あの春のセンバツの試合の後、

アルバムのページはすべて埋まり

私はアルバムではなく、新しくスクラップブックを買った。

たくさんの人に囲まれて取材を受ける暁の姿を見て

漫然と高校生活を送っていた私に目標ができた。

それは自分の目でマウンドに立つ暁を見に行くこと。

その為に、反対する父を説き伏せてバイトを始めた。





そして高校最後の夏。西東京大会、準決勝。

接戦の末、辛くも勝利したのは青道高校だった。

試合終了後、私は会場の外で

選手を出迎える集団を遠巻きに見ていた。



一生懸命なにかを話しているチームメイトの隣を

聞いているのかどうかも怪しい様子で歩く暁が見える。

疲れているようなら、声はかけない方がいいんだろうか。

そう逡巡している内に、選手たちが移動を始めてしまい

思わず 「あ……」 と小さく声が漏れた。



その瞬間、暁の視線がこちらへ向けられた。

聞こえるはずもない距離なのに、と驚いた私と

なぜいるのか、と言わんばかりに目を見開いた暁。

お互いに視線を外せないまま、足を踏み出そうと

したところで、暁の体がぐっと後ろに引かれた。



「おい降谷!移動だって言ってんだろ!」



大きな声がこちらまで聞こえてきて、

踏み出しかけた足を戻し、小さく笑みを浮かべて

手を振れば、むっと眉がひそめられたのが分かった。

再度急かされて、不満げな様子のままバスに乗り込む暁を
見届けてから、私も球場を後にしたその日の夕方。

携帯が一年以上ぶりの暁からの着信を知らせた。



「もしもし」

「志保ちゃん」

「うん。決勝進出おめでとう」



そういえば、暁と電話で話すの初めてだ。

昔はずっと一緒にいたから電話なんて必要なかった。

今は、どうだろう。かかってこないし、かけても出ない。

おばさんも全然連絡してこないと言っていたから

それどころじゃなかったのかもしれない。



「……髪切ったの。ずっと長かったのに」



不満げにも聞こえる声に、長い方が

タイプだったのかなとぼんやり思った。

“ずっと”と暁は言うが、

髪をばっさりと切ってからもうすぐ2年が経つ。

その事を電話越しに伝えても、返ってくるのは沈黙だけ。

何がそんなに不満なのかと、こっそり首を傾げたところで

ようやく電話の向こう側から声が聞こえた。



「でもバイトしてるのは知ってる」

「え……、ああ、おばさんから聞いた?」



自信のこもった声を不思議に思いながらも返事を返せば、

今度は短い肯定が返ってくる。

そうして短い会話をいくつも繰り返していると、

微かに暁以外の声が聞こえてきた。



「ごめん。ミーティング始まるみたい」

「ううん、電話くれてありがとう」

「いつ帰るの、北海道」

「決勝戦の日。試合観てから帰るよ」



そう答えるとまた沈黙が流れ、

暁を呼ぶ声も聞こえた気がする。

切るのが名残惜しいとでも、思ってくれているのだろうか。

そうだといいな、なんて都合のいい事を考えながら

精一杯のエールをこめて、電話に語りかける。



「甲子園も、応援いくね」

「……うん」

「おやすみ」



電話を切ると自然と深く息を吐いていて、

緊張していたことに今さら気づかされた。

画面に表示されたのは10分足らずの通話時間だけ。



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