って中学校に行ってるんだ、って知っていた。だけど、来てくれればいいのに、精市くんに会いたい。
精市くんの笑顔を見るだけで、私はなんだってできる気がする。精市くんがいれば、瑠璃とも仲直りできるかな。

「ももちゃん?」

頭上から降ってきた、優しい声。顔を上げると、そこには精市くんがいた。制服姿で、重そうな鞄を持っている。

「どうしたの、こんなところで」

私の目線に合わせるように、精市くんはその場にしゃがんで、顔を覗き込む。私は、精市くんのその問いに答えられなかった。涙が溢れて、声にならなかったから。

「何かあった?」

優しく、精市くんは訊いてくる。けんか、とだけなんとか言うことができた。それを聞いた精市くんは、ああ、と納得したように頷いた。どうして精市くんは、私が思っていること、言おうとしていることがわかるんだろう。

「瑠璃と、喧嘩したんだね。それで、こんなところにいたわけか」

優しく微笑んで、精市くんは私に手を差し出した。何かと思って、精市くんを見ると、おいで、と精市くんは私の手を握った。仲直りしにいこう、と囁いた精市くんが、私には王子様にみえた。

「……ごめん、なさい」
「どうして俺に謝るの?」
「だって、精市くん、テニスで疲れてるのに」
「ああ、そういうこと。でも、今日は雨でミーティングだけだったから。大丈夫だよ」
「みーてぃんぐ?」

公園から、幸村家につくまで、私は精市くんに色々教えてもらった。特に、テニスの話をするときの精市くんは楽しそうで、素敵だな、と思った。綺麗だな、とも。

「さ、瑠璃と仲直りしにいこうか」
「うん。……でも、許してくれるかなあ」
「大丈夫。瑠璃は、ももちゃんのことが大好きだからね」

にこ、と笑って私を励ましてくれる精市くんに、私はいつだって助けられていた。私を安心させるのが、うまかった。

「ももちゃんは、瑠璃のこと好き?」
「うん!」
「じゃあ、やっぱり大丈夫だよ。早く仲直りして、一緒に遊ぼうか」




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