甲子園で最後の夏を終えた暁は数日だけ帰省した。

その時期はスクラップブックに残したい物が膨大すぎて

整理が追いつかず、一部は挟み込んだままになっていた。





「え、ごめん。今日バイト」



今日は3年前まで一緒に行っていた夏祭りの日。

帰省して早々に誘いに来てくれた暁には申し訳ないけれど

暁が今年も一緒に行くつもりだったなんて知らなかったし、

そもそも私は帰ってくることすら知らされていなかった。



「え」

「あー、まあ、とりあえずあがったら?」

「……うん」



バイト先に向かうまであと一時間は猶予がある。

玄関で突っ立ってる暁を促してリビングへ向かったものの

冷蔵庫にはミネラルウォーターと

母がはまっている怪しいお茶だけだ。

仕方ないか、と普段使いのグラスと水を手に取った。

昔は手に取りやすい場所にあった筈の暁用のグラスは

見当たらなかった。








少し落ち込んだ様子だった暁も、いくつか質問を振れば

嬉しそうに、楽しそうに、時にむっとしながら、

たくさんの話をしてくれた。

そうしていると、一時間なんて瞬く間に過ぎてしまう。


「……明後日の昼には東京に戻るから」


そろそろバイトに向かわなければと腰を上げたところで、

暁がそう呟いた。

そっかあっという間だね、そう返し、

平然とした態度で玄関に向かいながら、

頭の中では二日間の予定を思い起こしていた。



「暁、明日の予定は?」

「志保ちゃんに会いに来るつもりだった」

「それならどっか遊び行こうよ。明日バイト休みなんだ」



スニーカーに足を突っ込みながら口に出した提案に

暁はぱちりと目を丸くして驚きの表情を見せたと思ったら

次の瞬間には喜々としてうなづいていた。



「久しぶりにキャッチボールでもする?」

「絶対しない」



つんと返してくる暁にクスクスと笑いが抑えきれなかった。

こんな風に軽いやり取りができることが嬉しくて

バイト先に向かう足取りも軽やかになってしまいそうだ。



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