昔はよく2人でキャッチボールをした。

だけど小学5年生の頃、段々と暁の投げる球が強くなって

取り損ねた私の顔にぶつかった事がある。

大した怪我でもなかったのに、それ以来

暁は私に徹底してボールやグローブを触らせない。





「暁、久しぶりにキャッチボールしようよ」

「だめ」

「じゃあバッティングセンター」

「志保ちゃんは見てるだけなら」



そんなのつまらない、そう思いながらも渋々頷いた。

ごねたって頑固な暁が折れる訳ないし。

いつものように暁が120キロの球を綺麗に打ち返すのを

ネットを挟んだ後ろから少し距離を置いて眺めていよう。

それが私と暁と野球の距離。





帰り道、漸く暁から東京の学校に進学する事を聞いた。



「知ってたよ。いつ言ってくるのかと思ってた」

「え」

「…………受験勉強、頑張んなきゃね」



憂鬱そうな顔をした暁の背中を叩いて笑ったけど

本当は暁が話してくれたら、別れ話をするつもりだった。

私は一緒に居られない暁を待ち続けるほど強くないから。

だけど、いざとなると

何度もシミュレーションした言葉は声にならなかった。





春が来るまで、あと半年。

もう少し、もう少しだけ、この距離を手放したくない。



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