4歳になったばかりの夏。

志保ちゃんと初めて会った日の事を

僕はよく覚えている。


志保ちゃんは、ぐずぐずと泣きながら

おじさんに抱っこされて、僕の家に来た。

人見知り、だったらしい。

おじさんとおばさんが、僕の両親とおしゃべりを始めると

図鑑を見ていた僕におどおどと近付いて来て、

「一緒に見ていーい?」と小さな声で言ったんだ。

僕が1番好きなシロクマの事を教えてあげたら

次に会った時、志保ちゃんは

袋にシロクマの絵が描かれた飴を僕にくれた。


僕は志保ちゃんが大好きになった。





小学校に入ると、

志保ちゃんは急にお姉さんぶるようになって、

いつも「行くよ、暁くん」と僕の手を引いて先を歩いた。


3年生になると、志保ちゃんは女の子と遊ぶ事が増えて

僕の手を引くのをやめた。

少し寂しかったけど「志保ちゃん」と呼べば

「なーに、暁くん」っていつでも振り返ってくれた。


6年生の時、昼休みに本を読んでいたら

いつの間にか、教室から人が少なくなっていた。

特に気にすることもなく本を読み続けていたら

志保ちゃんが1人で教室に戻ってきた。

「暁、ドッジボールしないの?」

クラスの子たちはほとんどが運動場に集まっているらしい。

そのあと志保ちゃんは僕を連れ出そうともせず、

隣に座って一緒に本を眺めていた。

小さい頃みたいだと思った。





中学1年生の夏。志保ちゃんの彼氏になった。

志保ちゃんの事はよく知ってるつもりだったのに、

僕がぎゅっとした後の笑った顔は初めて見る表情だった。

知らない表情がまだあるんじゃないかと思って

キスしようとしたのに、むっとした顔で頬を叩かれた。

全然痛くない、弱い力だったけど。


そのあと志保ちゃんは、初めて見る照れたような笑顔で

「これからもずっと一緒にいるんだし

 そんなに急がなくて良いでしょ?」って言った。

なんでダメなんだろうって不満に思ってたのも

ずっと一緒、の言葉が嬉しくて

どこかへ飛んで行ってしまった。





志保ちゃんとは、また手を繋いで歩くようになった。

昔と違うのは、斜め前じゃなく隣に立ってくれること。

ずっと見てきた、ちょっとお姉さんぶる顔や

小さい頃から変わらない、嬉しそうに笑う顔。

初めて見た、照れくさそうに視線を逸らす顔や

いっぱいいっぱいになった真っ赤な顔。


志保ちゃんは、もっと可愛くなった。

僕は志保ちゃんをもっともっと大好きになった。





それなのに、今日は僕と志保ちゃんのお別れの日だ。





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