前の試合を振り返る実況と解説の声をBGMに
グラウンド整備の様子を映すテレビを睨みつける私の隣で
父さんは「暁くんが投げると思うと緊張してきた」と
落ち着かない様子だし、母さんも昨日の夜から
何度も録画予約のチェックしていた。
青道高校の試合開始まで、あと少し。
こんなにも早くテレビで投げる姿を見られるなんて
つくづく私の想像を上回ってくれる男だ、なんて
少し誇らしく感じていたはずなのに
先発投手としてマウンドに上がった暁は
最後に会ったあの日よりも随分と大きく見えて。
"漠然とした不安″だったものが、確信に変わった。
どんどん遠くなっていく、それすら思い上がりだ。
もう既に遠い存在なのだと、思い知らされてしまった。
けれど、たった一球、暁の手から白球が放たれた瞬間、
そんな感傷は散り散りに消し飛ばされた。
すごい、すごい。すごい!興奮した私の口からは、
そんな陳腐な言葉しか出てこなかった。
あの暁が、壁に向かい一人でボールを投げていた暁が、
背番号1を背負い、チームメイトと一緒に、野球をしている。
それがただただ嬉しくて、胸が熱くて、
マウンドからレフトへ向かう背中を見た瞬間、
左目から涙が零れ落ちた。
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